eternal love to you

前編


―――


「な~、辻村~?」

「ん~?」

「新婚旅行、行かねぇ?」

「えっ!?」

 仲本の何気ない一言に、俺はビックリして固まった。



――ここは仲本の家。


 俺たちは収録後すぐに二人で帰ってきて、俺が作った飯を食べ、ソファーでゆっくりコーヒーでも飲んで寛いでいた。仲本はテレビを見ていて、俺は雑誌を読んでいて……

 思い思いの事をして過ごしていた矢先に、先程の言葉。俺は隣の仲本を凝視した。


「あ、まだ結婚してねーから婚前旅行か。」

「は?いや、あの…え……?」

 パニックに陥る俺などおかまいなしに、仲本は『どこにしようか。』などと呟いている。俺はしばらくの間、そんな仲本を呆然と見つめた。




―――


 俺と仲本が付き合ってもうすぐ一年。片思いをしていた仲本に、突然告白されて始まった俺たちの関係。

 最初の頃はずっと想っていた仲本が側にいる事に慣れなくて、恥ずかしくてドキドキしっぱなしだった。今でも格好良い姿や二人でいる時の優しい顔にドキドキするが、一緒にいれて嬉しいっていうのが大きいと思う。


 今だってソファーに並んで座って、何をするでもなく過ごしていた。いつもの日常だったはずなのに……

 ゆっくり振り返る仲本の顔を、見るともなしに見ていた。


「なぁ、どこ行きたい?」

「……へ?」

「聞いてた?俺の話。」

「あ……うん、一応。」

「一応って……」

 仲本は苦笑して、おもむろにテレビの電源を消した。体ごと俺の方に向けてきたので、俺もゆっくりと動いて向かい合わせになる。


「俺ら、もうすぐ一年じゃん?」

「うん……」

 覚えててくれた事にまず驚く。目を丸くした俺に、仲本はまた苦笑した。


「んだよ、俺だってそんくれ~覚えてるよ。」

「ご、ごめん。」

「謝んなって。」

「うん……」

 仲本が何を言いたいのか、いまいちわからない。俺はじーっと仲本を見つめた。


「でさ、一年を記念して旅行、行かないか?」

「え……?」

 優しい顔と声で言ってくる。俺は思わず顔を覆った。

「辻村?」

「うぇっ…仲本ぉ~……」

「わっ!何で泣くんだよ……」

「だってさぁ~……」

 わんわん泣く俺の背中を、ポンポンと叩いてくれる。そのリズムに、段々と落ち着きを取り戻した。


「落ち着いたか?」

「うん……」

「で?どこ行きたい?お前の行きたい所、行こ?」

「仲本、ありがと。でも俺……」

「俺が行きてぇの。じゃ、考えといて?」

「あ、うん……」

 少し強くそう言うと、仲本はおもむろに立ち上がった。


「中居?」

「風呂行ってくる。」

「あ、行ってらっしゃい……」

 すたすたと風呂場に向かう仲本の姿を、俺はぼんやりと見つめる事しか出来なかった……




―――


「婚前旅行!?」

「ちょっ!しーっ!」

「あ、ごめん……」

 次の日、俺はスタジオの控え室で裕に昨日の話をした。聞いた途端、大声を上げる裕の口を慌てて押さえる。

 周りを見ると近くにいたスタッフたちは忙しそうに立ち働いていて、誰も聞いていなかったみたいでホッとした。


「裕~……」

「ごめん、ごめん。ビックリして、つい……」

 裕を横目で睨むと、バツの悪そうな顔で謝ってくる。俺はため息を一つつくと、もう一度裕に体を近づけた。


「どう思う?」

「どう思うって……それってさ、プロポーズじゃないの?」

「プ、プロポッ……!」

「だってそうじゃん。婚前旅行ってさ、結婚する前に行く旅行の事であって、という事はだよ?その行った先で何かその……何か起こっちゃうって事じゃん!」

「落ち着けよ!」

 段々興奮してきた裕の肩に手をかけ落ち着かせようとするが、裕はその俺の手を振りほどいた。


「落ち着いてる場合じゃないよ、辻村くん!もし本当にプロポーズされちゃったら、どうすんの?」

「どうするって言われても……」

「何か冷静だね。嬉しくないの?旅行。」

「嬉しいに決まってんじゃん!でも何か……」

「恐い?」

 裕の真剣な顔に、俺は無言で頷いた。


「大丈夫だって!きっと良い事が起こるよ。」

「うん……」

「まぁ、あまり深く考えない事だよ。どこ行きたいか、決めた?」

「まだ……」

「じゃあ一緒に考えよーよ。」

「え~?」

「ちょっと、何そのえ~?って……」

「あはは!」

 最後には笑いに変えてしまったが、心の中ではまだ迷っていた。



――仲本は本当に、プロポーズのつもりで旅行に誘ったのか。ただ単に記念日だからとか、深く考えないで婚前旅行なんて言ったんじゃないか……なんてマイナスな事ばかり考えてしまう。


 告白してくれた時に『好きだ。』と言ってはくれたけど、付き合ってからは滅多に言ってくれない。好きだと思っているのは俺ばかりのような気がして、『俺のこと、好き?』なんて恐くて聞けない。

 一緒にいる時は優しさを感じるし、目を合わせば仲本の気持ちが伝わってくる。でも、言葉にして欲しい時もある訳で……


 本当はもう好きじゃなくなっているんじゃないかとか、一緒にいたくないんじゃないかとか思ってしまう自分がイヤでイヤでたまらない。仲本から別れの言葉を聞くのが恐かった。


 そんな時、突然言われた旅行の話。戸惑うのも当然だろう。プロポーズならどんなに嬉しいか。夢にまで見た、仲本と永遠に一緒にいられる事を誓えるのだから……


 でももし違ったら……?


 仲本から終わりを告げられたら、俺はもう生きていけない……



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