可愛いジェラシー
―――
「……なぁ~?」
「………」
「辻村ってば~~」
「…………」
「何だよ……何でそんなに機嫌悪いんだよ?」
「……………」
「はぁ~……ったく!我が儘な奴だな。」
「………!!」
仲本のため息混じりの呟きに身体が震える。俺はそっと瞑っていた目を開けた。
「だって……」
「おっ!しゃべった。」
面白くなさそうにソファーに座っていた仲本が、俺の声に反応してこっちを向く。俺は一瞬躊躇した後、覚悟を決めながら口を開いた。
「今日の取材……」
「うん?」
「今日の雑誌の取材の記者の……」
「今日?あぁ、あの美人の記者か。前もその人だったな。それがどうした?」
「………」
取材中の事を思い出したのか、仲本が顔を崩した。
あ、こいつ絶対その人の事好きだ。つぅか、前から思ってたけど結構マジで気に入ってるだろ。
あれ?俺ってこいつの恋人だよな……?
「辻村?」
「へっ!!」
知らない間に考え込んでたらしい。仲本が側に来る気配を感じて顔を上げる。怪訝な顔をした彼と目が合った。
「あ……あの…」
「だ~か~ら!その人がどうしたんだっつの!!」
あ、ヤバい……本気でイライラしてる。どうしよう…こんな事言ったら仲本に嫌われるかも知れない。でも…でも……!!
「その人にあまり近づかないで!」
「………は?」
「え?」
元からでかい目を更にでかくした仲本をボケーっと見ていた俺だったが、自分が何を言ったか思い出して顔を赤くした。
「えっ!いや…あの……」
「へぇ~ほぉ~。そういう事か。」
「な、何が?」
ニヤニヤした顔を近づけてきた仲本から距離を取る。顔だけじゃなく、耳とか首筋までもが赤くなってるのを自覚してますます恥ずかしくなった。
「ヤキモチ?」
「///……」
「そっか、そっか♪ヤキモチか。へぇ~、辻村がねぇ。」
「な、何だよ……?悪いか!」
「いや、別に悪くはねぇけど?ただ……」
「ただ?」
仲本が急に真面目な顔をしたから、俺は不安になった。
ヤバい…怒った?どうしよう……仲本に嫌われたら俺!!
「仲本、ごめっ……!」
「やべー、マジで可愛いんだけど!」
「へっ!?」
仲本に謝ろうと振り向いた瞬間、俺の体はぬくもりに包まれた。
「ちょっ……仲本?」
「どうしよ……辻村が可愛くてしょうがないんだけど。」俺を抱きしめながら何か悶えてる。俺は恥ずかしすぎて何とか逃れようとジタバタした。
「こ~ら!大人しくしろって。」
「んっ……!」
不意に触れた唇にビックリして目を見開いたら、とても優しく笑う仲本がいた。
「あ……」
「嬉しかったよ、巧海のヤキモチ。」
「ばっ……!!」
「バカで結構。」
いつものような悪戯気な笑みで再び近づいてくる。俺は今度こそ素直に目を閉じた。
―――
何も心配する事はなかったんだ。仲本の気持ちがちゃんと伝わってきたから。
あいつはあぁ見えて、人の事をちゃんと見る奴だから。本当に心を許した人にはとことん甘くなる。彼女も仲本から見たらやりやすい一人に過ぎなかったんだ。
しょうもない嫉妬をしてしまったけれど、こんなヤキモチを妬かせる人を好きになってしまったんだからしょうがないよね。これからも俺はこうやって、誰かれ構わずヤキモチを妬くかも知れない。
それもこれも全部、お前の事が好きだからなんだよ。
だから、許してね――?
―――
わざとヤキモチを妬かせてたって知ったら、辻村はどう思うかな?絶対怒るだろうから、口が裂けても言えないけど。
本当は俺がいつも不安に押し潰されそうになってるって事、お前は知らないよな。辻村は誰からも好かれる奴だから、俺が毎日毎時間毎分毎秒、心配してるって事も。
本当は辻村よりもヤキモチ妬きな俺だから、どうやったら辻村が俺を見てくれるのかそればかり気にしてる。だから卑怯な俺はこんなやり方でしか、自分の気持ちをお前に伝える術がない。
こんな俺でも、許してくれますか――?
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