一ヶ月遅れの……
―――
「……遅い!!」
「わっ!どうしたの、急に。」
「だってさぁ~……」
突然の俺の大声に、隣に座っていた裕がビックリした顔を向けてくる。俺は情けない声を出しながら、ソファーに沈んだ。
「あぁ。まだ祝ってもらってないの?」
「うっ……」
鋭い裕の指摘に動きが止まった。
「うん、まだ……」
「え~!!もう一ヶ月だよ?誕生日から何回か会ってるよね?」
「レコーディングで会うけど……あんま喋ってない。」
「はぁ~…何やってんだか、仲本君も……」
裕が頭を抱えてるのを見ながら、自分も同じような姿勢になる。そしてあいつの顔を宙に浮かべながら睨んでやった。
今日は俺の誕生日からきっかり一ヶ月。呆れた顔でため息をつく裕を他所に、一ヶ月前の出来事に想いを馳せた……
―――
「……ごめん!埋め合わせは必ずするから。」
「………」
「…………」
「はぁ~……しょうがないよな。仕事なんだから。」
「悪い……」
「そんなに謝んなよ。……時間だろ?マネージャー待ってるぞ。」
「ごめんなっ!絶対に埋め合わせするから!!」
「……あぁ…」
後ろ髪引かれるような感じで何回も振り向きながら家を出て行く仲本を、俺は作り笑いで見送る。そしてパタンと扉が閉まった瞬間、その笑顔は消えた。
「バカ、仲本のバーカ……」
リビングに戻りながら小さい声で呟く。ソファーにダイブしてため息を一つついた。
明日は俺の誕生日。二人共仕事が休みになったから、以前から一緒に過ごそうって約束していた。
最近は新曲のプロモーションで忙しくしていたので、久しぶりにゆっくり二人でいられるって喜んでたのに……
俺の部屋に帰ってきて少しした時、仲本の携帯が鳴った。真剣な顔で受け答えしている仲本を見ながら嫌な予感が頭をよぎる。そして振り向いた奴の顔を見た瞬間、何かを諦めた。
「ばーか……」
もう一度呟く。そして仲本が(俺へのプレゼントだと)置いていったクッションを抱っこして目を閉じた。
急に仕事が入った、そんな事はこんな仕事をやっている以上、日常茶飯事だ。しかも仲本の場合、歌録りのミスなどで呼び出される回数は多い。仕方がないって諦めなきゃいけない時もある。
現に俺自身もそういう経験が数え切れない程あったし、そのせいで約束が反故になった事もいっぱいあった。
だけど―――
この日だけは約束守って欲しかった……
―――
「…何これ……?」
裕とやけ酒飲んで帰って来たら、俺の部屋がとんでもない事になっていた。壁はまるでクリスマスみたいな装飾でいっぱいになっていたし、棚やテーブルには可愛らしい花が花瓶に生けてあった。
「何これ?」
先程と同じセリフを言いながらリビングを歩いていると、ふと焦げ臭いにおいが鼻をついて慌ててキッチンに入った。
「よぉ。お帰り。」
「おまっ!何やってんだよ!!」
「何って……料理?」
「何で疑問系だよ……つぅか、焦げ臭いんだけど。」
「あぁ。チキン焼いたら焦げた。」
「はぁ?」
呆れた顔で辺りを見回したら、それはそれは可哀想なくらいに真っ黒になったチキンがあった……
「っていうか、今日はクリスマスじゃねぇし。」
「わかってるよ。ちょっと遅れたけど誕生日祝い。」
「ちょっとどころじゃねぇよ……」
自分でも素直じゃないと思ったが、仲本に背を向けながら小さい声で抗議する。すると近付いてくる気配がして、ちょっと緊張した。
「ごめんな……遅くなって。」
「………」
「言い訳はしないけど、こっち向いてくれる?」
無駄に低い声でそう囁かれて耳が熱くなる。俺は無言で振り向いた。
「辻村だ……」
「ふっ……仲本だ。」
真似っこしたら途端に微笑む仲本。抱きついたらすかさず抱きしめ返してくれた。
「で?何でこんな派手なの?この前のバレンタインの時より凄いぞ。」
「遅くなったお詫びにサプライズしたくて晋太に相談したらさ。」
「晋太に?」
「どうせ仲本君も辻村君もこれからもっと忙しくなるだろうし、クリスマスだって一緒にいれなくて今回みたいな事になると困るから、誕生日とクリスマス一緒にやっちゃったら?って言われて。」
「あ、そう……」
何だか晋太らしいなって思いながら、統一感のない部屋を見回した。
ちなみに俺の誕生日は11月である。
「それでこんなんなってんのか。」
「やっぱ無理あるよな。っていうか、らしくない事して自分が気持ち悪いんだけど。」
離れたと思ったらすかさず自分の腕を思いっ切り擦る仲本を笑って見る。そして耳にそっと近づくと、小さい声で囁いた。
「ありがと。」
ちょっとビックリした後、赤くなる顔が愛おしい。ずっと見ていたらまた抱き寄せられた。
「巧海……誕生日おめでとう。」
「……亘、メリークリスマス!」
「ふはっ!」
「ふふふ……」
思わず噴き出した仲本につられて俺も笑う。ふと目が合った瞬間、二人の唇は重なった。
―――
「ところでさ、あの花何ていう花?」
テーブルに置かれている花を指差しながら仲本に聞く。仲本は何故か照れた顔をしながら言った。
「デンドロビューム」
「へぇ~、聞いた事ない花だな。花言葉は?」
何気ない一言だったが仲本は一緒言葉に詰まった。
「?」
「内緒!」
「えぇ~~!?教えろよ。」
「ヤーダ。知りたきゃ自分で調べろ。」
「冷てぇな~」
全身から照れてますオーラを振り撒きながらキッチンに入っていく仲本を見る。そして明日絶対に調べてやると心に固く誓った。
―――
『デンドロビューム』
わがままな美人、天性の華を持つ
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