逆転バレンタイン♪


―――


「ただいま~。……って何だ、この匂い?」

 俺は靴を脱ぎながら鼻を鳴らす。そして欠伸をしながらリビングのドアを開けた。


「仲本~いるんだろ?」

「お、お帰り。辻村。」

「……何やってんの?」

 思わず持っていたカバンを落としてしまった。板前みたいなエプロンをした仲本がキッチンから出てくる。


「何ってチョコレート作り?」

「何で疑問系だよ……」

「だって今日バレンタインじゃん?どうせお前忙しくて用意してないんだろ?だから今年は俺が、さ。」

「………」

 開いた口が塞がらないとはこの事か。俺は目だけをキョロキョロ動かして周りを見た。


「で?これは?」

「うん?」

 首を傾げた仲本に向かって俺は壁を指差した。


「この飾りつけは何?」

 指差した先には綺麗に飾りつけられたリボンやテープ。まるで誕生日パーティーみたいな部屋の中を見て苦笑する。


「あれ?バレンタインらしくない?」

「……はぁ~」

 仲本らしいと思いながら力が抜ける。その時、タイミング良くオーブンが鳴った。


「あ、出来た。」

「え?あ、ちょっと!」

 そそくさとキッチンに入って行く仲本について行ったら、ぷ~んと焦げくさい匂いが鼻をついた。

「げ……焦げてる…」

「わっ!お前何分にしたんだよ?」

「えっ……と、何分だったっけ?」

「はぁ~………」

 再びため息をつくと仲本からエプロンを奪って脇に置いた。


「辻村?」

「もういい。俺がやる。」

 俺は焦げてしまったやつを退けてまだ余っていたチョコを湯煎し始めた。黙ってしまった仲本をちらっと見たら何とも言えない顔をしている。俺は思わず噴き出した。


「何て顔してんだよ。」

「だってよ、せっかく俺が作ってお前に渡したかったのに……」

「気持ちだけで十分だよ。」

 あっさりと言いながらも内心はとても嬉しかった。あの仲本がこんな事をしてくれるなんて。チョコどころか料理なんて今までした事なかったのに、俺の為に一生懸命になってくれた事に感動する。チョコをかき混ぜながら俺は一人口端を緩めた。


「ありがと。」

 小さくそう呟くと後ろから抱き締めてくる。そして耳元で囁いた。


「好きだよ。」

 チョコレートの匂いに包まれながらの告白。俺は全身真っ赤になりながら微笑んだ。




―――


 らしくないサプライズは失敗だったけど、お前の精一杯の告白だけで心は満たされた。


 チョコレートよりも甘い甘い一時を、どうもありがとう……



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