第二面(ウラ) 生徒失踪の「謎」


「ここで間違いないのね?萱都里くん。」

「うん。間違いなくここだよ。」


サユリの手元のスマホから聞こえてくるカヤツリの案内で連れてこられたのは、

学校から150mほど離れた人気のない小さな公園だった。


「近所の監視カメラを確認(ハック)した結果、不登校になった生徒の殆どがこの公園に入って行ってるんだ。」

「その後姿が消えたって事か?」

スマホの画面を覗き込んで、葉水が質問する。


「そう言うこと。葉水くんはこの前被害にあった身でしょ?何か感じたりとかない?」

「えぇ、俺?…そう言えば、さっきから誰かに見られてるような感じが…」

「またおばけ?怖いなぁ…」

深柑はその場で小刻みに震えだした。


「大丈夫だよ、深柑ちゃん。ここ、今は誰も居ないから。」

怯える深柑をなだめながら絵理花はこう続けた。

「ただ…何か『ある』気配はする。この公園に何か仕掛けられていてもおかしくないね…」

周囲を見回す絵梨花にサユリは問いかける。


「絵梨花?やっぱりここに何か秘密があるのね?」

「うん…ただ結界とか張られてたらあたしすぐに分かるし…別の物だと思う。」

「よーし。じゃあ手分けして怪しいものを探そうか。」

軽い口調で提案するスマホの中の少年。

「探そうかって、あなたは何も出来ないじゃない。パソコンで周囲の探知とか出来ないの?」

「さすがにそこまでは。サユリさんの端末だとね。」


「はぁ…なるほどね。じゃあ私と深柑は向こう側半分を探すから、絵梨花と葉水くんはそっち半分をお願い。」

サユリは取り敢えずカヤツリの提案に乗った。

「あ、皆!もし変なもの見つけたら危ないから触らずに、すぐ私に報告してね!」

絵梨花は注意事項を全員に告げ、葉水と共に探索を開始した。


探索から25分後、サユリチームの方から声が挙がる。

「絵梨花ー!葉水くーん!ちょっと来てー!」

「なにかあった!?」

「これなんだけど…」

サユリが指をさしたのは、木と木の間に縄と釘で一つずつくくりつけられた2つの手鏡だった。


「これ…!?みんな!ゆっくり離れて…!」

絵梨花の言葉を聞いたメンバーは二、三歩後ずさりした。

「これは明らかに人為的に設置された物みたいだけど…委員長ちゃん、何か解る?」

木の間の手鏡を画面越しに確認したカヤツリは淡々とした態度で絵梨花に質問した。


「これは【合せ鏡】…これには色んな意味と逸話があるけど…多分これは異界の通り道としての物だと思う。ここらへんの空間にだけ異様な気配があるから…」

絵梨花の説明を聞いて怖じけずいた深柑は無言でサユリの後ろに身を隠した。


「確かにこの感覚…この前学校で俺が体験したものと似てるぞ…この先に、誰かいる気がする…」

目の前の異様な鏡から目を離せずにいる葉水の額からはいつの間にか冷や汗が吹き出していた。

「へぇ…」とだけ呟くカヤツリ。


「何ですって!?それは凄いことだわ、行ってみましょう!!」

そんな面々を気に止めずサユリは鏡のある木に近づこうとする。

「え…!?サユリちゃん!?」

「おい、黒沙!!」

「ちょっと…!!」

絵梨花はサユリがその鏡に触れる前に、制服の襟元を掴んで力強く引き戻した。

「うっ!」


「さっきも言ったでしょ!?こう言うのは危険なの!この前は何とかなったけど、今度はどうなるか分からないんだよ!!」

絵梨花は声を荒げてサユリを注意した。

「あ、そうね…ごめんなさい、私…」

「いや、分かってくれれば良いよ…」


気まずそうにするサユリをよそにカヤツリは淡々と意見を述べる。

「…でもさぁ。この先に居なくなった生徒、いるかもじゃない?もしそうだったら早く助けないとマズいかもね。」

「それだったら…神社(うち)の人達を呼んで、なんとかして貰えば…!」

絵梨花は必死に抗議するが、カヤツリは態度を変えず話を続けた。


「うーん。今、僕たちは勝手にこういう調査をしてるわけだからね…今回のことで、それがバレたら色々まずいと思わない?例えばこの部活の存続とか…」

「だっ、ダメよ!それは…!」

カヤツリの言葉を聞いて動揺したサユリは会話を遮るように声を発する。

「サユリ…今回の件についてはあたしがたまたま見つけたって事で、神社に報告しておくから。もう今日は帰ろうよ?」

絵梨花はサユリの手を取り、諭すように語りかけた。


しかし、カヤツリはお構いなしに発言を続ける。

「でも委員長ちゃんさぁ、葉水くんも言ってたけどこの先に人の気配を感じるんだろ?最初に僕が言った通り、学校で失踪した生徒は大半がここに入って行ったきり姿を現さないんだ。中に生徒がいるのは確定だと思うよ?やっぱり早く助けてあげた方がいいんじゃない?」

「萱都里…!何なの!?さっきから一番安全なとこから偉そうに!!そんなに生徒が心配なら自分が行って助けてくればいいじゃん!!」

カヤツリの発言に激昂する絵梨花を宥めるように、葉水は呟いた。


「皆…俺、行ってくるよ。」

「…!? 葉水!あんた何を言って…」

「いや…危険って言うのは分かってるけどさ。丹治や黒沙がその危険を顧みず俺を助けてくれたから、今俺はこうして無事でいられてるんだって思うと…」

「困ってる人が中にいるなら、俺もその人たちを助けてやりたいなって思うんだよ。」

葉水はサユリと絵梨花の目をしっかりと見据える。

「葉水…」


「もちろん危なくなったらすぐ帰ってくる。丹治は何かあった時は皆を守ってくれ。」

「…決まりだね。葉水くん、ところで、君今携帯持ってる?」

「持ってるけど…」

葉水はカヤツリの声のする方へ体を向けた。


「向こうで使えるか分かんないけどサユリさんの携帯から君の携帯に僕のナビを移すよ。あとこっちと向こう側で話せるようにもしとこうかな。」

「な、なるほど…じゃあこれを。」

葉水はサユリの持つスマホに携帯を向け、自分の携帯画面にカヤツリを移した。


「ちょっと待って!葉水、これ…」

絵梨花自分の懐から取り出した物を葉水に手渡す。

「これは…数珠?」

「そう、魔除になるから持っていって。」

「あぁ、ありがとう!」

「葉水…気を付けてね。」

「あれ、僕には?」

「お前にはない。死ね。」

電子ボイスに対しては容赦ない言葉が投げ掛けられた。


「よし…行くぞ!萱都里!!」

「あぁ。頑張ろうか。」


葉水は鏡のある木に近づき、鏡に触れた。

突如、周囲の空気の流れが大きく歪み、元に戻る頃にはその姿は消え去っていた。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る