第二面(オモテ) 生徒失踪の「謎」

6月5日土曜日、放課後。

2-4教室では肩を寄せあい、1枚のA3用紙を

凝視する2人の女子高生がいた。

「…これでどうかしら、深柑。見せにいけそう?」

「…いいと思うよ!!」

「よし、行くわよ。」

二人は席を立ち窓際の席へと向かった。


さらさらとクラス日誌をつけている真面目そうなクラスメイトに声をかけ、サユリは用紙を差しだした。

「丹治さん。今良いかしら…例の原稿、これで行こうと思うんだけど。」

「うん、見せて……いや何これ。」


「《巫女さん、棒を振り回し大活躍!!》ってあたしが暴力で解決したみたいじゃないこれ。こことかお祓いの手順が逆になってる。《清め塩をなめて塩分補給》なんてするわけ無いでしょ。あと棒じゃなくて御幣。書き直し!!!!!!」

サユリは突き返された用紙を手に取って眺めた。


「うーん、手強いわね…」

「駄目だったねぇ…」

すると、廊下側から二人を呼ぶ声がした。

「おーい、黒沙!深柑ちゃん!」

「あ!葉水くんだ!」

深柑は男子生徒に向かって手を振った。


「葉水くんも来たことだし、続きは部室でやりましょうか。丹治さんも来て貰えるかしら?」

「勿論。あんたら想像以上に酷いものを書くって事がわかったからね、今日は徹底的にやらせてもらうから。」

4人はそのまま多目的室に向かうと、そこには前と同じく、顧問の藤先生が扉に背を向けて立っていた。

「あれ?また先生立ちっぱだねぇ。」

「…まさか、今日もお休みかしら?」


藤先生は廊下に新聞同好会の二人を見つけると、ポケットから鍵を取り出しながら話しかけてきた。

「あなた達ちょうど良かった、話があるのよ。」

「それと、その子は…?」

顧問に目を向けられた絵梨花は、気まずそうに自己紹介をする。


「えっと、私2-4の丹治絵利花です。今日は新聞部の取材を受けに来たんですけど…」

「あぁそう言うこと。じゃ、皆入って入って!」

顧問はそう言うと多目的室の鍵を開けた。


部屋に入ると、サユリは一番奥の机に目をやる。そこには一台のパソコンが置かれていた。

「あら、パソコンなんて無かったわよね?」

「ほんとだー!」

不思議がる二人に顧問は難しい表情をして、話し始めた。


「その事なんだけど…話があるって言ったじゃない?それって新入部員の事でさ。」

「俺…ですか?」

「あ、葉水くんの事じゃなくて。もう1人いるのよ。」

「また部員がふえるの!?嬉しいねサユリちゃん!!」

深柑はサユリに抱き付き目を輝かせる。


「ええ、そうね…でも急な話だわ。その子は今どこに?」

「それ、なんだけど…」

サユリの問いに答えながら顧問は目の前のパソコンに指を指す。

「ど、どういう事かしら…藤先生?」

顧問の言うことが理解できずサユリは困惑した。


「うーん。私「こういうの」はさっぱりで…ね、あなたから説明してくれない?あと自己紹介もねー!」

顧問がパソコンに向かってそう言い放つと、それはひとりでに起動し始めた。

しばらくすると、1人の少年の音声がスピーカーから流れ出した。


「あー、聞こえる?新聞同好会の皆さんこんにちはー。」

「…あなたが、新入部員の生徒かしら?」

サユリはパソコンの画面に向かって話し掛けた。


「おや、君は部長の黒沙サユリさんだね?どうもどうも。今日からこの新聞同好会に入らせてもらう、2-6の萱都里 草介(かやつり そうすけ)です。今後ともよろしく。」

はぁ。と呆れた表情をして顧問は口を開いた。


「そう、この子が新入部員の萱都里くん。訳あって学校には来てないの。なぜかこの前、「新聞同好会に入りたいけど、パソコン越しでの参加でもいいか」って連絡が来てね…校長先生から許可貰うの大変だったのよ?」

「ええ。その節はどうもありがとうごさいます。先生。」

パソコンからする少年の軽い口調が室内に響いた。


「あと他の部員にも挨拶しなくちゃね。君は…絹成深柑さんでいいのかな?」

「うんよろしくね!…萱都里くんすごいねぇ、音声ナビみたい!」

深柑はパソコンの画面をじろじろ見回す。

「音声ナビ…まぁそんなものかな、ここでは。」

「あとは…葉水蓮くんか、僕とはほぼ同時に入部することになったみたいだね。」

「ああ、よろしく頼む萱都里。」

「でも羨ましいな葉水くん、僕も夜中に学校で女の子に密着されて、言い寄られてみたいもんだよ。」

「…なっ、何故そのことを!?見てたのか!?」

萱都里はまあまあ、と誤魔化した。


「最後に…丹治エリカちゃん。」

「…あたし部員じゃ無いけど。」

「そうなんだ?でも…ここに入ってくれたら僕らの活動の助けになると思うんだけどな。」

「いや…どういうこと?」

「だってエリカちゃんなら怪奇現象とかお祓いとか色々詳し…」

「あーーーーーーーーー!!!!!!黙って!!!!!!!!」

甲高い声が廊下中に響いた。

「…《どうする》?入る?」


萱都里の悪質な声を睨み付けながら絵利花はこう答えた。

「わかった…。(覚えてろよ?テメー)」

「丹治さん、いいの?」

サユリは心配して声をかけた。

「はぁ…暇な時だけね?あたし結構他の仕事あるから…それに、そんなに嫌って訳じゃないから。」

絵利花はそう言うとサユリに顔を向け、少し微笑んだ。


「丹治さん…ありがとう。これからよろしくね。」

「うん、あと…あたしのことは絵利花、でいいよ。」

「ええ、わかったわ絵梨花!」

そしてサユリは再びパソコンの前に立つと画面の前に立った。


「で、カヤツリくん!ちょっとあなた勝手がすぎるわ!ここでは私が部長だから、今後そういう振る舞いは許さないわ!」

「あぁ、ごめんサユリさん。でも、エリカちゃんが入ることによってさ…僕らにはメリットがあったんだ。ほら、人数で…」

「人数?…あっ!」

萱都里の言葉で、サユリはあることに気が付いた。


「部員が5人以上なら…部活として承認して貰えるわ…!!」

「それだけじゃない、年内の活動予算も上がるし、この部屋も正式に部室になるよ。これでさらに活動の場を広げられるんじゃないかな。…っと。申請書類には後で記入しといてね。『部長』さん。」

カヤツリの発言で室内がわっ、と明るい雰囲気に

包まれた。


「…じゃあその申請手続き用の書類、取ってくるから後はあなた達でやってなさい。」

そう言うと藤先生は部室を後にした。

先生が居なくなると、サユリは全員の前に立って号令を始めた。

「そ、それじゃあ皆…今日の部活を!新聞部を始めるわよ!!今日の活動は…えっと。」

「…昨日の記事を書くんでしょ?」

「そ、そうだったわ!」

絵梨花に指摘されたサユリはおもむろに鞄からファイルを取り出し、A3用紙をテーブルに広げた。


「これがその原稿の下書きね。」

「さっき見せて貰ったけど…酷い出来なのよ、これ。」

「うわー。酷いねー…これ。」

原稿用紙を見つめて絵利花と萱都利は呆れ返る。

「ちょっと見せてくれ…なるほど…」

そう言うと葉水は用紙を受け取り、じっくりと読み込んだ。


「これ、俺に書かせてくれないか?実は俺…文章には自信があるんだ。」

そう言う葉水を数秒見つめ絵利花はハッとした表情をした。

「葉水…そう言えば葉水くんって毎回感想文とか作文とかで表彰されてた気がするけど?」

「ああ、実はそうなんだ。メモしたものとか見せて貰えれば、俺が書き直すけど。」

「葉水くんってそんな特技があったのね…頼りにしてるわ!!」

へぇー、まぁ僕も知ってたけどね、と言う萱都里の言葉を無視して作業が進み、30分ほどで原稿が完成した。


「…まぁ、良いんじゃない。これならうちのお爺様に見せても咜られないで済むと思う。」

「本当か丹治?よし、完成だ!!」

「やったね!」

喜ぶメンバーをよそに、サユリはB3用紙の下方を見つめる。


「…うーん。昨日の記事が完成したのは良いけど、あともう幾つか記事を載せないとスペースが余るわね…みんな、なにかネタ無いかしら。」

そこで僕の出番だ。と言って萱都里は淡々と話し始めた。


「最近、不登校や授業を欠席する生徒がこの学校で増えてきているんだ。エリカちゃんなら良く知ってるだろ?」

「…えぇ、クラス委員として毎日出席確認と日誌を付けてるけど、最近の欠席率はハッキリ言って異常よ。…皆どうしちゃったの?」


「それなんだけど…学校に来てないだけじゃなく、家にも数日帰ってない生徒が何人かいるみたいなんだよね。そして昨日も、一年生のカップルがどこかに行ったっきり、帰ってこないらしいんだ。」

「わぁ…駆け落ちかなぁ!!」

「だったらロマンチックなんだけどね…他の生徒の事もあるし…どうにも怪しいと思わないかい?」

萱都里の発言に目を光らせ、サユリはその場に立ち上がった。


「それ…面白いわね!皆で調査しましょう!」

「で、でも流石にそれは…何か事件に巻き込まれてたとしたら、危ないよサユリ。」

諭す絵利花にサユリはウキウキで返答する。


「何言ってるの!こんなに面白い謎があるのよ?それを調べるのが私達の部活動じゃない!」

にやけた口調でカヤツリはこう続ける

「…他の皆はどうかな?気にならない?」

「私も面白そうだとおもうよ!」

「まぁ、俺もちょっとは気になるかな…?」

「じゃ、決まりだね。」


生徒失踪事件という新たな謎を見つけた新聞部は、事件の調査に向けて準備を進めていった。





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