第一面(ウラ)「巫女JK」夜の校舎で除霊に臨む
「誰かいるわ…中に…男の子?」
サユリは薄くかかった靄を手で払いながら、開いたドアの先に進もうとする。
「サユリちゃん…?どうしたの!?」
「は、入っちゃ…駄目…!!」
「でも、あの子苦しんでるみたい、何か出来ないかしら…!!」
「ふん…あんたも、大概お人好しじゃん…」
そう呟くと、絵利花は自分の鞄を力なく指差した。
「行くんなら…私の鞄の中にあるお札と、この塩を持っていきなさい。塩は部屋の四隅に撒いて、お札は…このドアから一番遠い壁に貼りなさい…わかった?」
「…わかったわ!深柑、丹治さんをおねがいね!!」
サユリはそれらの道具を受け取り、部屋の中へ入っていった。
「それにしてもあの子、よく中の様子が見えるなぁ…この密度なら、霊感がなくても…うぅっ。」
「あっ委員長さん、大丈夫?えっと…大丈夫だよ!わたし、私がいるから!!」
深柑は懸命に絵利花を励ました。
「うん…それよりあんたは、この靄に触れても何ともないの?」
「…? もやって、何のこと?」
会議室の中の空気は異常なほどに重たく、足を一歩踏み出す度に、歪んだ圧力が全身を揺さぶる様な感覚に襲われる。
「何これ、頭が…ぐらぐらする…」
「でもまずは、これね…!」
サユリは入ってすぐに、入口に近い角の隅に、渡された塩をつまんでふり撒いた。
すると、部屋の重圧は少し軽減され、身動きが取りやすくなった。
「これなら、あの子を救いに行けそう…!」
サユリはそう言うと、部屋の中心の生徒に向かって声をかけた。
「ねぇ、大丈夫!?」
男子生徒は声に気付くと、怯えた表情でサユリに顔を向ける。
「ぅうううう…助けてくれ!何人もの声が頭の中で叫んで…!!」
「とにかく、この部屋を出ましょう?…立てる?」
苦しむ男子生徒に駆け寄り、肩を支えようとサユリの手が触れた瞬間、男子生徒はハッとした表情で呟いた。
「あれ…なんだか急に楽になった…。もう苦しくない。」
「えっ本当…!良かった!」
サユリは男子生徒に屈託の無い笑顔を向ける。
「あぁ。ありがとう…!」
しばらくして、会議室から出てきた二人は入口の深柑達と合流した。
「サユリちゃん!」
「無事だったのね…安心した。」
サユリは絵利花を見ると、申し訳なさそうな顔をして言った。
「丹治さん…ごめん、まだ塩1ヶ所しか撒けてないのよ。私もう一度行ってくるね?」
「いや、あたしが行く。そのお清めだけでかなり動けるようになったから。」
「それに、本来あたしの仕事だし。あんたは良い記事がかけるように、そこで見学しててよ。」
そう言って微笑むと絵利花はすっと立ち上がり、道具を揃えて会議室の中に入っていった。
「なんだか委員長さん、かっこいいね…!」
「そうね深柑。しっかり記録して、良い記事にするわよ!」
「記事…?君たちは新聞部なのか?」
興奮する二人に男子生徒が話しかける。
「いいえ。私達は新聞同好会で、人数がもっといれば部活として認めて貰えるんだけど…」
「そうなのか…」
サユリは寂しそうな顔をするが、男子生徒の顔を見て何か思い付いたような顔でこう言った。
「…そうだわ!あなたここの生徒よね!名前は?新聞とか興味ない?一緒に活動しない!?私達と!!」
ぱっ、と両手を握られ顔を近づけられた男子生徒は顔を赤らめ窓の方向に素早く視線を反らす。
「あっ、えっ!?ぼ、名前は葉水蓮(はすい れん)、だけど…!?顔近っ…!!!」
「葉水くんね…!私は二年の黒沙サユリ!で、どう?新聞同好会入ってくれる?」
「それは…良いけどさ。距離が…その。」
「あははサユリちゃ~ん!!そんなに近寄ったらはすいくん照れちゃうよ~?」
深柑は楽しそうに葉水の上着を引っ張る。
「き、君は!?」
「わたしは深柑~!よろしくね!」
三人が盛り上がっていると、後ろから怖い顔をした巫女が現れた。
「お祓い、終わったわよ?」
「あっ…た、丹治さん。ご苦労様ね。」
「いい記事、書けそう?」
目をニコっとする巫女、口元が全然笑っていない。
「ごめんなさい…お話、聞かせてください…」
「まったく…」
サユリはしょんぼりとして、ポケットからメモ帳とペンを取り出し、その後は真面目にメモを取った。
「…終わりね。それじゃ皆、今日は帰りましょうか!明日は部活でね!葉水君も!」
「あぁ、よろしく。」
「明日はあたしがしっかり検閲するから、ちゃんとやりなさいよね?」
「…プレッシャーだねぇ。」
4人はそれぞれのコースで、帰宅していった。
…一時間後、深夜三時半。
もう夜の校舎を歩き回る者はいない。夜の冷えた空気が、薄暗い廊下を通り抜けるだけだ。
非常階段の緑色のライト以外に校舎の白い壁を照らすものは無いが、唯一。
4階の多目的ルームの中にだけ、小さな灯りが灯っていた。
「…うーん、pcの電源は落としてって僕言ったんだけどなぁ。あの先生意外と機械に弱いのかな?それとも、人の話聞けないタイプ?まぁ、それはあんまり僕が言えた事じゃない、か…」
耳をすませば聞こえる程度の少年の愚痴は、青紫色(ブルーライト)と共に静かに消えて行った。
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