第45話
季節は変わり秋になった。
僕達はその日、秋季サッカー大会に出ていた。
試合は相手のエースにハットトリックをされて完膚なきまで叩きのまされた。最後の選手の整列が終わると僕は悔しくて地面を強く蹴った。
僕は故郷でするべきことが全て終わったのを感じた。
履いたスパイクが重く、僕は何も言えなかった。この頃になると皆は僕が町を離れ大阪へ行くことは知っていた。
事実、僕は明日大阪へ向かう。
「ナッちゃん」
勝彦が僕に声かけ来た。
「負けたね」
うんと言った。
「皆と最後の試合だったから勝ちたかったけど、負けちゃった」
ツトムが僕の肩を叩いた。
「また、宮崎に帰ってきたらしよっちゃ、サッカー」
僕は頷く。するとツトムが真新なサッカーボールを出した。するとボールをポンポンと叩いた。
「ほら、ここに皆でナッちゃんへコメントいれよう」
そう言うとツトムがマジックで言葉を書いた。それを皮切りに試合に出た皆が次々にコメントを書いていく。
最後に勝幸が書いた。
じっと僕を見てそれを渡す。
「ナッちゃん、泣くんじゃないっちゃ。もう泣いたらいかん」
そう言いながら笑うと勝幸は下を向く。
ボールを受け取りながら僕は皆の顔を見た。
僕を見る皆のユニフォームが泥で汚れていた。その泥と汚れは今日が僕とのラストゲームだと知っていたから誰もが力を抜くことなく戦った証だ。
僕は満足した表情で空を見ながら言った。
「うん、また僕はここに帰って来るよ。それで皆と戦う。だから僕はそれまで大阪で頑張って強くなるよ。強くなって、皆に負けないくらいの大人になってまたここに帰って来る」
「本当か?」
ツトムが少し茶目っ気ぎみに言う。
「おう!」
そう言うと皆が一斉の僕の頭を叩きだした。
やがて叩く音が集まって僕を囲むとやがて輪になった。
自然と円陣を組むと、僕は言った。
「頑張れよ、皆!次は負けんなよ!!絶対約束だそ!!さよなら!皆元気で!」
皆が一斉におう!と言って円陣を崩した。それぞれの顔は皆からりとしていて莞爾とした笑顔だった。
だれも別れの寂しさなどみじんも感じさせなかった。
やがてそんな僕達の側に監督がやって来て言った。
「写真を撮ろう。試合には負けたけど、明日勝つための記念に」
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