Quanji-25:闊達デスネー(あるいは、尋常/刃傷/案の定)
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少しは働くようになった脳の中で、まるで大地震に見舞われた活版印刷工場みてえにぶち撒けられたような混乱を見せている活字の海を這うようにして、何とか目当ての「十七文字」を探し拾う作業に従事していると。
「この<
悟ったような感じで来られるのは、まじで隙が無さすぎるからやめて欲しいもんだぜ。もっとこう……侮らんかいぃ。
長尺で
左脚に
何とか「闘技場」の壁にずり上げるようにして上体は起こしてたが、神経を直にしごかれているかのような激痛は走るわ、もう何か極度の痛みを与えられると気持ち悪くなってえずき吐きそうだわで状態は最悪だぜ……そして野郎はマジで俺の息の根を止めようとしてきてやがることに思いが否が応にも馳せてしまってそれがさらにの吐き気を加速させる……打つ手、ねえのか?
「……」
援軍が都合よく現れてくれるわきゃあ無えよな……もともとタイマンタイマン言うてたし、他の奴らも今頃は戦闘真っただ中なんだろう……よしんば敵さんを既にブチ倒し勝ってたとして、
……俺をわざわざ助けには来ねえよな……
当然の帰結とは言え、この虚しさは何なんだコノヤロー。もっと、もっと人に優しくしとくんだったぁぁぁぁぁ……ッ!! とのこの期に及んでのあからさま過ぎるおもねりに、当の本人が引く。心にも無いことをのたまう選手権があったとしたら永世称号を賜りそうなほどの己の空虚さを
刹那、だった……
俺の右耳の上らへんに、ぽこりと浮かんだ「文字」。それは誰あろう、相棒どのの心強い「通信」であったわけで。俺は、見捨てられてなんかいなかった。文字の羅列、それもたったの「七文字」だったものの、おそらく相棒は相棒でのっぴきならない事態に陥っているのだろう……それでも、伝えてきてくれた。俺のために。初対面からいい奴に違いねえとは思っていたが、まさかこれほどとは……
急速に、肚が据わってきていた。巨大ハンマーを携えた野郎との彼我距離は五メートルあるか無いか。のっぴきならない近接距離。脚がままならねえ俺にとって、次が最後の攻防って奴になるか?
……「防」の概念はもはや無えがよぉ……ッ!!
顔がひん曲がるほどの激痛を何とか堪え、右脚だけの一本脚剣法へと移行する。既に手にした「刀」も一本にしていた。可能性を追え。俺は俺だけの<刀>で、斬り拓く……未来をぉぉぉぉぉぉッ!!
多分にらしからぬ真っ当正義感に、己自身が最も胡散臭さ鼻をつく状態であったものの、もうここまで来たら自分にへべれけに酔ってブチかますしか無えぇぇぇぇぇッ!!
「……その脚で、向かってくるとは敵ながら天晴ッ!! であれば苦しまずに一発で沈めてやるわぁッ!!」
野郎はこれでもかのテンプレ台詞を繰り出してきやがりつつ、何故か満足したかのような顔にて、手にした得物をさしたる重みも感じさせず片手で背面へと思い切り振りかぶりやがった。かなりの隙を晒してるが、それで充分と見たんだろう……
舐められたもんだぜぇぁぁぁあああああッ!!
思えば、「熟語」にこだわる必要は無かった。「一刀両断」とか「二刀流」とか。うんまあ何かそっちの方がカッコええ……みてえな中二感が無かったと言えばまああれだ。あるある。そういう技名言い放ちつつキメたいってのはどんなに年喰っても多分抜けんのだろうね……だが今はその堪えがたき誘惑に封をして。
「……!!」
野郎の大上段の一撃、相当な質量、そして速度。掠っただけでも大打撃。それは既に肌で感じ取っていた。それが俺の頭上に迫る。避けようもないタイミングで。しかし、
「……『割る』」
俺は力みなく掲げたてめえの「刀」にほんの少し力を込めるに留めた。なぜなら頭の中で「こうなる」と想像したことが、したことのみが、
「何ぃぃぃぃぃ……ッ!?」
万障繰り合わせの上での、絶対無敵な
俺の刀に触れたハンマーが、まるで包丁を入れた絹ごし豆腐が如くに。見事真っ二つに割れていくのを視界の尻目に、
「『切る』『分ける』『刈る』『刻む』『刺す』『削る』ぅぅぅぅッ!!」
動詞を。刀の部首魂を持つ動詞を並べ連ねて、
「『”刹”那一”刀”斬』……」
とどめの「五文字」はどんだけ寿命削られるかは分からねえが。
「……!!」
目標相手に断末魔も上げさせず、俺は瞬間ののち、一撃にて斬りのめしていたわけであり。
決着……ッ!! あくまで華麗に……(キマった、にくいほどに……)
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