Quanji-24:鮮烈デスネー(あるいは、波動は覇道に沿うて/覇権を派遣するばかり)

 屈強頑強な<たてぼう>使い、イチヴォと名乗りし原人系パワーファイターは、しかしてそのファーストインプレッションで受け取った外面そとヅラ感に反して、戦い方は繊細冷静であるという、流儀テンプレをわきまえないがゆえにおそらくはやりづらそうな強者的輩だろうっつー事に、これでもかの緊迫戦闘雰囲気で二度三度斬り結ぶことにてようやく思い知らされ始めている俺がいる。


 だだっ広い「コロシアム」に敷き詰められたというかそれに満遍なくまぶされているくらいまである、乾燥した黄色い砂埃土煙が、俺とヤロウの激しい踏み込みによって、辺りの視界を遮るくらいにまで舞い上がり立ち込めるほどになってきた。「幻」であろうはずなのに、この、目と喉に来る違和感は何だよ畜生……そんな中、相変わらず降り落ちて来るのは血気盛んな「観客」共の無責任な怒号ヤジであったが、何でか俺には「コーローセ、コーローセ」って感じに聴こえる……開幕からあまりに自然過ぎてつっこみどころをついうっかりしてたが、この世界、普通に「日本語」で喋っておるよな……改めて考えて腑に落ちない感はあるものの、それも「流儀」であるなら疑義を挟むってのは野暮ってもんだぜ……みたいな、どうにも定まらない思考で、俺はまるで何者かに操られるかのように順応しているが。


 とか、状況の分析は後だ。左後方に飛びのいた俺の身体を掠めるようにして真上から撃ち込まれてきたのは、これでもかのパワー系な得物であるところの、スレッジハンマーっぽい佇まいの逸品……ヘッド部にはご丁寧に大小あまり機能美的なとは言いづらいほどに装飾的にごてごてとスパイクがずらり展開しており、これが杭を打ち込むとかの作業用具では無いことを無駄に雄弁に、やられる側は望んでいないものの物語ってきておる……柄の長さは俺の身長くらいあるんじゃねえか? そんでもってその質感も鈍くテカる金属質なんだが何かさっきから見てると振り下ろしてる瞬間とか薙ぎ払う瞬間とか、異様にしなったりして不規則な挙動をカマしてきてこっちの意表をついてきやがるよこんな地味な能力の使い方もあるってことかよ「二刀流」とか分かりやす過ぎるハッタリをかましたもののその実、あんま扱い慣れてねえから刀に振り回されちまってばっかりの俺は柄にも無く(内心)赤面しちまうものの。


 割とガチいタイマン模様に、いやこういう時でしょこういう時こそ謎の「漢字」くんを使うべきでしょうよぉ、と俺の中のオネエじみた何らかの人格がそう言い募ってくるが。


 これ以上あまり寿命は削りたくはねぇんだなこれが……ピラミッド突入の前段でこれ以上なく爽快に決まったあの俺的ザコ敵一掃最大級必殺奥義<一”刀”両断>だったが、代償がてめえの命一か月分たぁ、だいぶ分が悪ぃし割にも合わねえ。「四文字熟語」……その分発動した威力もハンパ無かったわけだが、もうあまり使いたくはねえ……ただでさえ我が誇り高き小鳥捕食タカアリの血筋は短命が多い……かくいう俺も幼い頃は病気がちでろくに小学校通えてねえわの病床の日々だったわけであり。


 そう、でもってそれにてうつろな記憶って奴が甦ったんだが、漢字……って聞いて胸がざわめかなかったと言ったら嘘になる。小学校の頃の半分くらいを過ごした山ん中の馬鹿でかい病院の二階すみっこのやけにしんとした病室は、それでも開け放した窓から子供らが遊び叫び騒いでんだかの声がうわんと遠くの方で鳴っているようでもあり。日中は外には絶対出られんかった俺が、やけに糊の利いたシーツの上で眺めていたのが誰かが持ってきてくれた「漢字なぜなに字典」全六巻だったっけか。漫画といやぁそれしか無かったから、その、漢字の成り立ちに無理やり合わせた荒唐無稽なストーリーにでさえ、のめり込んで何周したか覚えてねえ。


 その話の主人公たちに、何だ、似てんなおい。


 何なんだろうなぁ? この、引きずり込まれてからの諸々は。ま、考えても詮無いっつうことだけは分かるぜ。であれば、もう俺の「漢字」をぶちかます他は、ねえ。無論、いのちはだいじにだが。なぜならば。


 ここに来るまでに無為に喰らっちまった開幕猫ビームに、そしてその後に何回かあのイカれ女にヤマイ系のヤバイ系を撃ち込まれておそらく俺の寿命は一か月とは言わずその二十倍がとこはごっすりヤラれている可能性も否定できねえからだ……


 鉄火場にブチ込まれてからこっち、こうなりゃ億単位のカネを掴んで、ゆるりとグダグダ暮らすが我が崇高たる目標にしたると、定めた……であれば、その輝く未来の先を削ることは、例え一日たりとも許すわけにはいかぬでござる……


 急速に俺の中の武士サマラーイが目を覚まし始めてきた。かと言って刀捌きが向上するなんてことはあり得なく。


「……!!」


 ただただ休み休み出来ねえ馬鹿バカが馬鹿力で全弾全力で撃ち込み払って来るいかにも重そげな一撃を丁寧に交わしていくのが精一杯なわけで。体は軽い。動きもまあ機敏。「酸素濃度」だ「低重力」だのちびっこいのがのたまっていたように、俺ら「転移組」の有利アドバンテージがどうやら働いてくれているようだが、まあだからといってイコール超人並みの所業には至らねえだろうがよ、と実際やってみての感想が今更ながら身に染みて。


 いるばかりもいられねえ。


 さっき避け損ねてハスったあのスパイキングハマーの棘っこは、俺の青白い華奢なる右の二の腕を、学生服の厚手生地を斬り払って露出させていたばかりでなく、その皮膚一枚をも引っ掛け裂いていたわけで。鋭利な痛みは後から来るな……目に映る全体のVRっぽさはやっぱ似非エセだ。


 現実リアル。少なくともこの「世界」に叩き込まれた俺らにとってはこれがまぎれも無い純度100%のリアルだよ多分のっぴきならない事が起こったらのっぴきならなくなるに違いねえよいつまでも夢見浮かれ気分じゃいられねえよ……「漢字」だ「漢字」。乾坤一擲の技を生み出さねえことには状況は打破できねえ……


 しかして。<刀>って、意外と思いつかねえ……相棒は「りっとう」がどうとか言ってたけど、唐突に「栗東りっとう」言われてもトレセンがあることしか知らねえし、そもそも「栗」も「東」も刀は関係なさそうな……


「!!」


 ガラにも無く頭使って考えていた。それがいけなかった。性懲りもなく俺の足を払うようにして薙がれた一閃。かと思って結構余裕を持って交わしたはずのその一撃が。俺の左膝裏を真芯で捉えていたわけで。


 何かが破裂したかのような感覚がした。膝の皿が割れんならともかく、その裏側だぜ? とか思う間もなく熱い激痛が。


 痺れと攣りがいっぺんに来たのかと思うほどの初体験な感覚が俺の全身から血の気を奪い、脳からはまともな思考を奪い去る。


 その後やって来たかの衝撃が、俺の身体を低重力でございとばかりに軽く背面側へと吹っ飛ばしていく。


「がっ……!!」


 黄色砂を全身にまぶされるかのようにして、転げ跳ね飛ぶ俺の身体。そのまま叩きつけれた石壁の感触は、右肩が全部吸収してくれたといったらいいのか。またも顔がひしゃげるほどの激痛。呻き声すら上げられずにそのままの姿勢で倒れ伏すばかりの俺。


「貴様の避け方の間合いを測っていた……わざと、単調な一撃に徹してな……そして渾身の一撃が放てる瞬間を狙っていた……」


 でかぶつが何か悦にいった感じで解説かましてきやがるが、痛みはやっぱリアルだ。それが何より根源的に揺さぶってきやがる……認めるしかねえなもうこれは……肚をくくるしかねえ。


 と思考は勇ましいながらも、ぶるぶる横隔膜発の全身の震えが止まらねえ。どうすりゃ……あ、そうだぜ相棒に聞きゃあいいんじゃねえか。俺はあの頭に思い浮かべるだけで「十七文字送れる奴」を右側頭葉あたりに浮かばせ、送信できてくれーとの果敢ない願いを込めてそいつをいちばん頼れる奴向けて念じ奉るが。

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