Quanji-22:愚鈍デスネー(あるいは、創造翼だけは/誰も奪えないところタッカラー)


 いきなりとんでもない事を美麗妖精に真顔で促された僕だったのだけれど、ええーと「それ」をいたすことで何か強力なパワーでも生まれるというのでしょうか……でも、ええーと何から。


「いやあの大丈夫かなその……サイズ的にというか」

「無問題ですマイマスターッ!! しかるべき時にはしかるべき……この場合はマスターのサイズに合わせ伸展しますゆえッ!! そ、その辺は見た目よりも……じゅ、柔軟性あるんですよ?」


 小首を傾げられながらそう赤らめた顔で悪戯っぽく言われてしまった。えーとえーと。


「と、とは言えこのような非常事態で……その、僕の方もね、恥ずかしながらさらに初めてでもあるわけでして、あの、うまく機能するかどうかが非常に不安なんだけれど」

「……こういう時だから、こそですよ? マイマスター。だ、だいじょうぶ、マスターはそのままで、ボクの方から……行きますから……」


 高速飛翔とランダム旋回を繰り返しながらという明らかな異常事態であるものの、至近距離で交わされる艶っぽい言葉は妖精ちゃんの湿っぽくなってきた吐息と共に紡がれ出されてくるわけで。それは確実に僕の視覚聴覚嗅覚を司る器官に染みわたっていくのであり。僕はもうそろそろ慣れて来ていたはずの非日常感に、改めて酩酊させられていくような感じを覚えるばかりだけど。しかし、


 ……例えいかなる場合であろうとも、据え膳は喰らうが漢……


 欲望という名のヘドロじみた何かを、男気という真綿のような、液ものを包み込むにはいささかザルであるところの何かでくるんだような思考が浮かぶ。だがそうだよ、断じて心に疚しきことなど何もないッ!! 目の前の敵を倒すため!! それが異世界の流儀と言うのならッ!! 臆せず飛び込む、それがこれからの僕の生きざまよぉぁぅッ!!


 ふ、と脳裡に僕をこれでもかと蔑むように見下ろしてくるエンドーさんのビジョンが浮かんで来てしまうけど。その汚物を睥睨する嫌悪混じりの顔が、図らずも僕の血流脈動にさらなる推進ブーストを与えてきてしまう……ッ!!


「エレクト=リック・パゥワー『400%』充填完了ッ!! いきますよッ!! マイマスターぁぁぁあッ!!」


 妖精ちゃんが顔を強張らせながらも、その柔らかそうな青銅色の髪を向かい風にたなびかせながら、そしてその下に覗く艶めくうなじを見せつけながら、「鼎」のふちに登り上がると肘膝を伸ばしたまま四つん這いの姿勢を取るのだけれど。ええ? この状態で? 僕はこれに掴まっているだけで精一杯ですぞぉ……?


 とか思ってた、その刹那だった……


「『漢闘衣クロス』展開ッ!! 『かなえTHE青銅ブロンズ聖★漢闘士セカント』へッ!! ッ……」


 のっぴきならなすぎる単語群が、流星のように虚空を駆ける……瞬間、妖精ちゃんが乗った「鼎」が青銅色の光をその内側から放ったかと思った瞬間、その鍋状の物体は自らいくつかの破片パーツに分断されたように見えた。


 その後に続いた言葉が「シン」なのかはたまた「タイ」なのかは聞き取れなかった。それを上回るほどの激痛が、僕の全身を貫いたからだ。


 しゅれでぃんがぁおあねこ、みたいな呻き声が、反り返りきった僕の喉元から放たれる。両肩、両腕、胸、腹周り、両膝に、断続的に熱された焼きゴテを押し当てられた感覚が与えられた挙句、とどめとばかりに額の所に妖精ちゃんの身体が変化した金属の輪っかのようなものが嵌められ、ようやくそれで一応の波は引いていくものの。


 思てたんとちゃうというよりは真逆も真逆の感覚をぶつけられ、予期せぬコトに備えもしてなかった僕の身体は激痛に震わされつつ中空でのけぞったまま、そのまま滑るように麦畑の上空を流れ行くけれど。え? 飛んだまま?


「……!!」


 自らの身体を、白目がちだった状態から何とか黒目を降ろして確認してみる。そこには、「鼎」を叩き割った破片のような、前衛的な金属オブジェ的なものが、学生服の上から吸い着くように貼り付くようにして、熱を感じた部分にきちりと装着されているのが見て取れたのであって。


 それは何だか僕の身体を防護カバーする保護具のような、グラデュエーター達が身に着けるような革のプロテクターのような、もっと端的に言い表すことは可能なのだけれど、何故か思い出せないあのあれに酷似したるものなのであった……


<『合身体イナコース』完了……さあ、今こそ心の『島宇宙トスモ』を燃やして叫ぶのですマイマスターッ!! 己の、衝動のままにッ!!>


 意識まで合わさってしまったのか、妖精ちゃんの「声」が僕の脳内に響いてくるようになったよ、そして「島宇宙そのたんご」も共有化されてしまったようだねもうこりゃ言い逃れは出来そうもないよいいんだねもう……


 完全なる諦観が僕の脊髄を貫いた時、


「おおおおおおおおッ!! 『島宇宙トスモ』よ僕に、囁きかけろぉぁッ!!」


 開き直りという名の全能感が、脳の中のキマるべきところにキマったような、そんな「覚醒」と言うべきなのかいや言うべきではないだろうな的な感覚がしたと思うやいなや、既に僕は声帯をこれでもかと震わせておったわけで。


 舞い降りて来ていた、己を表すその言葉を言い放つんだッ!! 意味不明の義務感はそれでも確実に僕の精神の背中を押して来て。次の瞬間、


「『アーク聖★漢闘士セカント』ッ!! 『カナエJYU×丹生人ニュート』……爆……誕ッ!!」


 炸裂する青白い光の奔流。を背に、自分でも何でか分からんうちに、中空にてこれでもかのキメポーズ。そして自分でもよう分からんのたまいを意識を何者かに操られるかのように解き放ってしまっているのであったェ……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る