第7話:家族

 その日の晩、夢を見た。


 家族四人でレストランに行く夢だ。


 ホテルの高層階にあるような高級店なんかじゃなくて、ランチセットが千円もしないような大衆的なファミレスだ。夢の中の私は妹よりも幼く小学校三年生くらいで、メニューの中から何を注文しようか迷っていた。隣に座る母親はにこやかな表情で、ひとつずつ上から順に「これはどう?」と訊いてくる。ただ悲しいかな、ファミレスにほとんど行ったことのない私にはメニューに載っているものの具体的なイメージがなく、ハンバーグ以外はすべて真っ白だった。


 結局私と母親は同じハンバーグプレートを注文する。ソースは私がBBQ、母親はおろしポン酢だ。


 セットのドリンクバーで、私はオレンジとコーラをブレンドした。ホットコーヒーを少しずつ飲む母親は、夢中でジュースをストローで吸う私の頭を撫でた。


 やがてハンバーグが届き、私は慣れない手つきでナイフを動かす。BBQソースの入った器に大切りの肉を浸す。一口で頬張ると、肉の旨みとソースの甘みが口いっぱいに広がった。途中で母親と一口交換したが、おろしポン酢もさっぱりとして美味しかった。


 皆が笑顔で、私は最高に幸せだった。






 いつもより早い時間に目が覚める。心なしか、部屋の空気がじっとりとしている。着替えてからリビングに降りると、テーブルに一枚の紙が置いてあった。




『今日は家族三人でお寿司を食べてくるので、帰りは遅くなります』




 今日は妹の中学の卒業式の日でもあった。もう三人とも、出かけてしまったらしい。


 重石替わりに置いてあった夕食のカップラーメンは、いつもより高いやつだった。




 ただ、容器を覆うビニールには、半額のラベルが貼ってあった。

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