第7話 田島冴子の不幸

 

 田島冴子、私は自分の容姿にはかなり自信があった。

 少し茶色に染めた長い髪。顔立ちも整っているし、街中に出ればかなりの確率でナンパかスカウトが来る。

 自意識過剰なのかもしれない。

 それでも私は何度も告白されてふってきた。

 そして私は中学の時に田野森武蔵と出会った。

 不力があるかないかは、小学生ごろにわかるらしい。だが私は不力があると自覚するのが遅く中学で気がつき転校して一人暮らしになった。

 ここは悪魔に襲われたが生き残った子、襲われずに済んだ能力者の子が集まる場所だ。幼稚、小学、中学、高校までは希望する能力者はここに通うことができ、住むこともできる。食費も寮費も全て無料。

 中学の時に入学し、女の子は一人もいなかった。

 紅炎大介、田野森武蔵。この二人が席に座っていた。

 私は恋をしたことがなかった。

 かっこいいと思う人、魅力だと思う人が全くいなかった。

 モテモテのバスケ部の先輩に告白されても何も思わなかった。

 レズかもしれないと思ったが、女の子とは友達だとしか思わなかった。

 自分は一生恋ができないのかと思った。

 だが私は武蔵君に一目惚れしてしまった。目が鋭くシャツのボタンを3個くらい開け黒いTシャツを中に着ていた。ヤンキーぽいのに授業はしっかり聞いていたり。クラスで一番頭が良い所もギャップで死にそうだった。

 そこから私は彼に似せようと髪は黒に染めて少しヤンキーぽく振る舞おうとした。

 だが彼にはまったく相手にされなかった。

 話しかけたくても勇気が湧いてこない。

 クラスでは毎日会話がなかった。

 そして高校に上がり冬の頃。

 風慎吾という奴が転入してきた。

 顔は普通にカッコ良かったが、間抜けそうな顔だったので腹が立った。

 男なのに男っぽくない奴が私は嫌いだった。

 そして転校した日に武蔵君と喧嘩したらしい。

 勝敗はわからないが多分慎吾が勝ったのだろう。

 慎吾はとてもフィジカルが発達していた。

 足の速さも肩の力も見た目では全く想像できないぐらい私たちとは別次元だった。

 だが慎吾は不力を持っていなかった。  

 そこで少し腹が立った武蔵君が喧嘩を売ったのだろう。

 そこからクラスは悪い方向に進むと思ったが、慎吾は積極的に武蔵君と話に行っていた。

 ほとんど慎吾が話しかけても武蔵君は反応しなかった。

 武蔵君は時々しか話さなかった。

 大介は笑顔でそれを見守っていた。

 私はそれを遠くで見ているだけで置いて行かれている感じがしてしまった。

 でも風慎吾は私にも話しかけてきた。

 「お前なんで喋んねーの?」

 そう言われたが私は無視した。

 「無視!!!!!」

 オーバーリアクションをする慎吾を無視して武蔵君を見ていた。

 ふと慎吾が私の耳元に近づいできた。

 「お前、武蔵のこと好きだろ」

 「ふぁー?ーゆな、わな?!ゆゆなわやなゆなな、」

 さっきオーバーリアクションと馬鹿にした私が椅子から落ちてしまった。

 「どうしたの?」

 大介が笑いながら心配して話しかけてくれた。

 「なんでもない、なんでもない」

 慎吾が笑った顔で私を見ながら言った。

 「放課後少し話そうぜ」

 「こなかったらバラす」

 「. . . . . わかった」

 教室で私はみんなが帰っていっても椅子に座っていた。

 慎吾はいなかったけど鞄が置いてあったのでトイレに行ったのだろうと思った。

 10分が経ち、やっと手にハンカチを持つクソ慎吾がやってきた。

 「すまんすまん。うんちっちタイムしてた」

 「あっそ、で話しって?」

 「恋話だよ。恋話!!」

 「私帰る」

 「待って待って」

 「アドバイス出来るかもだし。今のままじゃダメだろ。後ろから見てるだけじゃ」

 図星だった。今のままでは何も発展しないことはわかっている。

 でもどう接したらいいのかわからなかった。

 こいつ周りを見てるんだな。

 意外だった。

 「それで告白しないの?」

 「す、するかよ!!!」

 「いや、してた方がいいぞ。光導隊に入った以上いつ死ぬかわからない。今の内に悔いのないようにしたほうがいいよ」

 慎吾は少し寂しそうな顔をしながら言った。

 「まだ誰も死んでもないのに寂しい顔すんなよ」

  . . . .

 「そうだな」

 慎吾は笑いながらそう言った。

 慎吾の顔は悲しそうな顔はしていなかった。いつもの笑顔をしてくれている。彼の顔はいつもの馬鹿そうな顔ではなかった。何か大切なものが壊れてしまった時の喪失感が感じられた。「新しいのを買ってあげる」そう言われても苦笑いでありがとうと答える一歩大人に近づいた子供のような自分の本心を抑えた彼の顔は悲しか切なかった。察した方がいいのかもしれない。聞かない方がいいのかもと思う。触れてはいけないとわかるが私は自分が知りたくなったものは死んでも手に入れたい。なんでも上手くいった私だからこその思想だと思う。だから

 「好きな人いたの?」

 「うーーーん。いたよ」

 「ふられたの?」

 「告ってねーわ」

 「人のこと言えないじゃん」

 「告れないままここに連れて行かれた俺の失敗を踏まえて言ってるの!!」

 「休日になったら出れるじゃん」

 「俺は出れないの!!」

 慎吾は毎週末ずっと寮にいる。帰る事ができないのは本当だろう。

 「手紙やメールがあるじゃん」

 「携帯持ってない」

 「前テトニスの操作がしにくいって言ってたじゃん」

 「秘密にするから。言ってみ?」

 一瞬慎吾は悩んだ顔をした。だがすぐ隠そうとする。

 「早く言ってよ」

 「本当に何にもないから」

 「あるでしょ」

 「ない」

 「頼む。思い出したくない」

 「好きな子死んだの?」

 一気に顔が青ざめていた。口を抑えて下を向いていた。

 いやいや吐くなよ

 そう思い慎吾の顔を蹴る。

 あ、やべ

 かなり強く蹴っちゃった。

 まぁ大丈夫だろ

 ゲロを吐かずに鼻血を出す慎吾。

 そうか死んだのか。

 慎吾の好きな人。

 初めてこいつに同情する。

 確かに好きな人が死ぬのは自分も死にたくなるぐらい苦しいだろう。

 知らないけど。

 知りたくないけど。

 そしてそこからは適当に慎吾と話した。

 どうやって告白するか。

 話しかけ方

 昼飯の誘い方

 意味があるかはわからないけど、少しだけ感謝して解散した。

 明日武蔵君に話しかけてみよう。

 そう思った。

 

 

  

 


 速報

 悪魔殺しの研修の際、大量に人間を捕食した悪魔に遭遇。沖縄県能力育成学園三年生の内二名軽傷、

       二名死亡。

 

 

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