寒い
Meg
寒い
ビルの立ち並ぶ街中。突然1人の女性が道端で体をかかえ倒れこんだ。
街を歩いていた人々は驚き、心配して女性のそばによった。
「どうしました?」
女性は震えながら言った。
「寒いの。すごく寒いの」
人々はけげんそうに顔を見合わせた。
それというのも青空に入道雲の下、街は夏まっさかりだったからだ。人々は汗だくになって半袖を着ていた。みんなしてうちわや小型の扇風機、果ては風鈴まで手にしていた。
なにかの病気かもしれないと人々は考え、女性に気遣わしげにたずねた。
「大丈夫ですか?」
「病気ですか?」
すると女性は震えながら紙切れを差し出した。
紙切れにはある病院の名前と電話番号が書いてあった。最新の医療が話題になっている病院だった。
人々は病院に電話し、救急車をよこしてもらうことになった。
女性は青白い顔で歯をカチカチさせながら震え、見ていられないほどであった。
人々は汗だくになりながら、なんとか女性をあたためようとした。女性の体を小刻みにさすり、上着を何枚もかけ、かんかん照りの太陽に照らされた暑くなった鉄棒を握らせた。
だが女性は寒がるばかりで、なんと髪やまつ毛の先が凍りはじめていた。
「あんたらおかしいよ」
女性はうらめしげにしきりにこうつぶやいた。人々は病気のせいで錯乱しているのだろうと女性に同情した。
ようやく救急車が到着した。震え体を丸めた女性が消防士たちに担架で運ばれていった。
そのとき消防士と一緒に救急車からおりた医者に、人々はたずねた。
「あの人はどうしたんですか?」
親切な医者は人々に説明した。
「ああ。あの人は空間冷却装置がない時代の人なんですよ。実は病院ではかねてから人間の体の長期保存が可能か検証するために、カプセルに被験者を眠らせる実験をしていたんです。最近は温暖化がさらに進んで空間冷却も追いつかないほど気温も上がってるから、気候の問題もクリアできると思ったんだけどなぁ」
「当時の気温ってどのくらいだったんです?」
「例えばこの街だと冬でもマイナス3度だったらしいですよ」
「うわ、超高温ですね」
人々は前のビルに掲げてある巨大な電光掲示板を見上げた。現在の気温はマイナス40℃と表示されていた。
寒い Meg @MegMiki34
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。