異世界勇者・カグヤ 前編


「えー、それではこれより、『異世界勇者・カグヤ』を開演いたします。全編、昨日までの台本とは全く異なるアドリブ劇。即興のギャグ、感動的な物語を、どうぞお楽しみください」



 ぱちぱちぱち……

 昨日までって何?

 さあ……

 ぱちぱちぱち……




 ブーーーーーーーーーーー!




 ……ざわざわざわ



 おお、美人!

 え? 学生さん?

 綺麗な子ね……

 ドレスも素敵!


 後ろの書割りすげえな

 西洋系の城、ね。ファンタジーか

 随分細かく書いてある……



「……ああ! あの月が満ちるその前に、私は、事を成すことができるのでしょうか……」

「「「姫さま!!!」」」

「これは、三人の王子様方。斯様な夜更けにいかがなさいました?」

「あっは! 僕の愛するカグヤ姫! その涙の雫が零れ落ちぬよう、いつも頬に手を添えてあげると約束した言葉はウソじゃないさ!」

「ニシーノ王子……」


 きゃー! 王子くーん!

 王子くんヤバっ! 吟遊詩人!?

 か、カメラカメラ……!


 かしゃっ! かしゃっ!

 かーしゃかしゃかしゃかしゃ!


「そう! 私も姫様を嘆きとは無縁の園にお連れすると誓った身。どうぞ涙のわけをお話しください!」

「カイン王子」

 

 あの騎士! 誰っ!?

 バスケ部の一年生エースくん!

 甲斐君やっぱりかっこいい!


 かしゃっ! かしゃっ!

 かーしゃかしゃかしゃかしゃ!



 ……もう一人は?

 なにあのタスキ。

 『ツッコミ王子』?



 かしゃっ



 かしゃっ



「……申し訳ついでに写真撮んな。あとさ、一つ聞いて良いか?」

「冒頭からアドリブかよ」

「あっは! どうしたんだい、タツヤー王子!」

「どうもこうも。さっきのアナウンス」

「ああ、気にはなったが……、考えたところでどうにもなるまい」

「あっは! カイン王子は肝が据わってるね!」

「まあ、いいか。カグヤ姫! 今日こそ俺からの求婚に応じてもらいます!」

「いや! ここは私と……」

「いやいや! 僕と!」


「……ふっふっふ。残念だが、カグヤは我が主、魔王様のものとなるのだ!」


「だれだっ!」

「お、おまえはまさか……」



「「「竹取のおきな!?」」」



「ってばかやろう! 細井君はこっちのパーティーだろうが!」

「いいえ、僕は魔王軍五はしらのひとり、『火鼠のかわごろも将軍』!」

「あっは! アドリブって、こういうこと?」

「初耳だよ! なんでそんなキャラ作った!?」

「どうすんだよこれ。ほんとに昨日までの練習、まるで意味がなくなったぞ」

「くっくっく……。僕はね? 僕はこの機会を! ずっと待っていたのさ!」

「まいったな、翁がいねえと何か所かシナリオが破たんする……」

「こ、こんな事もあろうかと……、ね?」

「人体模型持ってくんな!」

「そ、それを翁にする気ですかカグヤ姫?」

「あっは! 心臓のパーツどこに落としたの?」

「…………たいへん」

「大変じゃねえだろどこ落としたっ!」

「探せ探せ」

「みんな、聞いて!? 僕は! 甲斐君をぎゃふんと言わせるためにだね!」

「ええいうるせえ!」

「どこやったんだ? 無くしたらシャレにならんぞ?」

「あ……。さっき、ここがハツとか言って遊んでた時……」

「あっは! ハツって!」

「それどこで!?」

「そっちの舞台袖……」

「じゃあ、はい! そんなことをのたまう魔王を退治するため、俺たちは冒険へ出たのでしたっ! ほらお前ら、すぐに見つけるぞ!」

「あっは! そっち、城の中だよ?」

「しゅ、しゅっぱーつ……」

「み、みんな待って!? 僕、必死にセリフ作って来たのに! ……ゴホン! あ、あれは忘れもしない入学式の朝!」



 ジャン!

 ジャカジャン!

 ジャカジャンジャンジャンジャンジャン!


「ひどいっ! お、おぼえてろーっ!?」


 ジャン!

 ジャカジャン!

 ジャカジャンジャンジャンジャンジャン!



「こらカグヤ。お前の発明品、優秀過ぎてこの場合困る」

「舞台転換早すぎて探す時間も無いな」

「あっはははは! お、お腹痛い……! いつ準備したの? 家の中の背景!」

「しかも日本家屋ときたもんだ」

「ほんとだよな。ひょっとして俺たち以外みんな台本持ってるんじゃないのか?」

「こ、こんな事もあろうかと……、ね?」

「床板ひんむいたっ!?」

「え? なにこれ、こたつかい?」

「う、上にこれ被せれば……、ね?」

「ほ、掘りごたつ……。どうするタツヤー王子」

「世界観とかさあ。こら女子二人、入るんじゃねえばかやろう。あと翁入れるな、ホルモンにいい感じに火が通っちまうだろ」

「あったか! え? なんで!?」

「瞬間暖房……」

「なにこれ僕の家にも欲しい!」

「あれ? ……肝臓が無い」

「翁のレバー落とすな! そん中だろ?」

「ひやっ!?」

「あっは! エッチだね、タツヤー王子!」

「うるせえ! ほれ、落とすなもう!」

「じゃあ、お礼にこれを進呈……」

「いくつあるんだよタスキ! って、エロ王子とかいらねえ!」


「やれやれ。ほんとに俺たちの知らない台本があったとして……、だ。ひょっとして、敵が攻めてくるパターンか?」

「だとしたら小野君可哀そうだろ!? 何枚描いたと思ってんだよ背景!」

「む、昔のロボットアニメ的な展開? ちょっといいかも……、ね」

「あれ、なんで敵は一体ずつ主人公の所を攻めて来るんだ? 逆各個撃破のいいお手本だと思うんだが」

「あっは! 最終回とか、世界各地に同時に敵が出るのにね!」

「それだよ。大抵、ニューヨーク、パリ、ロンドン、モスクワ。最初からそうすりゃいい」

「さもなくば同時に数十体で基地に攻めてくるとかね!」

「おまえら、様式美にごちゃごちゃと突っ込むんじゃねえ。敵が全部まとめて攻めてきたら大変だろうが」

「なんでだ?」

「なんでだい?」

「なんで……?」

「そんなことしたら、一話で話が終わっちまう」

「「「…………ほんとだ」」」

「だから逆に劇場版はそのパターンが多い」

「「「…………天才か?」」」


「やあやあカグヤ姫! 我こそは『燕の産んだ子安貝将軍』! 大人しくついて来てもらおうか!」

「いやいや、この『仏の御石の鉢将軍』の手柄にしてくれよう!」

「まちなさいよあんたたち! 最初はあたし! 『龍の首の珠将軍』からでしょ!?」


「言ってるそばからこうなった! お前ら今の話聞いてた!? この劇二時間!」

「これではっきりしたな。向こうにも台本はねえ」

「あっは! 思い付きでやってるみたいだね!」

「で、でも。これじゃ、二時間なんて無理……」

「確か、宝物って五種類だったよな?」

「冒頭で三人倒す訳にゃいかねえぞ。悪いがお前ら、じゃんけんして勝った順からにしてくれねえか?」

「……そうねえ」

「そうする?」

「いや、待つんだお前ら。まず一幕目はぞろぞろ出て来た下っ端をけしかければいい。それを俺たちが蹴散らして追い払うとするだろ?」

「なるほど、そして次の幕から将軍一人ずつ倒すって算段か」

「それいいわね、さすが甲斐君。じゃあみんな! カグヤ姫をひっ捕えるのよ!」


「ここは僕に任せていただきましょう!」


「だからなんで出て来た細井君っ!」

「あっは! 結局将軍出て来た!」


 ジャジャン!


「……え?」

「なんだい? 今の効果音」

「こ、ここからはポイント制になります……」

「「「は?」」」

「三人のパネラーの意見を聞いて、一番活躍した人に、このカグヤからポイントを……、ね?」

「ね? じゃねえ! 準備してたんなら事前に言え! わけわからん!」

「まさか身内に裏切り者がいたとは……」

「あっは! パネラーって、この三人?」

「そう! 私はカグヤのおばあさん!」

「私はみかど!」

「………………竹」

「単子葉植物が混ざってやがる……」

「だって! ほんとは細井君がやる予定だったんだよ!?」

「な、なるほど」

「あっは! じゃあ、悪いのは恋心って訳だね!」

「で、では、バトルスタート……、ね?」

「しょうがねえな、じゃあ俺が相手を……って、重っ!?」

「さすがはタツヤー王子。僕のギガントハンマーを軽々と剣で受け止めるとは」

「軽々じゃねえ! なんだその武器、マジ物!?」

「はっはっは! 舞浜博士の仕事にハズレなし!」

「ひゃ、百パーセント鉄製……」

「やっぱお前が裏切り者かっ! そんなの当たったら怪我すんだろ!」

「あっは! それならここは、僕の出番だね!」

「おお、俺をかばってくれるのか。さすが王子くん、惚れちまいそうだぜ」

「なにそれ、王子同士がくっつくのかい!? それこそストーリー滅茶苦茶になるよ!」

「おお、どうせ無茶苦茶ならそういうのもあり……、って。こらカグヤ! あぶねえから下がってろ!」

「わた、私がかばう……」

「なにふくれっ面してんの!? 意味分かんねえとこで出てくんな!」

「く、くらえ。えい」



 ばちんっ!



「なんか光った!?」

「カ、カグヤ姫くん? 今、一瞬痺れたのですけど……」

「聖剣、スタンガンはめてみたーのつるぎ」

「名前はかっこ悪いけど実用的っ!?」

「そ、そんなの当たったら大変ですので! カグヤ姫くん? ここは穏便に……」

「えい」

「ひょわっ!?」


「……あいつ、なんで男には容赦ねえんだろ」

「そんなこと言ってる場合じゃない。カグヤ姫を止めるぞ」

「えい」

「ぎゃああああ! マジでいたいです!」

「鉄のハンマーで受けるからそうなる」

「えい」

「ぜ、全軍撤退!」

「てったーい!!!」

「あと……」


「「「ファンタジーに科学の力もちこむな!」」」


「……同情を禁じえん」

「ふう。わた、私の方が役に立つ……、でしょ?」

「じゃあ俺たちの意味」

「あっは! じゃあほんとにサイドストーリで、僕たちのラブコメでもやるかい?」

「……なにわたわたしてんだお前は。で? ポイントは?」

「ジャッジおばあさん! 姫!」

「ジャッジ帝! 姫!」

「ジャッジ竹。王子くん」

「……で、では、今回のポイントは、保坂君で」

「なんで俺にポイント入った!?」

「レ、レバー見つけてくれた……」

「あっは! どうでもいいところでポイント入るんだね!」

「これ、パネラーの意味あるか?」

「もうどうでもいい! ええい、こうして魔王軍とカグヤ姫との戦いが始まったのでした!」

「じゃあ、ポイントの証のタスキを……、ね?」

「『ぼっち王子』とかいらんわ! 泣くぞ!?」



 ジャン!

 ジャカジャン!

 ジャカジャンジャンジャンジャンジャン!


「これ、収拾つくのか!?」


 ジャン!

 ジャカジャン!

 ジャカジャンジャンジャンジャンジャン!


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