異世界勇者・カグヤ 中編



 ジャン!

 ジャカジャン!

 ジャカジャンジャンジャンジャンジャン!


 ジャン!

 ジャカジャン!

 ジャカジャンジャンジャンジャンジャン!



「勇壮な音楽が流れる度、こたつに戻る僕たちって……」

「つ、疲れたっ!」

「こ、こんな事もあろうかと……」

「ミカンっ!?」

「やっと三人倒したか……。尺的にはちょうどいいけど」

「自然に食うなミカン。それより、ポイントの意味。なんで俺ばっか入る」

「か、活躍してるから……」

「ほんとにそれだけかい? なんか、他意がある気がするね!」

「な、ないよ……?」

「カグヤ姫様。ポイントがたまるとどうなるのですか?」

「い、一点で食券百円分……」

「頑張る気が一気に失せた」

「いいじゃない、もう四ポイントだよ? Bランチなら食べれる!」

「Aランだと二十円足りねえじゃねえか。それよりほんとに大丈夫か、この劇?」

「あっは! お客さんは楽しそうだよ?」

「なんか、途中からやたら声で参加して来るんだけど」



 あと二人! がんばれよ!

 ツッコミ王子、サボんな、つっこめ!



「やかましい! それよりこの後どうなるんだ?」



 蓬莱の球の枝がまだだな

 あと、火鼠のかわごろも王子

 王子じゃなくて将軍だろ

 あ



 どっ!



「……もう、俺たち必要ないんじゃね?」

「お客様の方が面白いよな」

「蓬莱の球の枝……、って、なに?」

「お? ここはうんちく王子の出番だね!」

「なるほど俺はハカセ枠だったのか。ってタスキはいらねえんだよ! 何種類あんだこれ!」

「ほ、保坂君がやりそうなこと、全十種類」

「あっは! じゃああと二つでコンプリートだね!」

「で? どんなのなんだ、『語りたがり王子』」

「ちきしょう。……根っこが銀で、茎が金で、実が真珠っていう枝のこと」

「あっは! それなら作っちゃうこともできそうだね!」

「おお。くらもちの皇子は金に物言わせて作らせたんだよ。でも、職人たちが製作費寄こせってなだれ込んできてバレた」

「あっははははは! 何でも知ってるね、タツヤー王子は!」

「じゃあ、そんな感じの衣装の敵が出てくるのか?」

「こっちは異世界ファンタジーなのに、敵が全部純和風でどうすんだよ」



「待たせたのよん! 『蓬莱の球の枝将軍』、参上!」



「…………どこが純和風なんだ?」

「ツリーフォーク出てきやがった!?」

「あっは! 良かったじゃない、異世界ファンタジーだよ?」

「だよ? じゃねえ!」

「そ、それより菊花、お前……」

「そうだ! 魔王役だろお前、何やってんだよ!」

「だ、だって着ぐるみのサイズ的に、あたししか入れなくて……」

「なんて設計ミス!」

「じゃあ、魔王は誰なんだい?」

「もう完全に先が見えなくなったな」

「ねえ、それよりさ、聞いて欲しいのよん!」

「なんだよ」

「これ、どうやって戦ったらいいの? まるで動けない」

「あ、それは……、ね? 一旦、手を枝から抜いて……」

「うんうん」

「おいどうしよう。こいつを葬ったら話が簡単に終わるんじゃねえかってことに俺は気づいちまった」

「あっは! 女子はね? 意地悪で男子を試したくなっちゃう時があるんだよ?」

「いらん情報聞かされた!? 意地悪であざとか作りたくねえんだけど!」

「さっきのやつか。痛むか?」

「ぼちぼち」

「ちょっとみせてみろ」

「おや? こっちでも愛が芽生えるのかい?」

「「じょうだんじゃねえ!」」


「…………浮気中?」


「な訳ないだろ! なに言ってるんだ菊花!」

「『蓬莱の球の枝王子』、な」

「王子じゃなくて将軍じゃない?」

「あ」



 どっ!



 て、天丼!

 ツッコミ王子がボケてどうする!

 タスキ変えろ!



「ちきしょう、やりにくい! そしてまたタスキか! ラストは絶対引き当てんぞ俺は!」

「『ボケ王子』か?」

「いや『ウケ王子』って書いてある。どういう意味だ?」

「ようし、操縦方法分かった! 食らえ浮気相手!」

「おお、よくできてるな。枝がにゅるにゅる伸びて……? いてててててて!」

「タツヤー王子!」

「タツヤー王子!」

「た、タスキ、ちゃんとかけて……」

「痛いこれ! 聖剣ハンド程じゃねえけど……」

「説明しよう! あたしの腕は、浮気相手を捕えて離さないのよん! ねえカグヤ姫! こっからどうしたらいいの?」

「じゃ、じゃあ、王子を人質にして屋台の食べ物を要求……、とか?」

「黙れ黒幕! ってか、これ、引っ張られる……!」

「にゃはははは! ではカイン王子! まずはイチゴクレープでもひとっ走り買ってきてもらおうか? あとイチゴ大福と……、って! ちょっと保坂! 近い!」

「お前が引っ張ってんだろうが!」

「きもい! 顔、近い!」

「いいから腕を放せ!」

「操作方法なんか分かるわけないじゃない!」

「こんなとこで得意技発動すんじゃねえ! 説明ちゃんと聞いとけ!」

「えっと、このボタンかな? ぽちっとな!」

「ぎゃああああっ! 締まるっ! 痛いっ!」

「耳元で叫ばないでよ!」


「…………それこそ何かが芽生えるんじゃないのか? あれ」

「な、夏木さん取られちゃうとか……、心配?」

「あっは! 恋人に他の男子が密着してたらやきもきするよね!」

「いや別にそういうのはないんだが」

「でもタツヤー王子があれじゃあ、僕たちも手を出せないね」

「見事な壁役だな」

「そ、そうよん! 下手な抵抗したら、このままタツヤー王子をぺちょんよ! ぺちょん!」

「その擬音、まんざら間違ってねええええ!」

「……よし! あれを使うぞ!」

「あれって……?」

「あっは! 聖剣マジックハンドかい?」

「やめろばか! この上からさらに握られたら臓物飛び出る!」

「せ、説明……、しよう。聖剣マジックハンドとは、三王子の聖剣を振りかざすことによって対象の人物を呼び寄せる技の名前なの……、だ」

「これでエンディングのフラグも立つしタツヤー王子を取り戻せるし一石二鳥!」

「でも、聖剣はタツヤー王子が持ってるんじゃないの?」

「…………そいつは想定外」

「使えねえなお前ら!」

「こ、ここは、心を無くして豹変した仲間の暴走でピンチを切り抜けつつ、もう後戻りが出来なくなったという悲壮感を演出とか……」

「お前が持ち出した仲間が失ったのは心じゃなくてハツ! ちきしょう、もうこうなったら自力で……! ふんがあああああ!」

「おお、初めて冒険ものっぽい展開だな。お前を暴走させやしないぜって感じか」

「人体模型に助けられたくないだけだ!」

「いいぞタツヤー王子! そのまま将軍を倒しちゃえ!」

「食らえ! 聖剣による普通の突き!」


「ぎゃあああああ!」


「……なんか固いもんに当たった気がするんだが」

「く、くそう! まさかあたしの『コア』を一撃で貫くとは……」

「何が刺さったんだ? 引っこ抜かなきゃ分かんねえな……、とりゃ」

「も、もはやこれまで……、ドサッ」


「翁のハツ!」


「……す、すまんタツヤー王子。本来なら将軍を倒したことをたたえねばならんのだが」

「あっは! どうすんだい、それ?」

「大穴あけちまった」

「お、翁の犠牲によって、将軍を倒したの……、ね? 予定通りの悲壮感」

「この世で悲しんでるのはお前ひとりだ! どうすんだこれっ! ……ん? 細井君?」


「はっはっは! 僕はこの時を待っていたのだよ! とりゃあ!」

「火鼠のかわごろも将軍だと!? 危ない! 姫様!」



 どかっ!



「カイン王子!」

「大丈夫か!?」

「え? 優太になんかあった? これ、前が見えない……」

「いてて……、カグヤ姫様をお守りするのは我が役目、これしきのことなんともない!」

「ふっふっふ。すべて計算通り! 芝居を完遂したい君の気持ちが勝つか、それとも正直な気持ちが勝つか、見ものだね!」

「な、何をする気だ?」

「私が君たちの敵である夏木君にこのハンマーを振り下ろそうとした時にも、同じように守ることができるのかな!?」

「そ、それは……っ!」

「さあ無様な姿をさらすと良いのです! 君のせいで舞台が滅茶苦茶になるか、それとも恋人を見捨てるか! いずれにしても君の尊厳は崩壊することでしょう! 思えば入学式のあの日からずっと! 僕は雨の日も風の日も! たった一人のお姫様を見つめていたというのに……」

「……長い」

「ああ」

「せっかくのチャンス棒に振ってる?」

「それがどうです!? いつからかお姫様の瞳は僕ではない他の誰かの背をいつも追いかけるようになり!  卯の花くたしも止む頃合いには聞きたくもない噂が流れ! 梅雨と見まごうばかりに泣き濡れた僕は二キロも体重を落として大好きな限定裏メニュー弁当をから揚げ一個減らしてくださいと注文するほどに……」



「「「聖剣、限定解除! マジックハンド発動!」」」


「え?」



 キュイイイイイイン!

 ガション!

 ガション!

 ガション!

 


 うわ! なんか光った!

 まぶしっ!

 聖剣、変形してねえか?



「「「召喚対象! 火鼠のかわごろも将軍!!!」」」


「や、やめてください! それ、三人が同じ方向から引っ張るものであって、今僕はみなさんの真ん中にひんぎゃああああ!」



 剣から手が出て来た!

 ……ほんとにマジックハンドじゃねえか

 でも、剣の魔力でほんとに引っ張ってるように見える

 これ、どこで売ってるんだ? 欲しいかも



「ち、ちぎれちゃいますぅぅぅ! ギブギブ! 降参です降参っ!!!」

「しょうがねえやつだ」

「……おい、火鼠のかわごろも将軍」

「た、助かりました……」

「おい!」

「は、はい!」

「芝居の演出かなにか分からんが、あのままじゃほんとに舞浜が怪我してたろ。そこは反省しろ」

「そ、そうですね……。舞浜君、怖い思いをさせてすいませんでした……」

「う、ううん? 恋の力ってすごいなあって、感心……」

「あっは! 姫様らしい感想だね! じゃあ、今回のポイントは?」

「ジャッジおばあさん! カイン王子!」

「ジャッジ帝! カイン王子!」

「ジャッジ竹。ちょっと細井の気持ち分かるなあ……」

「まじか」

「は、判定……、保坂君」

「もうそれ、突っ込まなくていいか?」

「あっは! もっと喜びなよタツヤー王子!」

「…………やったー。Aランゲットだぜー」

「なあ、タツヤー王子」

「なんだよカイン王子」

「なんで火鼠のかわごろも将軍は、こんなにあらぶってるんだ?」

「え」

「え」



 え

 え

 え

 え



「……まじかお前」

「いや、すまん。こいつ、舞浜の事が好きなのか? あるいは西野の事……」

「なんて主人公体質。……ジャッジ」

「ジャッジおばあさん。有罪」

「ジャッジ帝。有罪」

「ジャッジ竹。有罪」

「なにがだ!? なんで俺が悪いことになってる!」

「判定…………、保坂君?」

「お前もなに言ってんだ!」



 ジャン!

 ジャカジャン!

 ジャカジャンジャンジャンジャンジャン!


「ば、罰として保坂君は立ってる……、こと?」


 ジャン!

 ジャカジャン!

 ジャカジャンジャンジャンジャンジャン!


「お前は先生まおうか」

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