第581話 嬉しい女子友

 ヒラリ先輩を連れて私の研究室へと向かう。


 本当は一緒に転移してしまえば早いのだが、流石に会ったばかりのか弱き女性を魔法で驚かせるのは忍びない。


 ヒラリ先輩と手を繋ぎ、廊下をルルララ〜ンと鼻歌まじりに歩いていく。


 ヒラリ先輩はそんなご満悦な私を見て優しい笑顔を浮かべている。


 まるで私のお姉様のようだ。


 そんな雰囲気だけでも、ヒラリ先輩が優しくて良い子だとよく分かる。


 それに眼差しが私の大好きなエリー先生に似ている気がする。


 先生女子友のエリー先生(男性です)と生徒女子友のヒラリ先輩。


 教師としても、そして生徒としても、どちらの立場でも女子友が出来た、それが何よりも嬉しい私だった。


 ムフフー。超幸せ―!



 そんな中、ヒラリ先輩と繋いでいる手の触り心地から、ヒラリ先輩が普段から家事をしているだろう事が分かる。


 学生にしては手が荒れているからだ。


 きっとお家の事もお手伝いして、お勉強も手を抜かずに頑張っているんだろうなー。


 なーんてそんな想像をしながら、後で私特製のクリームをたっぷり塗ってあげよう! と、そんな気持ちも自然と込み上がっていた。


 女子友として出来る限りの事はしてあげたいよね!


 初めて出来た学園の女の子の友人に対し、浮かれ過ぎてちょっとだけ母親気分になっている私だった。




「ヒラリ先輩は今は空き時間なのですか?」

「はい、卒業できるだけの単位はほぼ取り終わっております。魔法は少し苦手で、まだ終了はしていませんが、もう間もなく合格できると思いますので、次は就職先を探したいと思っております」


 やっぱりヒラリ先輩は優秀な様で、三年生の今現在、ほぼ単位を取り終わっているようだ。


 なので空き時間は多くあるらしいので、私の研究室へと通うのは問題無いらしい。


 ただ魔力量があまり多くはない為、魔法学科がまだ修了しておらず、魔法学科がある日は必ず学校へ来ているようだ。


 魔力量だけは持って生まれたものだ仕方がないだろう。


 それに私のように無理矢理魔力の器を開かされたらキツイしね。


 そんな話をしながら仲良く歩いていると、今度はヒラリ先輩が私に質問をしてきた。


「先程のララ様の鼻歌はララ様ご自身が作曲された曲なのでしょうか? 音楽学科の先生が素晴らしい才能を持った新入生が入学されたと仰ってましたけど、それはララ様のことでしたのね……」

「えっ? いや、あのー、さっきの鼻歌はなーんかどっかで聞いたかなーって曲です。あの、もしかしてヒラリ先輩は音楽学科も取っているんですか? 楽器も使えるんですか?」

「はい……私の父が……実は音楽家でした……もう亡くなってしまいましたが、幼い頃は良く指導して貰ったのです。父の楽器はバイオリンでした。今私は学園のバイオリンを借りていますけれど……父の持っていたバイオリンは素晴らしいものでした」


 少し悲しげにそう話すヒラリ先輩。


 お父様が亡くなっているならばきっと生活は大変だったことだろう。


 もしかしたらお父様の楽器も仕方なく手放してしまったのかもしれない。


 この世界で女性一人で子供を育てていくのは大変だ。


 タッドとゼンの母ミリーもスター商会の従業員になるまでは苦しい生活だった。


 そんな話を聞くと、やっぱりヒラリ先輩はスター商会に必要な人材じゃなかと、尚更そう思った。


 落ち着いたらスター商会へ来ませんか? と話して見ても良いかもしれない。


 ヒラリ先輩ならばどんな仕事でも頑張ってくれそうだ。


 リアムに相談してみようー! ムフムフしながらそんな事を考えていると私の研究室へと無事に到着した。



「ヒラリ先輩、ここが私の研究室です。さあ、どうぞ、どうぞ!」

「はい、失礼致します」


 研究室の扉を開けると、セオが仁王立ち状態で私を出迎えてくれた。


 だけど誰かと一緒だと気配で感じていたのだろう。


 口パクだけで「マスターに報告するからね」とそんな軽いお小言で取り敢えずお怒りは済ませてくれた。


 まあ、アダルヘルムからの注意のことは後で考えよう。


 取り敢えず今はヒラリ先輩のおもてなしだ。


 ヒラリ先輩は壁一面に広がる本棚を見て目を輝かせる。


 本当に本が大好きな様だ。


 ヒラリ先輩が大切に抱えていた本を私が預かり、ヒラリ先輩には好きな本を選んでもらう。


 すると、どう見ても不自然な傷みがヒラリ先輩の本にある事を発見した。


 直してあるけれど、本当にボロボロなページもある。


 もしかしたらこれもヒラリ先輩を囲んでいたあの派手目な先輩達にやられたのかもしれない。


 そう気づくと小さな怒りが湧いて来た。


 あの時もっと脅かしてやれば良かったかしら?


 そんな怒りをふつふつと湧かせていると、まだ私の研究室の居室側でゆっくりと寛いでいたトニー先生が声を掛けてきた。


 トニー先生! ちっさくって見えなかったよ!


 部屋と同化し過ぎー!


 置物だと思ったよー!


「おお、グリーム嬢か、もしかしてララ様と友人になったのか?」

「まあ! トニー先生! はい、ララ様には色々とお世話になってしまったうえに、研究室にまでお誘い頂きました。本当にララ様はお優しい方で、素晴らしい御令嬢ですわ」

「うん、うん、そうだろうなー。グリーム嬢、ララ様と仲良くすると良い、きっと勉強になるぞ」

「はい、有難うございます。ララ様さえ良ければ、仲良くして頂きたいと思っております」


 ヒラリ先輩の笑顔にトニー先生は安心したような笑みを浮かべた。


 ヒラリ先輩と武器科のトニー先生との繋がりは分からないが、チラッとトニー先生がヒラリ先輩の大切な本に視線を送っていたので、もしかしたら何か事情を知っているのかもしれないとそう思った。


 数ある本の中からヒラリ先輩は気になる本を数冊選ぶと、とっても良い笑顔を浮かべてくれた。


 それを見てクルトがソファーへとヒラリ先輩を案内をする。


 クルトとセオには今後ヒラリ先輩が空いている時間に私の研究室へ来る事を伝えた。


 二人は転移の時とは違い笑顔で同意してくれた。


 そして二人が頷いたのを確認すると、私はあるところに向かうため立ちがった。



「トニー先生、まだお時間大丈夫でしょうか? 少しヒラリ先輩のお相手をお願いしてもよろしいですか?」

「ああ、勿論だ。それにグリーム嬢は既に本に夢中だ。ワシはこのままここでゆっくりお茶を飲んでいるさ」

「有難うございます」


 ヒラリ先輩は私達の話し声など聞こえない程に本に夢中になっている。


 その姿を見て心底ホッとする。


 ヒラリ先輩は強い。


 色々あってもちゃんと学校に来て授業を受けている。


 絶対に卒業しようと、そんな強い気持ちがあるからだろう。


 だけど皆が皆、強い訳ではない。


 生まれが男爵家だからとか、貧乏だからとか、元平民だからとかで、意地悪を受けて良いはずがない。


 ヒラリ先輩のボロボロになった本を見て胸が痛む。


 悪い事をしたらお仕置きが必要! これは絶対だ。


「で、ララ、今度はどこに行くのかな?」


 セオが少し呆れながらも、仕方がないなーといった表情で私に声を掛けてきた。


 どうやら討ち入りに付いてきてくれるようだ。


 私はヒラリ先輩の大切な本に浄化を掛けながら、セオに答えた。


「これから校長室へ向かいます! この学校では図書室で本を借りる為にお金が掛かるそうなんです。なので校長先生に直談判したいと思います。学生が自由に本を読めない、そんな悲しい事は許せないですからね!」


 そんな気合いを入れた私を見てセオがクスリと笑う。


 そして二人仲良く研究室を飛び出した。


「まったくララってばどこにいても色々とやらかすよなー」と楽しそうに呟いたセオの言葉は、怒りで燃える私の耳には届かなかった。


 校長先生!


 そして派手目な先輩たち!


 待ってないさいよーーーー!!


 お尻ぺんぺんなんだからねー!




☆☆☆




こんばんは、白猫なおです。(=^・^=)

なんだか曜日感覚が変な白猫です。今日は月曜日?一日ずれてる感じです。


ララに本気でお尻を叩かれたら……骨が砕け散りそうです。校長先生ファイトー。

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