第579話 友人ハンターララ
「おー、今日のお茶請けも美味しいなー。ララ様の所へ来るようになってからワシは太った気がするわー」
「お褒めいただき光栄です、トニー先生。今日のオヤツはマドレーヌと言います。スター商会自慢のお菓子なんですよ」
「そうだった、そうだった、スター商会。ララ様はスター商会の会頭だったなー」
「はい。スター商会ではセオと私が造った剣を販売しているんです。トニー先生も宜しければ今度見に来て下さいね」
「勿論、行くとも! それにワシはセオ殿が造った刀を見てみたくてなー。スター商会へ行く日が今から楽しみだ」
茶飲み友達となったトニー先生は、暇な時間は自分の研究室に行くのではなく、私の研究室へと来るようになっていた。
鍛治仕事は力仕事であり、魔力もたっぷり使う為お腹がとても空くようだ。
私の研究室へ来れば、鍛治の話をしながらオヤツや軽食が摘まめる。
それに何と言ってもこの学園の古株であるトニー先生の研究室よりも私の研究室は綺麗だ。
そんな心地よい生活にすっかり味を占めたトニー先生は、私の研究室に毎日顔を出すようになってしまった。
まあ、私も暇だし、セオとクルトも喜ぶので遊びに来てくれるのはとても有難いのだけど、トニー先生の訪問はともかく……
私自身この学校の教授としてこのままでいいのだろうか? と実は私はそんな事をずっと考えている。
もう少ししたらディックやリッカルド王子、それにエドアルド王子も私の研究室へと通うと言ってくれている。
でもそれでもまだ生徒数は三人と、指定人数の五人には届かない。
このままでは私はこの一年間なんの授業も受け持つ事なく、この学園から去る事になってしまう。
多分頼めばノアも私の授業に参加してくれるだろうけれど、ハッキリ言ってノアに私の授業など必要ないだろう。
ならば最低でも後二人は私の研究室に人を招き入れなければならない。
待っていても人が来ないならば、やる事は一つ!
ムフムフと鼻息を荒くした私はトニー先生と談笑しているセオとクルトに向け宣言をした。
「セオ! クルト! 私は今から生徒の勧誘に行って参ります! 沢山の生徒を連れて来ますから、楽しみにしていて下さいね」
「えっ? ちょっと、ララ待って!」
「ララ様、勝手な行動は駄目ですよ」
「大丈夫、大丈夫、学園内だから。それに二人が来たら生徒との交流なんて無理でしょう? だから一人で大丈夫。じゃあ行って来ますねー」
「ララ!」
「ララ様!」
私は二人に手を振り一瞬で転移する。
転移した場所は学園全体が見渡せる屋根の上。
学園には屋上もあるのだが、転移した場所はそこではなく、一番高い中央棟の尖った屋根の頂上にバランス良く降り立ってみせた。
今のところ私の存在には誰も気が付いていない。
セオの様に自分の存在を全て消し去る様な魔法は私には無理だけど、授業中の生徒を驚かせる訳にはいかないので、出来るだけ存在を消すように隠蔽魔法を自分にかけ、周りを見渡す。
今現在空き時間で、どこかに一人ぽっちで寂しそうにしている子はいないかしら?
出来れば女の子が良いなー、なーんてそんな小さな欲を掻きながら、魔法で強化した視力を駆使し、キョロキョロと学園内を見て回る。
すると中庭のベンチにぽつんと腰掛け、一人で本を読んでいる可憐な女の子を発見した。
この国で多い茶色の髪を後ろで一つに纏めた大人しそうな女の子。
彼女の制服姿から多分先輩だろうと思われる。
何故なら今年の一年の制服から、スター商会でデザインした新しい制服を製作をしているからだ。
なので新入生と上級生とでは制服が違うから上級生だとすぐに分る。
勿論、先輩の中にも新制服に作り直した生徒もいるし。
同級生の中には兄姉が使ったであろう制服を着ている子も少なからずいた。
なので多分先輩だろうなーと思いながら、私はその女子生徒に近づいてみる事にした。
だけど先輩の目の前に急に転移したら絶対に驚かれるので、少し離れた人目の無い場所へとまずは転移する。
そして心の中で「こんにちは、初めまして、私はこの学園の教授になったララ・ディープウッズですよ。良かったら仲良くしませんか?」と挨拶のシュミレーションを行いながら、先輩の背後から近づいて行く。
フッフッフッ、これでやっと友達ゲットだね!
いやいや、この場合受講生ゲットになるのかな?
なーんて浮かれながら忍び足で歩く私の前に、突然カースト上位っぽい派手目な先輩達が数名現れた。
「あら、ヒラリさん、またこんな所で一人寂しく読書をしてらっしゃるの? 本を読むなら図書室へ行けば宜しいのではなくって?」
グループの中心にいる一番派手目で赤い髪をふわふわにした少女が、本を読んでいた通称読書先輩に話しかけた。
派手目な人達はスター商会の新しい制服を着ているが、お化粧が濃いせいなのか、それとも元々の顔付きが派手なのか、どうみても一年生には見えはしない。
それに読者先輩の事を知っている様子からも、この学園の2、3年生である事が直ぐに分かった。
そしてベンチに座る読書先輩を5、6人で取り囲み、馬鹿にしたようにクスクスと笑っている。
図書室に行かず外で本を読んでいる事が彼女達にはそんなに面白い事なのだろうか?
派手目な先輩グループの笑いのツボがまったく理解出来ないでいると、今度は読書先輩が派手目先輩のリーダーに話しかけた。
「……ご心配ありがとうございます。ですが私は外で本を読むのが好きなのです……ですから気になさって下さらなくても大丈夫ですわ」
そう言って読書先輩は立ち上がる。
派手目な先輩グループから離れる為だろう。
だけど派手目な先輩達は鉄壁だった。
どこで鍛えたかは分からないが、皆で獲物を取り囲むようにし、読書先輩を逃すつもりはないらしい。
もしかしてこの派手目な先輩グループは私と同じで読書先輩を友達にしたいのかしら?
つまりこの人たちは私のライバルってこと?!
そんな不安に陥っていると、あり得ない発言を派手目な先輩たちのあの赤髪の少女がした。
「あら、まあ、そうですの? 私はてっきり貴女が図書室の使用料が払えないからここにいるのかと思っていましたわ。だってそのボロボロの本は図書室のものでは無く、貴女個人の物でしょう? 図書室の使用料は金貨一枚ですもの、貴女のご実家ではそんなはしたお金も用意することは難しいでしょうからねー」
クスクスと笑い盛り上がる派手目な先輩グループの言葉に、私は驚きすぎて口をあんぐりと開けてしまう。
学校の図書室を使うだけで金貨が必要ってどーゆー事よっ!
魔法で存在を出来るだけ消し、先輩達の話を聞いていた私は、このあり得ない衝撃に叫ばずにはいられなかった。
「何それっ!! 図書室を使用するのにお金が掛かるなんて有り得ないでしょーーーっ!」
私の大声を聞き派手目な先輩グループの女子生徒だけではなく、読書先輩までもが真っ青な顔になる。
突然の大声。
それも皆の背後からの大声。
落ち着いた今なら驚くのは当然だと分かるが、この時はそれどころでは無かった。
図書室問題で頭がいっぱいだったからだ。
そう、どうやらこの時私は、友人作りの登場シーンに失敗していたらしい。
派手目な先輩達が驚くことを言い出すからいけなかったんだと思う。
まあ、今はもうそんな事どうでもいいんだけどねっ!
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