第578話 お暇なら来てよね。

 リッカルド王子とエドアルド王子がスター商会へ来て早一週間。


 自分の事は自分でやる! と言う庶民の子供ならば当たり前な生活だが、セオとルイの指導のお陰か、二人の王子もだいぶ馴染んだように思える。


 最初は着替えるだけでも王子様には大変だったようだが、今は迷う事なくその日の洋服を選ぶことができ、そして自分で靴下も履け、ボタンも止められるようになったそうだ。


 お風呂も最初はどこから自分の体を洗って良いのか分からなかった二人だったが、今は自分の好みの洗い方を探せるだけになったらしい。


 私は異性だからという事で二人のお風呂事情などは詳しくは教えてもらえなかったけれど、ルイとエドアルド王子のコンビはとても上手くいっているようで、そのお陰かスター商会の護衛達とも仲良くなり楽しそうにお風呂話で盛り上がっていた。


 ただし、エドアルド王子の護衛のマシューさんは、ちょっとばかし戸惑っているようだ。


 何故なら大人しいと言われていたエドアルド王子が、スター商会へ来てからというもの、良く笑い、とても楽しそうにしているからだ。


 その上ルイとは兄弟のように仲良くなっている。


 そんな様子を見て私はほっこりするが、城でのエドアルド王子を知っているマシューさん的には違和感ありまくりなようだ。


 まあ、そこは本来のエドアルド王子の姿に慣れてもらうしか無いだろう。


 エドアルド王子は ”大人しい王子様” ではなく、本当は好奇心旺盛な男の子なのだから。





 そして心配していたセオとリッカルド王子のコンビは……今も尚主従関係のような状態に見える。

 

 リッカルド王子は穏やかな笑みを浮かべているセオに何故かとても怯えていて、チラリチラリとセオの様子を見ては、恐る恐る行動しているといえる状態だ。


 そしてそんなセオのお陰か何なのか、リッカルド王子は私に対してはもうまったく反抗する様子は無くなり、出来るだけ近付かないようにしている気がする。


 普通に挨拶はしてくれるけれど、その時でさえ視線は合わないし、学校へ向かう馬車の中でも私から出来るだけ離れようとしているのを感じる。


 いったいセオはリッカルド王子に何をしたのか……


 セオに聞いてみたら「ちょっと話をしただけだよ」とニコニコ顔で答えてくれたけど、本当にそうなのだろうか? とリッカルド王子のあまりの変わり様に不安で仕方がない。


 だってリッカルド王子の護衛のサイラスさんの笑顔がとても引き攣っているしね。


 そんな様子を見ながら、セオがリッカルド王子に何を話したのか、いつかサイラスさんに聞いて見ようと思った私だった。





 


「ハー……やっぱり今日も暇ですねー……」


 ユルデンブルク魔法学校で、名ばかりながらも教授として働きだした私。


 今のところ受け持っている学科は何も無い為、生徒たちが授業中はとても暇だったりする。


 一応学園からは ”生活魔法研究学科” の教授という名を頂いたのだが、その曖昧さが受け入れられないからか、今のところ教えを乞うてくる生徒は誰もいない。


 ”生活魔法研究学科”という名がもしかしたら悪いのか、貴族の子供ばかりのこの学校では生活魔法そのものが受けが悪いようだ。


 それにきっと私のこの幼い見た目もダメなのだろう。


 二年、三年の在学生からしたら自分達より明らかに幼い私。


 そして同級生たちからは、何故だかちょっぴし怯えられている私。


 出来れば近寄りたく無い、別に生活魔法研究学科など受けなくても問題はないし、関わりたくないよね。


 と、生徒たちのそんな考えが見て取れてガックリしている。


 敬遠されるのって辛いよねー。


 生活魔法って奥が深いのにねー。


 だけどそんな中、エドアルド王子は私の授業を受けたいと言ってくれていて、授業用の時間割を空けてくれている。


 因みにリッカルド王子も渋々だが、私の授業を受ける予定だ。


 ただし、最低でも五人生徒が集まらないと授業は開けないらしく、今現在はお預け状態だ。


 そして私の心の友、ディックはと言うと、剣術、武術科の授業を選んだ為、今はそれで手一杯の状態らしい。


 ただし、剣術、武術科の基礎コースを飛び級さえ出来れば、授業数に少し余裕が出来るらしく、その時は私の授業を受けたいと親友ディックは言ってくれている。

 

 うんうん、やっぱり私のディックは優しいよね!


 流石心の友! 友人思いだよ!




 そんな訳で今現在暇中の暇な私の研究室には、いつも決まったメンバーがやって来ている。


 それは授業が空いた時間を使ってやってくる、この学園の先生たちだ。


 先ずはモルドン先生。


 まあ、これは来るだろうことは予想がついていた。


 だってモルドン先生の滞在目的はアダルヘルムとマトヴィルの情報収集だもんね。


 来ない訳がない!


 『昨日のアダルヘルム様とマトヴィル様の様子は?』


 『今日のアダルヘルム様の服装は?』


 『今日のマトヴィル様のお弁当はなんでしょう?』


 と、とにかく毎日毎日同じ事を聞いてくるモルドン先生。


 余りにも鬱陶し……ゴホンッ、えー、同じ質問が続いて困ったので、最近はモルドン先生が部屋に来るとクルトが対応し、前もって書き留めていたメモを渡して済ませている。


 そしてアダルヘルムから「ララ様を宜しくお願い致します」という直筆の一言メモを貰って来ていて、クルトはモルドン先生を上手く撒いているのだ。


 流石私の世話係、しっかりと仕事をしてくれているよねー。


 メモを貰い感動するモルドン先生を見ながら、毎日同じ言葉のメモを貰うだけでも嬉しいんだねー……とちょっと気持ちが引いてしまう自分がいた。


 まあモルドン先生の転げまわりそうな喜び方が気持ち悪いって理由もあるんだけどねー。




 そしてエリー先生も、良く私の研究室へと来てくれる。


 ただエリー先生は人気のある先生の為、新入生が入ったばかりの今現在とても忙しく、休み時間にチラッと研究室を覗いてくれる程度でしかない。残念。


 そんなエリー先生だけは、私をこの学園の生徒としても見てくれているのだと思う。


 困っている事は無いかとか、必要な物はないかとか、とにかく気を遣ってくれるのが分かるし、エリー先生はいつも優しいからね。


 入学してから最初の一か月で、基礎学科を飛び級出来る生徒が大体決まるので、そうしたらエリー先生も忙しさが少し落ち着くらしい。


 そしたらもっとゆっくり遊びに来るわと可愛らしい? 笑顔でエリー先生は言ってくれたが、仮にも仕事中なのに遊んでいて良いのかな? とちょっと心配になった私だった。


 まあ、遊ぶと言ってもエリー先生にとっては教育の一環。


 きっとそうに違いない!


 ユルデンブルク魔法学校が少し心配になった事は胸に仕舞い込んだ私だった。




 そして他には武器学科の先生であるトニー・スクワット先生が、最近の私の茶飲み友達だったりする。


 トニー先生が受け持つ武器学科は、上級者コースらしく、ほぼ三年生の生徒のみの上、受け持っている人数も少ないそうだ。


 なのでトニー先生は比較的授業時間に余裕があるらしく、「ララ様、元気かー?」と言っては私の研究室に来て、武器談義に花を咲かせている。


 武器の話はセオもクルトも大大大好きなので、二人もトニー先生が来るのは大歓迎のようだ。


 下手をしたら一日中武器の話だけで終わってしまう日もある。


 アダルヘルムやマトヴィルとも武器の話をしてみたいとトニー先生は言っていたので、近いうちに我が家にご招待する事になるだろう。


 スター商会の護衛たちもベアリン達も喜びそうだしね。


 勿論私もとても楽しみだ。




 そして魔法学科のバンナヴィン先生とライリー先生の二人も、良く私の研究室に顔を出してくれる問題児……ゴホンッ、優しい先生だ。


 ただこの二人はとても忙しいはずなのに、授業間に無理矢理やってきて、本当に顔を出すだけ出すと、先生の助手の方に引っ張られ泣きながら授業へと戻って行っている。


 何故ならこのユルデンブルク魔法学校に来て、魔法学科を受けない生徒などいないからだ。


 魔法学科の基礎コースを飛び級する生徒はいたとしても、上位の学科はどの生徒も必ず受ける、必須科目だ。


 そんな中、ノアだけは上位の魔法学科も飛び級出来たらしいが、それは本当に稀なケースなのだ。


 つまり魔法学科の先生二人は一年中忙しいという事で、本来私の研究室に顔を出している時間など無いはずなのだ。


 なのでその事に、内心凄くホッとしている私だった。


 だってバンナヴィン先生とライリー先生って、本当にしつこいんだもん。


 あ、でも、しつこいと言えば一番はこの二人かも知れない……


 それは……


「ララ様、一緒に食堂へ行きませんか? この私がご馳走いたしますよ」 

「ララ様、息抜きに食堂へ参りましょう。今日は特別メニューの日ですよ」

「……校長先生……教頭先生……」


 そう、私の研究室にやってくる一番の問題児はこの二人だろう。


 ララ様、ララ様と慕ってくれるのは嬉しいが、ハッキリ言って有難迷惑でしかない。


 校長先生と教頭先生が通う研究室。


 うん。生徒達絶対敬遠するよね。


 という事で、お二人からのお誘いは丁寧にお断りしているのだが、今の所生徒は誰も来てくれない。


 先生たちが通う研究室……絶対に来たくないだろう。


 という事で、先生たちのお陰で、私の研究室は暇で暇でしょうがないのだ。


 さてさて、これからどうにかしないとだよねー。


 うーむ。と考える人となった私だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る