第577話 アダルヘルムの失策?

「エドアルド王子、リッカルド王子、おはようございます。昨夜は良く眠れましたか?」

「ララ姫様、おはようございます。はい、お陰様で良く眠れました。でも、お部屋が素晴らし過ぎてはしゃいでしまったので、ルイ様にはご迷惑をお掛けしてしまったかもしれません……」

「……おはよう……ございます……」


 エドアルド王子は朝から少し興奮気味な様子で私に挨拶を返してくれた。


 反対にリッカルド王子の方は余り眠れなかったのか、かなり暗い表情で言葉も重いし、元気がない。


 昨日の夜からルイに付いてもらって指導を受けているエドアルド王子は、迷惑を掛けたと心配そうにルイの方へと視線を送る。


 でもルイは幼い頃から自分より小さな子のお世話をして来た兄役のエキスパート。


 それに今でもブルージェ領の教育施設へ行っては、預けられた子供たちのお世話を進んで行っている。


 なのでエドアルド王子について来た護衛のマシューさんよりも、エドアルド王子はルイの方に懐いている様に見える。


 ルイが「大丈夫」と言う意味で頷きエドアルド王子の頭を撫でれば、ニコニコ顔を返し喜んでいた。


 その様子を見た王子の護衛さん二人が驚いた顔をしていたので、こんなエドアルド王子の姿は珍しいのだろう。


 アー君もエドアルド王子の事を大人しい子だと言っていたしね。


 それに今までの私への対応も、年齢よりも大人びていた気がする。


 きっと今までは頑張って王子様らしくしていたのだろう。


 ルイに頭を撫でられ「えへへ」と笑うエドアルド王子はとても可愛かった。




「えーっと、リッカルド王子は……お部屋は大丈夫でしたか? セオはきちんと教えてくれましたか?」

「ひっ……は、はい、大丈夫です。あの、何も、問題ありません。有難うございます!」


 セオの名を聞いた瞬間、リッカルド王子がビクリと跳ねた。


 そして俯いたまま私に視線を合わせることなく質問に答える。


 昨日までのちょっと生意気なリッカルド王子は今目の前にいない。


 世話係としてリッカルド王子の後ろに立つセオが怖いのか、震えている様にも見える。


 だけどセオは特に何もしていない。


 優しい笑顔でリッカルド王子の後ろに立っているだけ……それだけだ。


 だけどなんだろう……いつもよりセオの魔力がちょっと溢れてる? 気がする。


 それを感じてか、リッカルド王子付きの護衛のサイラスさんまで段々と青い顔になって来た。


 どうやらセオは、リッカルド王子と護衛のサイラスさんにだけ圧を飛ばしているようだ。


 笑顔がちょっと怖いよね。


 最初からリッカルド王子を余り良く思っていなかったセオ。


 アダルヘルムの指示とはいえ、そんなセオをリッカルド王子付きにしたのはやっぱり問題だった気がする。


 まあ、アダルヘルムの場合、わざとかもしれないけどね……怖い怖い。




 そんな朝の挨拶を終え一緒に食堂へと向かいながら、情緒不安定気味のセオを少しだけ心配した私だった。


 うん、後でセオに注意をしておこう。


 本気でリッカルド王子を虐めないでねと伝えた方がいいだろう。


 下手をしたらリッカルド王子のトラウマになりそうだ……


 だってセオはやっぱりアダルヘルムの弟子だもの。


 怒ったら怖い、私でもそれは分かるからねー。





「これから殿下方の事は名前で呼ばさせて頂きます。流石に商会内に ”殿下” と呼ばれる方がいらっしゃっては、従業員もそしてお客様も困惑してしまいます。御身をお守りする意味もございますので、滞在中はご了承ください……」

「はい」

「……は、はい……」


 スター商会の食堂で朝食を食べながら、アダルヘルムからの小言も頂く。


 今日は学校があるので準備が出来次第、私と一緒の馬車で王子様二人も登校予定だ。


 エドアルド王子は朝食メニューに目を輝かせながらモリモリと料理を口に運び、そしてリッカルド王子の方はアダルヘルムを気にしながら恐る恐る食事を口に運んでいた。


 二人が最初に食事を食べた感想は、美味しいでも、旨いでもなく「あたたかい」と言う驚きだった。


 いつも城で食べる朝食は、毒味係が調べた後らしく、食事は温いものか、冷たい物の様だ。


 そんな話を聞くと、なんだか凄く同情してしまう。


 やっぱり王子様って大変だよね。


 そんな不憫な王子二人の言葉を聞いたからか、ルイは甲斐甲斐しくエドアルド王子の世話を焼き、おかわりを進めたり、食事メニューの説明をしたりと、エドアルド王子を尚更可愛がりだした。


 そしてセオは、と言うと……


 リッカルド王子の隣に座り、食べる姿をただジッと見つめている。


 それも笑顔で……


 そして話を終えたアダルヘルムは、料理の味がまったく分からないような様子のリッカルド王子の前の席に座り、セオと同じようにリッカルド王子をジッと見つめだした。


 勿論こちらも笑顔だ……


 セオとアダルヘルムの美しい笑顔付きの朝食。


 怖い、怖い、怖すぎるよ。止めてあげてー!


 なのでリッカルド王子を守ると決めている私は、この重く恐ろしい雰囲気を、どうにか明るいものにしたいと、リッカルド王子に話しかけることにした。


「リッカルド王じ……ゴホンッ、リッカルド、さん? お味はいかがですか?」


 一瞬リッカルド王子が私をギロリと睨んだ、だけどセオやアダルヘルムの圧をすぐに感じたのか、視線を下に落とし震えだした。


 そして、食べている物ではなく、私に言いたかっただろう言葉をどうにか飲み込むと


「た、大変美味しゅうございます……」


 と、棒読み感丸出しでそう答えた。


 一体昨日の夜何が有ったのか分からないが、セオやアダルヘルムの前で私に文句を言ってはいけないと、リッカルド王子は学んだようだ。


 だけど無理矢理感丸出しのセリフに、もの凄く可哀想になってしまう。


 別に俺様王子的な性格でも良いと思うのだけど……


 アダルヘルムとセオの笑顔が怖くて、そうは言えない私だった。



「えーと……リ、リッカルド……さん、学園でのお昼はどうしますか? 学園の食堂を使用しますか?」

「……えっ……?」


 リッカルド王子は驚いた顔をする。


 もしかして学園に食堂がある事を知らなかったのだろうか?


 私も首を傾げていると、ご飯をいっぱい食べてご機嫌なエドアルド王子がその疑問に答えてくれた。


「ララ姫様、王族や高位貴族は昼食時、食堂ではなくサロンを利用する事が多いです」

「サロンですか?」

「はい、授業中は護衛や傍付きを呼び出せませんが、昼休みは側に呼び出せます。ですのでサロンで傍付きに給仕をしてもらいながらお昼を摂るのが王族としてのルールですが……うーん、今日はどうしましょう、マシューとサイラスしかいませんし、やはり我々も食堂で食べた方がいいですかね?」


 ポンポコリンなお腹を摩りながら、エドアルド王子が真面目顔で考える。


 こういった受け答えの時は、ルイに甘えている顔ではなく、王子らしさが出てくる様だ。


 でも、王族が普通に食堂に来たら、一般生徒が緊張するからサロンがあるんじゃないのかしら?


 だけど自分達でお昼をどうにかしろと言っても、昨日の今日でエドアルド王子やリッカルド王子、それに護衛の二人には何も出来はしないだろう。


 お弁当だって作った事なんかないはずだ。


 サイラスさんとマシューさんだって、王子付きの護衛になるぐらいだ貴族家の子息で間違いないだろう。


 だったら私が作ってあげても良いけれど?


 そんな事を考えていると、笑顔のアダルヘルムが良い事? を仰った。


「でしたらララ様の研究室で一緒にお昼を摂れば宜しいでしょう。ララ様にはたっぷり詰まったマトヴィルのお弁当が有りますし、セオとクルトがいれば、給仕されなくても自分で食べるという事を学べます。お二人にはいずれは自分でお弁当を作れるぐらいになって欲しいですが、まあ暫くはそれは無理でしょう。ですのでお昼はララ様と一緒に……エドアルド、リッカルド、宜しいですね?」

「はい! アダルヘルム様、僕、お昼もとっても楽しみです!」

「……はい……アダルヘルム様……ご、ご配慮、有難うございます……」


 アダルヘルムの提案にエドアルド王子は喜び、リッカルド王子は死んだ魚の目を浮かべたような不思議な表情になった。


 お昼もセオと一緒……


 リッカルド王子はやっぱりセオがとても怖いらしい。


 セオ、本当に何をしたの?!


 リッカルド王子、別人なんだけど!


 セオをリッカルド王子の世話係にしたアダルヘルムの提案は、失策だと感じた私だった。


 トホホホホ……




☆☆☆




こんばんは、白猫なおです。(=^・^=)

皆様お待たせいたしました。やっと、やっとの投稿です。( ;∀;)

昨日番外編を投稿させて頂きました。サイラスが主役ですが、セオが何をしたのか少しだけ分かるようになっています。宜しければそちらも見て頂けると嬉しいです。

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