第569話二人の王子2
「別に……ここへ来たのはただの偶然だ……その、が、学園内が気になって、エドアルドと見て回っていた……そしたら話し声が聞こえたから……気になって何となく扉を叩いただけだ……」
エリー先生の圧に押されてか、リッカルド王子は不貞腐れたままそう答えた。
確かに王子様二人は受験も城内で受けている為、学園へ顔を出すのは今日が初めてなのかもしれない。
ちょっと探検してみようぜ! わーい! と、わんぱくな男の子達がそんな発想を持ってしまうのはわかる気がする。
それに学園内は普段ならば王子を嗜めるであろう従者も居ないので、本当の自由を今日初めて二人は手に入れた……のかも知れない。
きっと国王であるアー君とロレンツィオ王太子殿下は先に城へと帰ったのだろう。
入学式には出席したとしても、ホームルームまで王と王太子が残るとは思えない。
だって普通に考えて王様も王太子も忙しいものだ。
まあ、うちのリアムよりかはマシかも知れないが、それでも分刻みのスケジュールだと聞いている。
ならば王子付きの従者に二人の事は任せ、城へ戻っても不思議ではない。
一般の側付達とは別室の従者控え室で待たされている王子付きの従者達は、王子が二人とも部屋へとまだ戻らないことで、ホームルームが長引いているだけだと思い込み、歩き回っている事に気付いていない可能性はある。
ホームルーム長いな〜。
ぐらいに感じているか、もしかしたら他の生徒達が帰る姿を見かけ、今頃二人の教室か、職員室、はたまた校長先生の下へ向かっている可能性もあるだろう。お気の毒に……
だけど、それよりも何よりも気になる事は、リッカルド王子が「おまえがスター商会の会頭か?」と私に向けてそう言ってきた事だ。
リッカルド王子はたまたまこの部屋に来た訳ではなく、スター商会の会頭である私に会いに来た。
そう考えるのが普通だろう。
エリー先生がいるから誤魔化した。
言い訳だから口ごもった。
この部屋にいるリッカルド王子以外の皆がその事に気がついていた。
「あらー、ウフフ……そうなんですか? ですが、リッカルド王子、ララちゃんのお部屋は教授棟の一番奥ですよ? ここまで来るまでにも他に沢山のお部屋があった筈ですけどー? そちらは気にならなかったのですか? ウフフ……」
「そ、それは……他の部屋は……だ、誰も、いなかったんだ……」
「あらー、それは可笑しいですねー。私は殿下達よりも少し前に教授棟の廊下を歩きましたが、モルドン先生はお部屋でかなり騒いでいましたよー? 普通でしたらそちらの方が気になるものではないですかー?」
「うっ……そ、それは……」
「それは?」
ニコニコ笑顔のエリー先生の圧が怖い。
エリー先生はリッカルド王子の「私(ララ・ディープウッズ)が嫌いだ」と言う感情を読み取ったのだろう。
だから友人として、そして同僚として、その上アダルヘルムに私を任された者として……容赦なく追求しているのだと思う。
それに私は一応はこの学園の教授として扱われている。
その相手に対し「おまえ」と言った事も悪かった。
それに素直に本当の事を言えばいいのに、どうにか誤魔化そうとするからエリー先生も警戒する。
なので当然セオとクルトも超警戒中だ。
レオナルド王子の弟に対して殺気はいらないんじゃない? と思うのだけど、二人は抑える気は無いようだ。
この年頃の子供なんて、ちょっと我儘な事しちゃうものでしょう?
責められるリッカルド王子が気の毒になりそう口を挟もうとしたところで、エドアルド王子が先に口を開いた。
「ごめんなさい、僕達、スター商会の会頭に会いたかっただけなんです……」
「エドっ!」
リッカルド王子は素直に答えたエドアルド王子を止めようとするが、エドアルド王子は首を横に振る。
エドアルド王子の落ち着いたその表情は、もう誤魔化すのは無理だよと言っているようだった。
「あの……殿下方は私に会いたかったのですか? 何故?」
「はい、ディープウッズの姫様、急に押し掛けて申し訳有りません。僕は以前からスター商会にとても興味がありました。いつもお城でスター商会の美味しいオヤツを頂いています。だから気になってスター商会の会頭に会って見たかったんです。でも突然押し掛けるのは失礼でした。申し訳ありません……」
エドアルド王子はそう言って頭を下げた。
本来ならばこの国の王子様であるエドアルド王子は簡単に頭を下げたりはしてはいけないのだろう。
だけどここは学校内。
身分は関係ない場所だ。
それに私は一応は教授。
立場的には二人よりも上になる。
エドアルド王子はその事がしっかり分かっているようだ。
第一王子という事で、ディープウッズ家には手を出すな……と言う噂話もしっかり刷り込まれ、教育されているのかも知れない。
だけど末王子のリッカルド王子の方は、エドアルド王子が頭を下げた事が気に入らなかったのだろう。
私がエリー先生に命令して、エドアルド王子に無理矢理頭を下げさせた、そう思っているか酷い顔を私に向けて来た。
「おまえっ! 兄上だけじゃ無く、エドアルドまでりょうじょくするのかよっ! 最悪な女だなっ!」
「リッカルド?!」
エドアルド王子が息をのむ。
なんて言葉を言うのだ、と驚いている様子だ。
私は苦笑いでリッカルド王子を見つめる。
流石にこれは我儘では済まないでしょう。
だってレオナルド王子が私に……って事ですからね。
「リッカルド王子、もしかして陵辱? と言いたいのですか? 殿下、その言葉の意味をわかって使われていますか? それはレオの事も侮辱している言葉だと思いますよ?」
「五月蝿い! 黙れ! 兄上を気安くレオだなんて呼ぶなっ! おまえは悪徳商人のくせにっ! 生意気なんだよ! 俺は絶対おまえを認めない! レオ兄様は渡さないからなっ!」
叫ぶリッカルド王子を懲らしめてやろうかと、恐ろしい顔をしているセオとクルトを視線で止める。
アダルヘルム同様、愚かな王子嫌いになりつつあるセオとクルトは、二人の主である私に不躾に文句をぶつけるリッカルド王子のことが許せないのだろう、手加減なしで叩き潰しそうで怖い。
これぐらいの男の子の癇癪なんて可愛いものだ。
ただ知らない言葉を無理矢理使うのはどうかと思うけどね。
まあ、リッカルド王子は多少幼過ぎる面もあるけれど、世間を知らない王子様ならば仕方ないと許せる範囲だと思う。
それにリッカルド王子のこの言葉は、兄であるレオナルド王子を心配する気持ちと、スター商会へ通う、兄に対しての焼きもちからだと分かる。
可愛いもんじゃないか、とニコニコしてリッカルド王子を見つめていると、リッカルド王子は椅子を倒して立ち上がり、「行くぞ!」とエドアルド王子の手を引いて部屋を出て行ってしまった。
エドアドル王子はあまり表情には出ていなかったけれど、部屋を出る時申し訳無さそうにペコッと頭を下げていた。
中々に可愛い王子達だったなぁーと、一人お茶を飲み飲み楽しんでいると、底冷えするような声が横から聞こえてきた。
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