第568話 二人の王子
セオが警戒しながら扉を開けると、綺麗な金髪の男の子二人が並んで立っていた。
一人はセオの友人レオナルド王子に良く似た男の子で、王子様にしては髪が短く、今は少しムッとした表情を浮かべている。
入学式で上手にキョロキョロしていた男の子。
そう、リッカルド・レチェンテ王子。
レオナルド王子の弟殿下だ。
確か第五王子とか? だったはず。
アレッサンドロ・レチェンテ王の末息子。
この国の末っ子王子で、レオナルド王子が可愛くって仕方がないと言っていた愛され王子だ。
確かに可愛い見た目で、柴犬の子犬のようだ。
それにまだ、前世の小学生男子のような、ヤンチャな感じが残っている。
ムムム……とへの字に口を曲げているが、そんな表情が余りにも可愛いのでこんな弟が欲しいなぁと少し思ってしまった。
レオナルド王子が焼きもちを焼く可能性があるので、勿論口にはしないが、仲良くなってナデナデしてみたいと思える男の子だった。
そしてもう一人の男の子は、入学式で挨拶をしたエドアルド・レチェンテ王子だ。
アレッサンドロ・レチェンテ王、つまりアー君の孫であり、王太子ロレンツィオ・レチェンテ殿下の息子くんだ。
つまり未来の王様になる予定の子となる。
そんなエドアルド王子は、レオナルド王子やリッカルド王子よりも落ちた金色の髪色で、瞳は綺麗なグリーンだ。
アー君にも似ているけど、なんといっても父親の王太子殿下によく似ている。
エドアルド王子は大人しい男の子なのか、それとも第一王子としてしっかりと躾けられているからか、無表情のままリッカルド王子の隣にただ立っている……借りて来た猫感丸出し……という感じだ。
そんな二人の様子だけで、どちらが私に用事があるのかが分かった。
警戒中のセオに頷き、二人を部屋へと通すようにと目配せすると、リッカルド王子は遠慮気味なエドアルド王子の手を引っ張りながらドカドカと足音を立てて部屋へと入って来た。
「おま、おまえが、スター商会の会頭なのかっ?!」
部屋へ入るとすぐ、挨拶をする訳でも無く、席に着く訳でもなく、子犬のようなリッカルド王子は私を指さし、そんな事を言って来た。
その瞬間セオとクルトの魔力がピリピリッと張り詰める。
アダルヘルムから「愚かな王子」は絶対に私に近づけないようにと言われている二人は、警戒を強めたのだろう。
友人のレオナルド王子の弟でなかったら、リッカルド王子の事をすぐ様ポポイノポイッと窓の外へ投げ捨てていただろう。
笑顔を浮かべているのに、怖い表情をしているセオとクルトの様子を見て、私はアダルヘルムを思い出していた。
そんなとこまで似なくても良いのに……
アダルヘルムの教育はしっかりと弟子に受け継がれている様だった。
「あらあらまあまあ、リッカルド殿下、それが紳士としてのご挨拶なのですかー?」
私しか目に入っていなかっただろうリッカルド王子は、優し気でありながら、男性らしい低い声で話しだしたある人物に、ビクリと肩を揺らし視線を送る。
そして落ち着いているエドアルド王子の方はその声の主、エリー先生に最初から気がついていたのだろう、礼儀正しくペコリと小さなお辞儀を返していた。
「クソッ、卑怯な奴だ……もう教師を仲間にしているだなんて……」とリッカルド王子は小さく呟いたが、この部屋は特に五月蠅い訳ではないので、その呟きは私だけでは無くセオやクルト、そして勿論エリー先生にも聞こえてしまった。
何となくリッカルド王子の行動が、残念王子っぽくって笑いが出そうになる。
きっと周りがちゃんと見えていないのだろう。
兄殿下のレオナルド王子も最初はそうだったらしいからね。
狭いお城の中の小さな世界しか知らないのだ、それも仕方ないことだと思った。
「コホンッ、えーと……リッカルド・レチェンテ王子? 初めまして、私はララ・ディープウッズ、スター商会の会頭です」
「お、俺はっ――!」
とそこまで言いかけたリッカルド王子は、笑顔なエリー先生の無言の圧を感じたのか、急にもぐっと押し黙る。
きっと先程ご挨拶は? と言われた事を思い出したのだろう。
またまたムムム……と可愛い顔になった。
まあ、押し黙ったのは、エリー先生の笑顔がとっても怖いって理由もあるとは思う。
エリー先生ってば、王族でも容赦無しなんだねー。
うん、さっすが私の尊敬する先生だ。
学園内は身分差なし、それを体現してくれている。
普通は中々出来ないし、カッコイイよ。
エリー先生がこの学園の校長先生になれば良いのでは? とちょっと思った事は内緒にしておこう。
校長先生がいじけそうだからね。
「あ、あの、ディープウッズの姫様、僕はエドアルド・レチェンテです。初めまして……」
ムムム……と黙り込んだリッカルド王子を気遣ってか、それともエリー先生の圧を感じてか、エドアルド王子が先に挨拶を始めた。
それを見てリッカルド王子も渋々挨拶をする。
唇を少し尖らせているのはご愛嬌。
リッカルド王子は「リッカルド・レチェンテだ……」とそれだけ言うと、プイっとそっぽを向いてしまう。
どうやら私はリッカルド王子に相当嫌われているようだ。
一体何故だろう。
思い当たる節がない。
だってレチェンテ王家とは仲良くしているはず。
特にセオの友人であるレオナルド王子は、休みの度にセオとルイに会いにスター商会へと来ているし、姉のジュリエット王女も週の半分はスター商会に来ているし、シャーロット王女だって婚約してからも良く来ている。
それにアー君もスター商会に何度か来たこともあるし、何よりスター商会のお菓子は王城でも大人気だ。
嫌われる要素は何もない。
どちらかというと好かれていても不思議ではないぐらいだ。
第一、入学式を除けばリッカルド王子にもエドアルド王子にも会うのは今が初めてだ。
リッカルド王子の態度から、私が嫌われているのは充分に理解出来たけれど、理由はまったく分からない私だった。
「美味しい……」
クルトが入れたお茶を飲みながら、エドアルド王子がそう呟いた。
無表情だったその顔に、少しだけ頬に赤みが差し、嬉しいのか口元が弧を描いているのが分かる。
そしてエドアルド王子は次にお茶菓子に手を伸ばした。
今日のお茶菓子は定番のバームクーヘンだけど、リアムの好きなキャラメル味で店ではまだ販売していないものだ。
「これ、すっごく美味しいです!」
と、ここで初めて笑顔を見せたエドアルド王子は、気持ち早食い気味だけど、しっかり躾されているのか、食べる所作がとても綺麗だった。
だけど気に入ったからか、口元へバームクーヘンを持って行くのがとても早い。
気に入ってくれてとっても嬉しいけれど、この場に毒見係りはいなかったが大丈夫だっただろうか? 後で怒られないかな?
そしてそんなエドアルド王子の横に座っているリッカルド王子の方は、私を警戒しているからか、お茶もお菓子にも手をつけていない。
ただし、ゴクリと喉を鳴らしていたので可哀想になっちゃったけどね……
今度レオナルド王子がスター商会に遊びに来たら、お土産にこのバームクーヘンを持たせてあげよう。
お兄様のお土産ならば、リッカルド王子も食べてくれるでしょう。
エドアルド王子がおやつのお代わりをクルトにお願いしたところで、エリー先生がまた二人に話しかけた。
「それで、殿下達お二人はどうしてこちらへ? 今日は入学生はホームルームが終わり次第、帰宅のはずですが? もしかしてララ様に何かご用事があったのですか?」
エリー先生は笑顔だけど、やっぱりちょっと怖かった。
勝手な行動をする生徒。
例え王族でも教師としてそれを許す気はない。
エリー先生の笑顔は、そう言っているようだった。
☆☆☆
こんばんは、白猫なおです。(=^・^=)
今日……いいえ、今この瞬間、大変なことに気が付きました……
一話丸々ストックが消えていました……おおおおーーー! ショック―_| ̄|○
頑張ります……ううううう。
エドアルド王子がエドアドル王子に変換されてしまう時があります……間違えていたらすみません。気を付けます。
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