第567話 ユルデンブルク魔法学校の入学式です
入学式が始まった。
制服姿の、どう見ても新入生にしか見えない私が先生方に混じり、教師陣の席へと着くと、式直前だと言うのに会場にはザワメキが起きた。
まあ、当然ですよね。はい。
そして入学生の生徒が座る席の中には勿論ノアが居て、私を見るとお母様に良く似た美しい顔に笑みを浮かべ、小さく手を振って来た。
周りにいる生徒達(男女ともに)はそんなノアの笑顔にノックアウトされたのだろう。
魂を抜かれた様にポーッとして赤くなっていた……可哀想に。
きっと今日の入学式の想い出など、ノアの笑顔しか残らない事だろう……申し訳ない。
そして絶対目立つ存在のアダルヘルムやマトヴィルはというと……二階にあるボックス席になっている来賓席の一番良い席に陣取って? いや、案内されていた。
周りの来賓達は従者付きで席についている人ばかりなのに対し、アダルヘルムとマトヴィルは二人きりなので……いや、後ろの方にルイもメルキオールもいるかな? とにかく他の席よりも人数が断然少ないため良く目立つ。
まあ、そうじゃなくてもあの二人の見た目だけで充分に目立っているのだ。
注目を集めるのは当然。
セオの入学式の時にも思ったが、保護者の方は是非ともお子様を見て欲しい。
注目を集めるアダルヘルムとマトヴィルを見て、今日晴れの日を迎えた入学生が凄く気の毒になってしまった。
「新入生誓いの言葉、一年Sクラス、エドアルド・レチェンテ殿下」
「……はい……」
試験で首席だったのはノアだったのだが、ノアは新入生代表を勿論断った。
ノアは人形という事もあるが、元々学園にそれ程興味もない。
それにセオの友人であるレオナルド王子からは、弟と甥っ子がこのユルデンブルク魔法学校へ入学すると聞いていた。
なので「挨拶僕じゃなくても良いよねー?」と校長先生に声掛け(笑顔の脅し?)をしたところ、すんなりと許可されたようだ。
校長先生としては王族も立てなければならなかっただろうし、ノアが断って丁度良かったのかもしれない。
まあ、アダルヘルムのあの時の怒りが怖かった……という理由もあるだろうけれど、私に対してもそれぐらいの気遣いを校長先生にはして欲しかったと思っても、仕方がないだと思う。
私もアダルヘルムに校長先生が怒られてから「一生徒が良い」と言えば良かった。
まあ、もう済んだ話なので今更何を言っても遅いんだけどねー。
そんな ”エドアルド・レチェンテ殿下” と呼ばれた王子様は、アー君事この国の王様アレッサンドロ・レチェンテ王の孫になる第一王子だ。
アー君から話はちょこっと聞いていたけれど、レオナルド王子とはタイプが違う、大人しい様子の男の子だった。
保護者席にはアー君と息子さんで王太子のロレンツィオ・レチェンテ殿下も、息子の雄姿を見るために来ている様だった。
そう、王子の入学は一人ではない。
レオナルド王子の弟君、つまりアー君の末の息子君も今日入学なのだ。
たしか名前はリッカルド・レチェンテくん。
この子も成績が良かったとレオナルド王子から聞いているので、きっとノアと同じクラスのSクラスだろう。
少し気になりノアのクラスの生徒に視線を向けてみると、レオナルド王子とよく似た顔をした、明るめの金色の髪をした男の子を見つけた。
少しわんぱくそうなその男の子は視線をあちこちに送っては、周りに気付かれないように目だけでキョロキョロしていた。
悪戯がバレない様にしている子犬みたいで面白い。
器用な子だなぁと感心していると、Sクラスの中に私の心の友、そう親友のディックを見つけた。
(おう! ディックだー!)
今朝は「おめでとう」の挨拶が出来なくて、ガックリしていただけに、ディックを見つけて嬉しくなる。
制服似合ってるじゃん! とジッと見つめていると、ディックは私の視線を感じたのかこちらに視線を送って来た。
そしてディックは小さな笑みを口元に浮かべると、なんとウインクをした。
どうやらディックもウインク属性の持ち主のようだ。
中々上手で羨ましいぐらいだ。
私の後ろに騎士として立つウーノ症候群なセオが、そんなディックのウインクに気が付いたのだろう。
入学式に邪魔にならない程度の小さな音で「ゴホンッ」と咳払いをする。
私とディックの親友関係が羨ましいセオはまだ続いているようだ。
セオにはリアムがいるではないか?
でも……やっぱり命の恩人であるウーノはきっとセオの中では特別なんだろう。
リード、早く連絡をくれないかしら?
と、情緒不安定なセオを心配しながらも、私も不得意ながらディックにウインクを返す。
両目同時に瞑らなかった自分を褒めて上げたい、訓練の成果だろう。
ただ会場ないからは「うっ……」と呻くような声があちらこちらから上がっていた。
それ程私のウインクは酷いらしい……
クルトが小さく低い声で「ララ様、問題を起こさないでくださいね……」と言ってきたが、どうやら私のウインクは問題行動の一つのようだ……そこまで酷いのだろうか……
ウインクマスターへの道は程遠い。
リアムに師事しなければ、とそう思った。
そして無事入学式を終え、また職員室へと向かう。
ノアやディック達一般生徒は、入学式の後ホームルームを終えると帰宅の予定だ。
なので私の保護者であるアダルヘルムとマトヴィルもノアたちと帰宅予定だ。
今から私は教師の一員として行動する、ある意味大人の仲間入り。
そして職員室で他の先生に挨拶を終えたあと、私は職員として自分に与えられた研究室へと向かうのだ。
職員室から出ようとしたところで音楽学科のカッミラ先生に声を掛けられた。
鍵盤魔道具の制作者であるロメオ・バルトさんの事を聞かれたので、まだスター商会にロメオさんは居るのだと答えると「申し訳ございません……」と苦笑いになっていた。
先生が謝る必要は何もないのだけど、自分が連れて行くと約束した手前、気にしてくれているようだ。
なのでマルコやヨナタン、オクタヴィアン達スター商会の研究員と、音楽用の魔道具製作をしているので気にしないでくださいと伝えると「そのまま住み着いちゃいそうですわね……」と気の毒そうな表情で言われたので、今度は私が苦笑いで頷いておいた。
だって既に研究所にはロメオさんの部屋が出来てるからね。
それに副会頭であるリアム達にも、また違う部門が出来たと認められているしね。
まあ、一緒に興奮した中なので友情が芽生えたのだろう。
鍵盤魔道具による吊橋効果。
良かったのか、悪かったのか?
うん、スター商会的には良かったのだろう。
ただリアムの仕事は益々増えそうだけどねー。
学園内に用意された私の研究室は、他の先生たちと同じ研究棟の中の一番広い角部屋だった。
その部屋は三つに分かれていて、キッチンなども付いている豪華な研究室だ。
部屋の中で一番広い中央室が、メインの仕事部屋だ。
その横に従者部屋と、私専用の個室がある。
個室にはベッドなどを置く先生がいたり、教材室にする先生がいたりと、使い方は色々なようだ。
まだ私が何をメインに生徒に教えていくかも決まっていない状態なので、この部屋の使い方は今の所検討中だ。
ただキッチンだけはリフォームをして、もう少し大きく使いやすくしようとは思った。
だって生徒が沢山押し掛けてきたらいっぱいお料理をしなければならないものね。
グフフッ、友達百人作る予定の私はお友達にお料理をご馳走する気満々なのだった。
「ララちゃーん、荷物片付いたー?」
「エリー先生! もしかして心配して来てくださったんですかー?」
「ウフフ、当然でしょうー。ララちゃんと私は同僚だけれど、貴女は一応この学園の生徒なんですからねー、気になるわー」
「フフ、エリー先生、有難うございます!」
良い子良い子と私の頭をマトヴィル並みの強さで撫でるエリー先生を招き入れ、お茶タイムにする。
部屋の片付けも何も、まだ何も持ち込んでいないのでやる事はほとんどない。
クルトが入れてくれたお茶を飲みながら、皆でお菓子も楽しむ。
さて明日から何をしようかなぁーと考えていると、部屋の扉を叩く音がした。
セオが護衛として扉を開けてくれると、そこには二人の少年が立っていたのだった。
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