第565話 スター・リュミエール・リストランテ二号店(元テンポラーレ)オープン

 今日は元テンポラーレ事、スター・リュミエール・リストランテ二号店のオープン日。


 二号店は、スター・リュミエール・リストランテ一号店(スター商会王都店)と同じ中央地区に有るのだが、西区寄りの為二号店としては丁度いい立地だ。


 遠すぎず、かといって近すぎもせず。


 その上一応は中央地区に有る為、人通りも多い。


 第一号店よりは少し小さい店とはなるが、何よりも外観がメルヘンチックで可愛いため、落ち着きのある一号店とは雰囲気が違い、どちらも行ってみたいと思わせるものだ。


 そしてメニューも一号店とは違うものを用意し、お値段も少しリーズナブルにして、一号店よりももっと庶民が来店しやすいようにしてある。


 値段が高くなりやすい夕食(ディナー)はバイキング形式にし、人件費を削る事で値段を下げる事にした。


 もっと多くの人にスター・リュミエール・リストランテの味を知って貰いたい。


 店の雰囲気と食事を楽しんでもらいたい。


 そんな願いが二号店のお陰で叶いそうだった。


「ララ様、おはようございます」

「ホフマンさん、おはようございます! お早いですねー」

「はい、今日の開店が気になって気になって、いつもより早く目が覚めてしまいました。折角ですので準備を手伝わさせてください。お願い致します」

「ですが……ホフマンさんは主賓ですのに……」

「はい、なので一番沢山手伝いたいんです!」

「まあ、フフフ……ではお願い致します。衣装はこちらでお預かりいたしますね」


 元のお店であるテンポラーレは自分のお店だったという事もあり、ホフマンさんは今日の衣装を別で持ち込み、手伝う気満々で開店前の店にやって来た。


 二号店のオープンを見守った後、ホフマンさんは男爵領の領地へと帰る予定だ。


 そこで奥様と二人、余生を楽しむらしい。


 愛する奥様の応援があり、料理好きが高じて始めたレストラン。


 貴族である男爵みずから厨房に立ち、腕を振るっていたホフマンさん。


 これからは領地で愛する奥様だけの為に、その腕前を披露するようだ。


 こんな素敵な夫婦になりたい。


 ホフマンさんご夫婦は、私にそう思わせるほど仲睦まじい夫婦なのだ。



「ホフマンさん、今日は奥様と息子さんがいらっしゃるのですよね?」

「はい、孫達も来たがっておりましたが、開店日は忙しいからと息子夫妻と娘夫妻共に嗜めておりました。孫達は近いうちに子供達夫妻がここに連れて来る予定です」

「まあ、ご一緒でも宜しかったですのに……」


 ある意味お爺様の店の新オープンとも言えるイベントだ、きっとお孫さん達も店の様子を見たかったことだろう。


 だけど腕捲りをして作業を手伝うホフマンさんは、少し困ったような笑顔で首を振った。


「孫が来ますと、その……私も妻もそちらに意識が行ってしまいますからね……本当は息子にも辞退して貰いたいぐらいだったのですよ、ハハハハハ」


 おう! ラブラブだ!


 奥様と二人きりで食事を楽しみたい。


 自分達の店の新しい形を二人きりで楽しみたい。


 うん、確かにデートに大きな息子がいたら邪魔だよねー。


 では出来るだけ私が息子さんのお相手を致しましょう。


 二人のディナーを楽しんで頂きましょう!


 私がそんな決意を固めていると、バッチリとカッコ良くきめたリアムがやって来た。


 テンポラーレの可愛らしさを意識してか、今日は薄い黄色の衣装に白いタイでカッコかわいい。


 長く綺麗なオレンジ色の髪も、同じ色合いのリボンで纏めている。


 まるで絵本の中から出て来た王子様のようで、セオとクルトと一緒に「リアムカッコイイ!」と褒め称えると、リアムは耳を赤くして照れていた。可愛い。


 やっぱり好きな人(セオ)に褒められると、聞きなれた言葉でも嬉しいようだ。


 相変わらずリアムってば可愛い人だなぁと、思わず口元がニヤけてしまった。うふふふ。



「あー、ララ、予想通り店舗前は既にすげー人集りだ。30分繰り上げてオープンするぞ」

「はーい、了解! じゃあホフマンさんは直ぐに着替えて頂きましょう! クルト、案内とお手伝いお願いします」

「はい」

「じゃあ、私とセオは調理場のお手伝いしてるね。あ、でも、セオはリアムに付いててもらった方がいいかな?」


 恋煩い中のリアムにちょっとだけ気を利かせてそんな提案をしてみたのだが、何故かリアムとセオが怖い顔でジロリと私を睨んで来た。な、何故?!


 リアムの後ろではランスが「はー」と小さなため息を吐き、その横にいるジュリアンは苦笑いだ。


 あれ? なんかみんな呆れている?


 そう思った瞬間、息ピッタリなリアムとセオにガシリと肩を掴まれた。こわっ!


「ララ、おまえ~、一人になった瞬間、どっか行く気だろう~?」

「ララ、俺言ったよね、単独行動はダメだって! 俺は絶対にララから離れないよ」

「いや、あの……そうじゃ――」

「ララ、まさかあのリードから連絡あったんじゃ~無いだろうなー? 勝手に会いに行くだなんて俺は許さねーぞ」

「それとももしかして……ララがリードに連絡しようとしてるんじゃ無いの? 俺はそんな危険な事許さないからねー」

「いや、まさか、そんなことは……」

「ああ、おまえは一人にすると危険だからなー」

「うん、俺は絶対側から離れないからねー」


 おう! 息ピッタリ!

 

 もしかしてこの二人、もう付き合ってるんじゃないの?!


 ってか、既に似た者夫婦(夫夫?)だよねー?!


 リアムとセオは笑顔だけど目が怖いという似た顔をして、私を壁際へと追い込んだ。


 怖い、怖すぎるよ。


 オープン前にその顔は反則です。


 笑顔、笑顔、商人は笑顔が命ですよー!


 折角なのでラブラブにしてあげようと気を使ってみたけれど、どうやらそれは余計なお世話だったようだ。


 きっと私の知らないところでこの二人の恋愛は進んでいるのだろう。


 一通りお小言を言って私の肩から手を離した二人は、その後もヒソヒソと何かを話し合っていた。


 おう……怖い、怖いカップルの誕生だよー。


 うん、気をつけよう。


 その内どこかへ閉じ込められそうだ。


 ブルブルと身震いをし、リアムの気持ちを知るランスに「あの二人もう両想いかも」と目で話しかける。


 それを受けたランスは良い笑顔で首を横に振っていた。


 どうやらあの二人はまだ「恋人未満、友達以上」の関係の様だ。残念。


 とにかく自然の流れに任せよう。


 主思いなランスの小さなため息を聞いて、そう思った私だった。


 とにかくスター・リュミエール・リストランテ二号店開店です!


 家族でも、ホフマンさんたちみたいな素敵なご夫婦でも、そしてリアムとセオみたいな恋人同士でも、ゆっくりたっぷり楽しめるお店です。


 是非一度足を運んで下さいね!


 ブルブルブル……

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