第564話 新鍵盤魔道具

 鍵盤魔道具の製作者であるロメオさんに自ら作り上げた魔道具の発動状態を見せるため、魔力たっぷりな私が鍵盤魔道具で音楽を奏でた所、部屋で聞いていた皆が皆、超興奮状態となってしまった。


 鍵盤魔道具を弾いていた私自身には影響がなかった為、孤立無援、私一人で皆を宥め、どうにか落ち着かせるまでに一時間も掛かってしまった。


 本当ならばもう一度鍵盤魔道具を弾いて落ち着かせる曲を演奏すれば良かったのだが、皆が勝手に(特にセオ)飛び出して行ってしまいそうで、一人対複数ではどうにも出来なかった。


 その上、スター商会内にも微かに曲が聞こえていたらしく、買い物に来たお客様や、他の従業員達も微かに興奮してしまい……


 リアム達が落ち着いてから、急いで心を落ち着かせる曲を弾いたのだが、その日のスター商会の売上はかなりの金額になったようだ。


 ううう……申し訳ない……


 選曲が悪かったのよねー……


 と、言う事があり、昨日は新鍵盤魔道具をロメオさんにお披露目する事は出来ず、まだ微妙に興奮気味だったロメオさんにはスター商会の客室にお泊まりしてもらう事になった。


 昨日一日、ロメオさんは興奮し過ぎたせいか、「申し訳ない」と言いながらも、夕食を摂った後、ばたんきゅーと倒れるように寝てしまった。


 たぶんこの事で自分の作った魔道具の恐ろしさが良ーく分かっただろう。


 人を操る事が出来る、魅力する力がある魔道具。


 この魔道具は絶対にウイルバート・チュトラリー達には渡せないとそう思った。





「では、これから新鍵盤魔道具を操作致しますね」


 そして翌日。


 新鍵盤魔道具の前に座り、何を弾こうかなーと考える。


 ロメオさんを見るとどうしてもかの有名な音楽家さんが浮かんで来てしまうため、昨日に引き続きその方の曲を弾く事にする。


 けれど、この新鍵盤魔道具はほぼピアノだ。


 曲を聞いたからといって昨日の様に興奮したりなどはしない。


 部屋に流れる音楽に皆が耳を澄ませる。


 新鍵盤魔道具の音を感じるように目を瞑り、心地よいような顔をしている。


 そして「ジャンッ」と曲を締めると、皆立ち上がりスタンディングオペーションで私を褒め称えてくれる。


 そして肝心なロメオさんはというと、とっても良い笑顔だ。


「素晴らしい! 素晴らしい曲です! これも会頭様がお作りに?」


 曲かよっ!!


 と、ツッコミたくなったが、そこは勿論笑顔で誤魔化す。


 かの有名音楽家さんの曲を聞いたのだ、ロメオさんが感動するのは当たり前。


 そう、鍵盤魔道具を見に来ているとは言え、ロメオさんは元々音楽家希望の方なのだ。


 聞きなれない曲に注目してしまうのは仕方がない。


「有難うございます」


 と取り敢えずお礼を言うが、私が作曲したわけではないので、「どこかで聞いた曲ですのよ、オホホホー」と誤魔化しておく。


 だけどロメオさんはそんなセリフは聞こえていないのか、聞く気がないのか、自分と同じように感動している周りのリアムやセオ、クルト達の方へと振り返り曲の感想話を始めた。


「いやー、昨日に引き続き今日も素晴らしい曲ですねー」

「そうでしょう、そうでしょう、ウチの会頭は多彩なんですよー。ハハハハー」


 リアム、ドヤ顔やん!


「ララは沢山の曲を作曲しているんですよ。屋敷でのクリスマスパーティーの時は俺達の為に沢山の曲を弾いてくれるんです!」


 セオ! お前もかっ!


「私の主であるララ様はユルデンブルク魔法学校の音楽科を入試試験だけの一発で卒業ですからねー! 会頭としてだけでなく音楽家としても一流なんですよー! アハハハハー」


 ええっ? クルトまでっ?!


 普段私をディスる事が多いクルトまでもが、ご機嫌顔で私を褒め称えている。


 もしかしてこの新鍵盤魔道具も失敗なの?!


 やっぱり人を操ってしまうの?!


 わいわい、あははーと盛り上がっているロメオさん達を見つめ、呆然としていると、壁際で控えていたオクタヴィアンにちょいちょいと肩を叩かれた。


「ララ様……多分ですが、ララ様の魔力量が巨大すぎるんだと思います……」

「えっ? オクタヴィアン、それはどう言うことですか?」

「はい。新鍵盤魔道具は人をリラックスさせる効果があります。誰が弾いても、どんなに下手でも、最低限の腕前が有れば心を落ち着かせる効果がある。これはそう言う魔道具です」


 オクタヴィアンの言葉に私も頷く。


 それは分かっているからだ。


 まあ、あまり下手くそだったり、適当にバンバンと鍵盤魔道具を叩いたとしても、この魔道具の本来持つ力は発動しない。


 だけど小さな子が弾くようなレッスン曲であっても、不快にはならず、穏やかな気持ちになれる、そんな癒し系魔道具だ。


 だけど何故?


 あの人達は?


 と思っていると、得意顔のマルコが横から口を挟んできた。


「つまり奴らは酔っ払っている状態だな!」

「えっ? ええっ?」

「そうですね、俺たちは制作の段階からこの魔道具でのララ様の曲聴いてるから耐性があるけど、リアム様達は初めてだからなー」

「えっ?」

「うむ! それに奴らはララに、ララ様に元から心酔している! あっという間に酔っ払ってしまうのも当然だ!」


 ガハハハッと笑うマルコの横で、オクタヴィアンとヨナタンもうんうんと納得顔で頷いている。


 いや、でもまって!


 リアムやセオ達は家族だから私に心酔って少しは分かるよ!


 彼らは私の事を、かわいい妹だと娘だと思っているからね!


 でもさ、ロメオさんは昨日会ったばかりの人。


 私に心酔しているなんてあり得ない!


 なので勿論私は研究組に言い返した!


「ちょっと待ってください、皆、落ち着きましょう……つまりオクタヴィアンは新鍵盤魔道具も旧鍵盤魔道具と同じだと言っているのですか?」

「いいえ、違います。旧魔道具はまず魔力が小さい者では弾けません。ですが新魔道具は誰でも弾けます。そして旧魔道具は魔力の高い者が攻撃的な曲を奏でれば、聞こえたもの皆に危険過ぎる影響を与えます。ですが新魔道具の方は心を癒すだけで何の問題も有りません。ただ……ララ様は魔力が多いだけでなく、奏でる技術も一流です。それにリアム様達はララ様を愛しています……ですので酔いしれてしまうのも仕方がないかと……」

「で、ですがロメオさんと私は昨日会ったばかりですよ! なのに私に酔いしれるなんて事は……」

「ララ! ララ様! 俺は知っているぞ! それを一目惚れと言うのだ!」

「ひ、一目惚れ……?」

「そうだ! ロメオにとってララは、ララ様は、運命の相手と言う事だ! ガハハハッ! 流石ララ様だな! 人を惑わすことも一流だ! これならば商人だけだけでなく立派な詐欺師にもなれるぞ! ガハハハハ!」


 マルコの言葉に頭が痛くなった。


 多分マルコやオクタヴィアンそれにヨナタンにも、魔道具の多少の影響があったのだろう。


 普段の三人(研究者としては)ではあり得ない事に、新鍵盤魔道具の出来ではなく、私自身を凄い凄いと褒め? 称えている。


 せっかく作った新鍵盤魔道具ことピアノだったのだが、私が弾く時は一人になろうとそう決めた。


「これは他の人にも弾いてもらうしかないよね……」


 暫く皆からのお褒めの言葉を聞きながら、実験を引き続き行おうと決めた私だった。


 トホホホホ……




☆☆☆





こんばんは、白猫なおです。(=^・^=)

昨日魔法使いの子育て奮闘記番外編を投稿いたしました。オベロンが主役のお話で、拾った赤子も少しだけ登場します。お時間ある方は覗いて頂けると嬉しいです。

因みにオベロンはルイ達スラム組を助けていた「おじさん」です。高位警備隊員(ラーヒズヤ)に掴まっていた人です。m(__)m随分前の話のような気がします……

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