第563話 ロメオ・バルト
ジャジャジャジャーン
「初めましてロメオ・バルトです。突然押し掛けて申し訳ありません」
ジャジャジャジャーン
「私が作りました楽器であり、癒しの魔道具である鍵盤魔道具が危険物だと聞き、居ても立っても居られなくなり、約束も待ちきれず……来てしまいました……それで、あの、鍵盤魔道具の修繕者様はどなたでしょうか?」
ジャジャジャジャーン
緊張からか眉根に皺を寄せ、スター商会への突然の訪問を詫びるロメオさんは、前世の有名音楽家のあの方にとても似ていた。
もしかしたらこの出会いも神様から頂いた ”運命” なのかもしれないが、ロメオさんの顔を見ると自然と口元が緩んでしまう。
鍵盤魔道具はほぼ私が改造? したのたが、ロメオさんがその製作者本人なのかハッキリ分からないため、リアムは警戒しているのだろう「研究員を今呼びに行かせております」と、私の名を出すことなくロメオさんに笑顔で答えた。
ロメオさんはリアムに「そうですか……」と答えながら、またギュッと眉間に皺を寄せる。
すると私の脳内では『ジャジャジャジャーン』とまた音楽が流れる。
どうやらロメオさんは魔道具技師だけでなく、私の脳内の中の音楽家のようだ。
彼の話を聞いてみたい! と、自然とそう思った。
「ロメオさん!」
「は、はい」
子供にしか見えない私に声を掛けられても、ロメオさんの表情は硬いままだ。
きっと自分の魔道具の本来の動きを見るまではこの表情のままなのだろうけれど、私の表情筋にはその顔はキツい。
笑うな笑うなと自分に言い聞かせながら、ロメオさんに魔道具技師として聞きたい事をガッツリ聞く事にした。
だけど隣に座るリアムが何故かため息をついている。
多分本人か分かるまでは口を利くな、と言う意味だろう。
だけどロメオさんは絶対本人だ。
これは神様から貰った出会い。
運命だとそう思った。
「ロメオさんは魔道具技師さんなんですよね? 良く難しい楽器を作ることが出来ましたね? 大変だったのではありませんか?」
「ああ、貴女は音楽を嗜む方なのですね? 確かに音楽の知識が何も無い者が楽器を……あの鍵盤魔道具を作り上げるのは難しいでしょう。ですが、私は元々音楽家を目指しておりました。男爵家の三男ですから何か手に職を持ちたいと思っていた。ですが夢で合った音楽家としての私は平凡過ぎた。一流音楽家などどれほど努力しても無理だと分かった。だったら何がしたいかと考えた時、新しい楽器を作りたいと思ったのです……それも人の心を癒せる魔道具である楽器を……まあ、出来上がるまでにかなりの時間が掛かってしまいましたがねー……」
力なく微笑んだロメオさんは、あれ程似ていると思っていた前世の有名音楽家さんとは余り似ていなかった。
力なく浮かべた笑顔には、自分が時間と心を込めて作った魔道具が、そら恐ろしい魔道具であった事にショックを受けているようだった。
そしてまだ、認めたくない。
と、間違いではないかと、微かな希望もある様に思えた。
音楽学科の先生に送った手紙に ”危険な魔道具” だと書いてしまった自分を呪いたい。
努力で魔道具を作り上げたロメオさんのショックが手にとる様に分かる。
もっと違う言い方が出来たのに……浅慮だった自分をパンチしたくなった。
「ロメオさん、あの魔道具は確かに使い方を間違えてしまうとちょっとだけ……危険な物でした……ですが、あれは、あの魔道具は、音楽界の革命です! あれ程素晴らしい楽器はどこにも有りません! 私は学園の試験であの 【ピアノ】 を見た瞬間、心が躍りました。是非弾いてみたい、使ってみたい、試してみたい、とそう思ったのです。ですから落ち込まないで下さい。貴方は歴史に残る音楽家な魔道具技師なのですから!」
ロメオさんは力を持つ目を大きく見開き、目をパチクリさせた。
私の隣ではリアムが額をたたき「あちゃー」と言っているが気にしない。
ロメオさんは凄い!
あの魔道具も凄い!
落ち込ませてしまったロメオさんに、どうしてもそれだけは伝えたかった。
それが分かってくれたのか、ロメオさんは力もちな目を細めフッと笑ってくれた。
そして「有難うございます」と答えたロメオさんは、やっと緊張が解け肩から力が抜けたようだった。
「リアム様、ララ様、準備が整いました」
応接室にいる私達に研究組の代表オクタヴィアンが声を掛けにきた。
ユルデンブルク魔法学校の音楽学科の先生とも連絡が取れたのか、リアムに頷き 『この方はロメオ・バルト本人です』 と合図も送っていた。
私達はスター商会内の研究室へと皆で向かう。
部屋に入るとマルコとヨナタンが鍵盤魔道具の側に立ち笑顔で出迎えてくれた。
オクタヴィアンを含め、この三人がスター商会の魔道具技師だとロメオさんに紹介もする。
そして「ララ、ララ様! 準備はオッケーだぞ!」と言うマルコの言葉に頷き、ロメオさんには「これから私がロメオさんが作った魔道具を起動してみせます」と伝えた。
ロメオさんはきっと私と話しているうちに、私が鍵盤魔道具を修繕した者だと悟ったのだろう。
マルコ達には何も質問せず、ジッと私を見つめていた。
その表情は最初に顔を合わせた時の緊張しているそのもので、やっぱり前世の音楽家を思い出させるものだった。
せっかくなのでその方の有名曲、第五番を披露する事にした。
鍵盤魔道具に魔力をたっぷり流し、ピアノを奏で始める。
初めて聞くであろう曲にロメオさんは興味を持ったようだけど、何より自分の作った魔道具が気になる様で、手をきつく握りしめジッと見つめている。
そんなロメオさんに笑顔を向けながら(笑っているわけではありません)、私はピアノ魔道具を精一杯の想いを込めて奏で続けた。
「ロメオさん、鍵盤魔道具はいかがでしたか?」
「はい! 何だかヤル気が満ち溢れて参りました! 私は試練に打ち勝ち絶対に勝利を掴む! 今はそんな気持ちです!!」
「それは良かったで――」
「おい、ララ! 第二店舗を王都に作るぞ! 俺なら出来る! 俺は寝ずに働ける! やるぞ! やるぞ! やり切ってみせるぞ! えいえいおー!」
「へっ? リアム?」
「ララ! 俺は今からアイツを倒しに行ってくる! 今の俺は無敵だ! 何でも出来る! 勝利を必ずララに捧げる! 期待して待っていて欲しい!」
「えっ? ちょ、ちょっとセオ?!」
「ララ様! 今すぐ私の授業を始めましょう! 必ずや普通の少女の心をララ様に理解させてみせます! 俺は必ずやり切れる! 諦めたりなんかしない! ララ様を幸せに! 俺に任せてください!」
「えっ、クルトまで? えっ? ちょ、ちょっと、みんな落ち着いて!」
周りを見回せば、この部屋にいる全員がふんすふんすと鼻息荒く興奮し始めていた。
普段落ち着いているランスまでリアムを後押しするような言葉を吐き、「今すぐ商業ギルドへ行きましょう!」 などと言っている。
どう考えても鍵盤魔道具の影響なのだが、まさか私の曲を聞きなれている彼らが、これ程興奮するとは思わなかった。
「ちょ、ちょっとみんな落ち着いてよー!」
皆を宥めるのが大変で、鍵盤魔道具で新しい曲(落ち着く曲)を弾く事が難しく、影響が治まるまで皆に 「落ち着いて!」 と言い続けた私だった。
前言撤回! やっぱりこれ、本当、恐ろしい魔道具だよーーーー!
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