第562話 製作者さんがやって来た

「ララ、ユルデンブルク魔法学校の音楽科の教諭からの手紙だ。鍵盤魔道具の製作者と連絡がついたらしい、近々スター商会へと一緒に来たいそうだ。いつが良い? 研究所にも連れて行くんだろう?」


 私が受験したユルデンブルク魔法学校の音楽科の試験で、前世の記憶にあるピアノとよく似た楽器を見つけた。


 試験でその楽器……実は魔道具だったものを使ってみると、何と音楽で人を操る事が出来る危険な物だと判明した。


 その事を音楽学科の先生を通し製作者に伝えてもらい、スター商会で鍵盤魔道具を改良する許可を得た。


 そして新しい鍵盤魔道具が無事に出来上がったのだが、音楽科の先生がどう伝えたのか、製作者が自分の魔道具が作動しているところを見たいと言ってきた。


 そう、試験で使った鍵盤魔道具は魔力の多い私だから動かせたものだ。


 作った本人も鍵盤魔道具が、まさか人を操る魔道具になるとは思っていなかっただろう。


 意図して作ったわけではないが、製作者としてみれば本来の魔道具の力を見てみたい、とそう思うのは当然だ。


 私はリアムから渡された手紙を読み、ランス達と相談をする。


 新鍵盤魔道具も、学園に有った旧鍵盤魔道具も、研究所からスター商会へと運び入れ、製作者さんにはこちらの研究室内で魔道具を見てもらう事に決めた。


 ウイルバート・チュトラリー(&リード)の事がある今、スター商会から転移部屋を使って研究所へ行き来することを、このスター商会のメンバー以外に教えることは危険だ。


 それに私達には魔法袋があるので、大きな魔道具の移動だっていとも簡単だ。


 調律とか気にせずピアノを運べる。


 前世の記憶が残る私からすると、それはとても有難いものだ。


 まあ、魔道具なのでピアノとは大きく違うのだけどね。




「リアム様」


 ノックと共に護衛リーダーのメルキオールが、リアムの名を呼びながら入って来た。


 そして私達には視線だけで挨拶をすると、サッとリアムの傍に行き、何やらコソコソと話しを伝えた。


 メルキオールの話を聞き、リアムは「はー」と小さくため息を吐いたあと、メルキオールに「来る話は一応手紙で届いてはいる……」と呆れたような様子で答えた。


 一体何が合ったのかは分からないが、リアムの困ったような表情で何か有ったのだけは分かった。


 リアムは苦笑いを浮かべると、先程のユルデンブルク魔法学校からの手紙をピラピラと振り出した。


「ララ、どうやら鍵盤魔道具の製作者が直接店に来た様だ」

「えっ? 今? もう来てるって事? 先生とは別に?」

「ああ、約束も無いのにやって来たそうだ。メルキオールが本人か確認取れないけどどうするかって言ってきた」

「メルメル、そうなの?」


 なんで私に聞こえないようにリアムだけに伝えたのかな? と思いながら、メルキオールに視線を向ける。


 メルキオールは頷き苦笑いだ。


「ええ、先ずはリアム様にお伝えしてから……確認を取ってララ様へと思いまして……」

「えっ? なんで?」

「いや、ララ様だと取り敢えず見に行こう、会いに行こう、となりそうだったので……」

「えっ……?」

「店を守るリーダーとしては、今は約束のない者は店内に入れたくないですからねー。でもララ様の場合取りあえず行動が先に来てしまうでしょう? フフッ、それでは我々も守り切れないですからね……」


 メルキオールはそう言って困ったように笑った。


 つまり先に私に報告した場合、何も考えずに魔道具の製作者なのか、本当かどうかも分からない人にすぐさま会いに行くとメルキオールは思ったようだ。


 確かに……それは無いとは言えない。


 だけど私だって今は危険な時だって分かっている。


 そんな事しませんよ! と頬を膨らませ周りに視線を送ってみたが、誰もがメルキオールと同じ様に苦笑いを浮かべていた。


 可笑しい……皆の私への評価が可笑しいと思う……こんなに大人しいのに……


 本気でそう思った私だったが、勿論大人の対応で口には出さなかった。偉い!


 リアムは膨らんだ私の頬を指で押すと、笑いながら声をかけて来た。


「ハハハッ、まあ、顔は分からねーけど、話を聞けば本人かどうか分かるだろ。ララ、取り敢えず会って見るか?」


 鍵盤魔道具は、既に研究所からスター商会へと運び入れていたため、転移部屋を使う事もないので製作者さんに会って見ると頷く。


 そしてランスがユルデンブルク魔法学校の音楽科の先生に、一応の連絡も入れてくれた。勿論紙飛行機魔道具で。


 もしかしたら連絡の行き違いもあって、製作者さんが間違えてこちらに来てしまった可能性もある。


 それに訪問日を間違えた可能性も、学園集合をスター商会集合だと間違えた可能性もある。


 まあ、まだ日程などは何も話し合っていなかったので可能性はかなり低い上に、勝手に来てしまった可能性のが高い。


 でも私も早く製作者さんに会いたかったので丁度良いだろう。


 そうリアムに伝えると、「そーゆーとこだぞ」と痛くないデコピンを貰ってしまった。


 その会話の聞こえていたメルキオールはまた苦笑いだ。


 どうやら製作者さんに早く会いたいと思った事がいけないらしい……


 でも一体それが何故 「そーゆーとこ」 なのだろう?


 皆が苦笑いする理由が私にはまったく分からなかった。




「お待たせいたしました」


 リアムを先頭に面会用に準備した応接室へと入っていく。


 製作者さんは立ち上がり私達へと頭を下げた。


 そして顔を上げた瞬間、私の脳内に 「ジャジャジャジャーン ジャジャジャジャーン」 とある有名な曲が流れた。


 スター商会へやって来た鍵盤魔道具の製作者さんは、前世のある有名音楽家にとても似ていた。


「ルートヴィヒ……」と思わずその有名な音楽家の名を口にすると、製作者さんは「えっ? 誰?」とでも思ったのかキョトンとした顔になった。


 そして……

 

「お初にお目にかかります、私は鍵盤魔道具の製作者であり、魔道具の職人のロメオ・バルトでございます。突然の訪問で失礼致します」


 と名を名乗り、また頭を下げた。


 ロメオさんの真剣なその表情を見て、私の脳内ではまた 「ジャジャジャジャーン」 と音楽が流れる。


 魔道具技師でもあるロメオさんは、あの有名音楽家の肖像画のように、とっても目力の強い人だった。


 ジャジャジャジャーン!




☆☆☆




こんばんは、白猫なおです。(=^・^=)

製作者さんであるロメオさんは、ルートヴィヒ・ヴァン・ベー○ーヴェンに似た風貌です。(笑)ララの頭の中で流れている曲は交響曲第5番です。ご想像下さいませ。ジャジャジャジャーン!


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