第560話 穏やかな日常?
「会いましょう」と約束したリードからの返事は、残念ながらすぐには来なかった。
それも当然だろう。
リード本人が私達に会えるとは約束しなかったし、作戦も決行するとは断言していなかった。
それに何よりアダムヘルムの推測では、リードはウイルバート・チュトラリーに今現在見張られているようだ。
そんな中ウイルバート・チュトラリーを欺くような作戦を行い、少しでも不信感を仰いでしまったら、リードはすぐさま消されてしまう可能性もある。
命を懸けての作戦。
あのリードがそれを行うだろうか?
それも一方的ともいえる私との約束で……
自分が一番大事。
あの夜会ったリードにはそんな思いが見てとれた。
だからこそウイルバート・チュトラリーもリードを見張っているのだろう。
それも自分を裏切るだろう者として……
「あーあ、私的にはウーノに会いたかっただけなのになー」
そう、そもそも私はリードに会いたかった訳ではない。
情緒不安定気味なセオの為に、ウーノに会って 「こっちへおいでよ」 と誘いたかっただけなのだ。
それが何故かアダルヘルム達にバレ、ここまでの大事になってしまった。
リードに作戦を指示した手前、勝手にウーノに連絡はもう出来ないだろう。
でも、念話だけでも送ってみる?
とも思ったけれど、それでリードが消される事になったら流石に寝覚めが悪い。
「結局大人しく返事を待ってるのが一番なんだよねー」
ハー、とため息を吐くと同時にセオが部屋へとやって来た。
「ララ、準備出来た? そろそろ出かけようか」
と、情緒不安定はどこへやら、優しい笑顔で声をかけて来る。
今日は王都の商業ギルドへと顔を出しに行く日だ。
一応学校生活が始まってもスター商会の会頭として商業ギルドへの挨拶(ルイスとの顔合わせ)は続ける予定だが、状況によっては難しくなるだろう。
何故なら一年後にはガイム国にあるグレイベアード魔法高等学校学校へと進学予定だ。
そうなると尚更ルイスには会えなくなるだろう。
リアムが前もって伝えてくれてある様だけど、友人として私も自分の口から直接伝えたかった。
それにスター商会の会頭としては今後の事も含め、色々お願いしなくちゃならないものね。
お土産をたっぷりと準備し、私はセオとクルトと一緒に王都の商業ギルドへ向かった。
「よーっ! ララ様、よーく来たなっ! 受験、無事に終わったんだってなー?」
ギルド長室に案内されると、ルイスはご機嫌な様子で出迎えてくれた。
一時よりも仕事が落ち着いているのか、以前のように疲れた様子はない、穏やかな笑顔だ。
『アイツもスター商会との付き合いにやっと慣れてきたんだよ』
と、リアムはそう言って笑っていたけれど、他の商会とスター商会はそれ程違うのだろうか?
確かに新商品は多いかも知れないけれど……それぐらいだよね?
まあ、開店したばかりのおもちゃ屋さんも少し落ち着いて来たし、商業ギルドへの問い合わせもそれ程ないのだろう。
うん、うん、迷惑はかけていないはず。
問題ナッシングだね。
「ララ様よー、うぷぷ。試験中に学校を崩壊させたんだってー? うひひ、どうしたよ? 何にムカついたんだ? セン公にか?」
ルイスが偽りの情報を真に受けてなのか、それとも私を揶揄う為なのか、クックックと笑いながらそんな事を言ってきた。
私は学校を崩壊などしていないし、何にもムカついていません。
正しい情報である ”学校の魔道具が試験中に爆破した” 件を伝えると、ルイスは「ぶふぉっ」と吹き出し大笑いし始めた。
レディに対し失礼だが仕方がない、だってルイスはリアムしか興味が無いものね。
「ギャハハッ、どうせララ様が力余って魔道具壊しちまったんだろー? グホッ、その時の教師陣の顔、見てみたかったぜー」
ルイスの補佐、ナシオが「ギャハギャハ」笑いながら子供の私を揶揄うルイスを見て、困った様な表情を浮かべている。
お茶を出しながら、「ギルド長」とボソリと注意しているが、ルイスには聞こえない、ナシオの注意など馬の耳に念仏、屁のかっぱのようだ。
楽しそうなルイスの揶揄いは、ナシオの注意も聞かずまだまだ続く。
ちょっと大人げないよねー。
「ララ様ってば、聖女じゃなくってさー、学校では破壊神とかって呼ばれちまうかもなー」
「ルイス様!」
「ウハハハッ、見た目とのギャップがな、やばいよな、ほんと、ララ様ってば俺を飽きさせないよなー」
ルイスってばもしかして……疲れで心が病んでいるのだろうか?
いや、私の事を大好きなリアム相手の恋敵だと思っているのかな?
そこで一番気にしなければならないのはセオなんだけどねー。
リアムがセオラブなのは周知の事実。
ルイスも商業ギルドのギルド長として、もう少ししっかりと周りを見たほうが良い気がするよ。
なんてたってこの国の王都のギルド長なんだからねー。
「あ、そうだ、ルイス、リアムからユルデンブルク魔法学校の食堂の件って聞いてる?」
「ああ、聞いてるぜ、スター商会でメニューを教え込むんだろう? まあ、俺たち商業ギルドにはあんまり関係ない事だがなー」
「そうなんだ、てっきり他の学校から商業ギルドに問い合わせが来てるかと思った。今のところスター商会には他の学校からは何も連絡来てないからねー。まあ、今後、ガイム国に行くと同じような依頼を受けられるか分からないしね」
「「はっ……? ガイム国?」」
と、ルイスとナシオの動きがピタリと止まる。
そしてゆっくりと二人は視線を合わせる。
目と目で何を話しあったのか? ルイスに向けてナシオが首を振る。
ルイスは先程とは違い、張り付けたような笑顔でカップをソーサへと戻すと、一つ咳払いしてから話し出した。
「あー、ララ様……ユルデンブルク魔法学校の食堂改革はスター商会に注文が直接あったんだよなー?」
「えっ? うん……スター商会に直接って言うか……受験の日に校長先生にお願いされて……って感じかな?」
「あー、つまり、食堂の改築をスター商会が宣伝している……訳じゃーないんだな? たまたま、たまたま縁あって請け負った仕事……ってことなんだな?」
「うん、そう、そんな感じかな? スター商会にそういう部署がある訳じゃなくって、お願いされて仕方なくって感じかなぁ? フフフ、でもあの学校の校長先生って全然空気読めない感じだから、周りに食堂の事自慢しそうだよね。セオ達が通った騎士学校の校長先生はそんな事しなかったけどねー」
「そうなのか……因みに、だが……今後はどうするんだ? そういった仕事も受けていくのか?」
「うーん、どうだろう、リアムと相談かな? 規模の大きな仕事で有難いんだけど、結局料理人も指導しなければならなくって大変なんだよね。ルイスも知っていると思うけど、ほら、スター商会って万年人手不足だからねー、それに私がガイム国のグレイベアード魔法高等学校に進学したら、スター商会をガイム国にも建てるでしょう? 全ての仕事を受け入れることは尚更難しくなるかなー」
ルイスはまたガイム国の名が出ると、今度は頭を抱えてしまった。
何が悪かったのか分からないが、ナシオにすぐさま問い合わせ部署を準備しろと指示をだし、指示を受けたナシオは慌てた様子で部屋から出て行った。
スター商会への問い合わせは商業ギルドには以前から良く来ている、なのに何故問い合わせ部署を新しく作る必要があるのだろうか?
ルイスが「前もって聞かされいて良かったぜ……」と深い溜息と共にぽつりとそう呟いた後、私は今度は自信満々な作品である ”ボール飛び出し魔道具” と ”鍵盤魔道具” の話をルイスに伝えた。
もうすぐスター商会で売り出す予定なんだよと伝えると、ルイスは青い顔になり、出て行ったばかりのナシオを大声で呼び出していた。
「畜生、世界中から問い合わせが来るじゃねーか……これが揶揄いの仕返しなのか……ディープウッズ家、恐ろしいぜ……」
そう言ってソファの背もたれへともたれ掛かったルイスは、来たときとは打って変わって心底疲れ切ったような顔をしていた。
経った数十分でのこれだけの疲労。
最年少ギルド長は本当に大変そうだが頑張って欲しいものだと思う。
リアムへの愛の力でね。
☆☆☆
こんばんは、白猫なおです。(=^・^=)
久し振りなルイス登場でしたー。ルイスは結構お気に入りのキャラです。双子の兄ラモンがいるので……本編に出す予定ですが、どうなる事か……
気長にお待ちくださいませ。(笑)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます