第559話 画策
「アダル、コナー……今の話をどう思う……リードはあの女に心を奪われていると思うか?」
リードからの報告を聞き、ウイルバート・チュトラリーは自身の腹心であるアダルとコナーと相談するため、人払いをした。
勿論、裏切り安い人物と睨んでいるリードも部屋へと戻らせた。
そしてリードが部屋と戻った後アダルこと、レチェンテ国に住んで居るテネブラエ家の当主、アダルギーソ・テネブラエも部屋へと呼び出し、リードから聞いたララ・ディープウッズとの念話の話を伝えた。
ウイルバート・チュトラリーの離宮まで、アダルはコナーの転移でやって来ている。
あの戦いの傷も癒えたコナーは持ち前の魔法力を発揮し、頻繁にアダルをアグアニエベ国へと呼び寄せている。
それは勿論今後の相談もあっての事。
ディープウッズ家のアラスターとエレノアの魔法によって封印されてしまった母を助けるため、これまでウイルバート・チュトラリーは沢山の画策を成し遂げて来た。
各国の重鎮をリードの占いで骨抜きにし、ディープウッズ家のことを探っていたことも、その作戦の一つだ。
ウイルバート・チュトラリーは母であるレジーナ王妃が受けた魔法攻撃の影響を受けてか、ディープウッズの森へと直接足を踏み入れることが出来ない。
いや、多少の時間ならば自身の魔法で身体を防御し、滞在は出来る。
だが、それもアグアニエベ国寄りの森であることが大前提だ。
「リードの心の内は分かりませんが……あの少女の影響を全く受けていないとは思えません……」
「ああ、そうだろうな……」
アダルの返事に対し、ウイルバート・チュトラリーも認めざる負えない。
何故なら自分こそがあのララ・ディープウッズの魔法の力を、そして魔力の影響を、前の戦いの後存分に受けているからだ。
ララ・ディープウッズの魔力を吸い取ってからという物、ウイルバート・チュトラリーは自身の体の中に ”ある” 違和感を感じていた。
それは自分の中にもう一人、勝手に動き回る人間が存在するかのような。
心の中が乱され、心臓の中を虫が蠢いているような。
己の感情が侵食されているような、そんな気持ち悪さをずっと感じていたのだ。
ウイルバート・チュトラリーは母をディープウッズ家の封印から助ける、と言っているが、実際は母に愛情がある訳でも、封印から助け出したい訳でもない。
ただ、母であるレジーナ王妃の無限の魔力を、封印を解く事で自身の物にしたかった……ただそれけなのだ。
だが、ララ・ディープウッズの魔法を受けてからというもの、ウイルバート・チュトラリーは母親であるレジーナの事を思うと、何故か胸がチクリチクリと痛んだ。
その感情が気持ち悪く、尚更ララ・ディープウッズの事が憎くて仕方がなくなった。
拭い去れない違和感。
感じたことのない心情。
心の気持ち悪さ。
それもその身体の中の虫(ララ・ディープウッズの魔力)が、どんどん大きくなるのだ。
吐気さえした。
そしてその影響なのか、ウイルバート自身の手によって奴隷を処分することができなくなってしまった。
これまで虫けらとしか感じていなかった奴隷たち、だが、命を奪えなくなってからという物、奴隷も生き物だという事を嫌でも感じるようになってしまった。
「気持ち悪い……」
ララ・ディープウッズから奪った魔力を上書きするため、奴隷の魔力を吸い取った時、自身の体に、そして心に受けた気持ち悪さは、きっとこの先も忘れることは出来ないだろう。
コナーやリード達の主であるウイルバート・チュトラリーがそれだけの違和感を感じているのだ。
同じ様に癒しを受け、ララ・ディープウッズの魔法を受けてしまった彼らも、何らかの影響を受けているのは当然だと、ウイルバート・チュトラリーもコナーもそしてアダルも想像できた。
「コナー、そなたはどうなのだ? ディープウッズ家の娘の影響をおまえ自身、どれだけ受けていると思う?」
アダルの問いかけにコナーはジッと考える。
そして主との繋がりを確かめるかのように、ウイルバート・チュトラリーと血の契約をした胸元も触ってみる。
これまで自分の感情を殺し過ぎて来たコナーには、ララ・ディープウッズから受けた魔法の威力が余り分からない。
何となく胸が温かい気がするが、知らない上にそれが何かが分からないのだ。
何も答えず、ただ胸を触るコナーを見て、アダルはそれ程の影響はないのだろうと勝手に思い込んだ。
それに今の所リードだけでなく、まだ新人のソード、シュレック、イーサン、それにガリーナやグレアにも変化は見られない。
彼らは直接あの少女から魔法を受けたわけではないとアダルも報告を受けている。
なので主を裏切るわけがない。
稀有な存在であるウイルバート・チュトラリーとの血の契約を、そう簡単に消せるわけがない。
主を心酔するが上の思い込みと、チェーニ一族の里で育った彼らに ”愛情” という感情が分かるはずがなかったために、アダルはララ・ディープウッズの魔法は大したことはない、とそう思い込んだのだ。
実はリードは里の外で育ったため、その感情が何であるか、そして主であるウイルバート・チュトラリーに対する心の変化や、ララ・ディープウッズに対する想いの変化を敏感に感じ取っていた。
だがアダルもコナーも自身が ”愛情” というものを知らないため、自身の、そして周りの変化に気づけなかった。
チェーニ一族の、偏った教育の弊害。
愛を知らない、無知ゆえの思い込み。
そして偉大な魔法使いレジーナ王妃の魔力を奪った事で、力が漲った故の自信過剰な思い込み。
ウイルバート・チュトラリーも、コナーも、そしてアダルさえも、人がもつ ”愛情” というものの恐ろしさを、全く知らない人間なのだった。
「よし……あの女を捕まえよう……今度こそ魔力をすべて奪い去り、俺では無く、母上の体に捧げようではないか……」
「ウイルバート様、それは素晴らしい考えですね。件の少女はレジーナ様と血がつながっております、きっと二人の魔力の相性も良いはず、必ずやレジーナ様をよみがえらせることが出来るでしょう」
「ああ、だが先ずは下準備だ。あちらには面倒な奴がいるからな……」
「ああ、生意気なセレーネの者たちですね……」
「そうだ、今度こそあの女と……ララ・ディープウッズと、一緒に処分してやるさ」
ウイルバート・チュトラリーは誓った。
今度こそディープウッズ家を壊滅してやると。
そしてあのララ・ディープウッズを絶対に殺してやると。
☆☆☆
こんばんは、白猫なおです。(=^・^=)
少しずつ話が進んでいますが、初期から設定されているキャラがまだ出て居ません。バルトロメーオ・アムールとカロージェロ・パルファン。番外編には出て居ますが、まだ本編には……うん? 一度名前だけは出したかな? 近々出る予定です。よろしくお願いいたします。
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