第552話 親友の訪問⑨
「あああ、マトヴィル様の手料理……はぅう……美味い……」
と、モルドン先生の感動する涙声が聞こえる中、皆で王都の屋敷でのディナーを楽しむ。
アダルヘルムに怒られた校長先生は、最初しょんぼりとしていたが、美魔女エルフのオルガに給仕された途端、シャッキリとした紳士になった。
なんてったって、オルガはとっても美しい。
年齢は……んんんっ、だけれど、校長先生世代の男性だけでなく、若者だって見た目だけでなく所作迄美しいオルガの姿を見れば、ドキドキしてしまうことだろう。
そんな美しいオルガに笑顔を掛けられ、優しく給仕される。
校長先生は庭での出来事などもうすっかり忘れてしまったようだ。
あれだけ楽しみにしていたマトヴィルの作った料理も漫ろに、オルガばかりをチラリチラリと何度もみている。
本当に困った校長先生だよ……
そんな行動がアダルヘルムの尾を踏んだんだけどね……
きっとほとぼりが冷めたころ校長先生はまた何かやらかしそうな気がするよ……うん。
「ララ、とっても美味しい! マトヴィル様は本当に何でも出来る方なんだなー! カッコイイし、凄いよ。本当に憧れるぜ!」
「ディック、そうなの! マトヴィルは本当に何でも出来るのよ。それに強いし、優しいし、面白いし、素敵なのー」
「うん! 俺、マトヴィル様みたいになりたいって思う。学園入学したら武術だけでなく料理も勉強してみようかなー」
「あら、ディック、料理にも興味があるの? じゃあ私が……」
「俺が! 教えるよ……」
私の親友であるディックに、勉強だけじゃなく料理も教えちゃいますよ! と気合いを入れかけると、相変わらず情緒不安定気味なセオが横から口を挟んできた。
ディックは騎士学校で有名だったセオに教えてもらえると聞くと「本当ですか?! ヤッター!」と頬を少し染めとっても嬉しそうに喜んでいるが、私はセオの浮かべる笑顔がちょっとだけ怖い。
ディックの隣に座るジャック兄さんも、「私も教わりたいなー……」と、かなり本気で羨ましがっているが、セオの笑顔にこの兄弟は何も感じないらしい。
意外と鈍感兄弟なのかしら……?
セオの様子がまたおかしくなり始めたため、私の給仕をしてくれているクルトに助けを求め視線で「どうにかして」と合図を送ってみたが、ただ笑顔を返されただけだった。
校長先生や教頭先生と会話を楽しんでいるリアムにも同じように視線を送ってみたが、リアムは学園の食堂の話で先生達と盛り上がっていたためそれどころでは無いようだった。
愛しいセオの事なのに……商人は自分の恋愛よりも商売の方が大事らしい……
セオってば、何だか今日は……ううん、ディックが私の友人(親友)と分かってから、ずっとアダルヘルムの怒った時のような笑顔だよね。
そんなにウーノの事が頭から離れないのだろうか?
友人という関係だけでなく、命の恩人でもあるのだからそれも仕方がないのかもしれない。
セオの為に私に出来る事はあるだろうか……
セオのいつもの優しい笑顔を取り戻せたら……
そう考えるとパッとある人物の顔が脳裏に浮かぶ。
そうだ、一つだけ私に出来る事があるかもしれない。
セオの為に、ウーノをこちら側へ呼び寄せるチャンスがなくもない気がするんだけど……
それを実行してみても良いのだろうか……
内緒でちょこっとやってみようか。
だってセオの為ならどんな事だって出来る気がする。
ううん、私がやりたいのだ。
「ねえ、ララ、何かよからぬ事を考えてない?」
「ふぇ?」
考え事をしていた私がノアにそう声を掛けられると、クルト、セオ……そして給仕中なのにどうして聞こえたのか……
耳が尖っているから聞こえが良いのか
それともやっぱり魔王だから地獄耳なのか
アダルヘルムまで私に視線を送り、見つめて来た。
別にノアの言う通りよからぬ事を考えていた訳ではないのだが、ぼんやりとしていたため咄嗟に「違う」と言葉が出ず、慌ててフルフルと首をふってみせたのだが、どうやらそれがかえって怪しまれてしまったらしい。
アダルヘルムがセオがさっきまで浮かべていた様な、冷たい笑顔を浮かべ私に近づいてくる。
一歩一歩近づくアダルヘルムに、私の脳内では魔王様登場の効果音が付く。
おう……怖いよ。
あの笑顔が怖いよ。
あれこそ本物の魔王様だよ。
セオの冷たい笑顔なんて可愛いものだね。
アダルヘルムのあの笑顔は、人の心を氷らせる事か出来るよ。
でもそこは私だって、これまでアダルヘルムと過ごしてきた生活の中で、あの笑顔には耐久性がある。
なのでアダルヘルムに(何でもないですよ)と淑女の笑みを返す。
だけど長年一緒に居たのはアダルヘルムも同じ事。
私の心の中を読むことができる様だ。
それに私の誤魔化し笑顔(淑女の笑顔ともいう!)を見て尚更、「よからぬ事を考えていた」と確信を持ってしまったようだ。
私の側まで来るとお皿を片付ける振りをしながら「今夜ゆっくりお話致しましょう……」と街の女性ならば失神しそうなセリフを私の耳元で囁いた。
これはいわば私にとっての死刑宣告。
アダルヘルムは死刑執行人。
その後運ばれたマトヴィル自慢の料理も、そして親友のディックとの会話も、アダルヘルムのその一言によって味気ない物に変わってしまった。
くうー! アダルヘルムのせいでせっかくの親友の訪問が!! 恐怖の晩餐会になっちゃったよーーー!
そしてそんな食事が終わり、親友のディックと、そしてジャック兄さんと、余計な事を言ったノアと、オルガの淹れてくれた多分美味しいであろうお茶を頂きながら会話を楽しむ。
だけどこの後の事を想像していた私は、親友の前で笑顔が引きつっていたのだろう。
ディックに「ララ疲れたのか?」と心配されてしまった。
ジャック兄さんまでそんな心配話にのり、「ではそろそろお暇を……」と気を使う始末。
いやいやいや、出来れば泊まって行ってー!
お願い、帰らないでー!
と叫びかたかったが、気が利く? アダルヘルムがそそくさと、皆の帰りの準備を初めてしまった。
スター商会のお酒をお土産で貰えた先生達は、ニコニコ顔で馬車に乗り込む。
ジャックやディック兄さんも「今度は我が家に遊びに来て」と嬉しい言葉を残し、さっさと馬車に乗り込んでしまった。
そして皆を乗せた馬車がゆっくりと走り出す。
車輪が徐々に速く回転していく様は、まるでこれから行われる死刑へのカウントダウンのようだった。
あっと言う間に馬車が門からみえなくなると、アダルヘルムの冷ややかな声が聞こえてきた。
「さあ、ララ様、私の執務室へ参りましょうか……」
「ひっ……」
アダルヘルムが良い笑顔で私に手を差し伸べる。
「ララ……お前また何かやらかしたのか?」
と、リアムの呆れた声が私の後ろから聞こえる。
「ララ様ってば、今度は何を崩壊させる気ですかね?」
と、クルトの困った声が聞こえる。
そして……
「ララな本当に皆に心配を掛けるよねー……」
と、セオのそんな言葉とは裏腹に、ちょっと楽しそうな声色が聞こえてきた。
セオを心配しての考えだったのに!
まさかこんな事になるだなんて!
ノアの側ではもう、ウイルバート達の事は考え無いようにしよう!
死刑執行人であるアダルヘルムの手をそっと取り、そう決めた私なのだった。
☆☆☆
こんばんは、白猫なおです。(=^・^=)
色々あって、ララちゃん今月初投稿ですか……(;'∀')お休みの理由は近況報告に載せています。
さてさて、やっと親友の訪問が終わりました。長かったです。本当に早く入学させたい……ずっと言ってる気がする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます