第553話 良い事思いついちゃった

「さて……ララ様、先程は何を考えていらしたのでしょうか?」


 今私は取調べ室に居る……のではなく、アダルヘルムの執務室だ。


 ソファへと腰掛けた私の目の前に、アダルヘルムが良い笑顔を浮かべ座っている。


 マトヴィルもアダルヘルムに呼び出され、忙しい中時間を作って来てくれたのだろう。


 アダルヘルムの隣に座り、同じように私を見つめているが、こちらは楽しそうな様子でニヤニヤと笑っている。


 そして事の発端となった言葉を発したノアは、まるで自分は関係ないとでも言うかのように、一人がけのソファへと腰掛け、アダルヘルムが入れてくれた美味しいお茶を味わい、優雅にお茶を飲んでいる。勿論お菓子付きで。


 そして仕事があるのに残ってくれたリアムも、ノアと同じように一人がけソファに座り、珍しくお菓子に手を出すことなく私を見つめていた。


 そしてセオとクルトは私を挟んで両隣に座り、私をジーッと見つめているが、まるで犯人が逃げ出さないように見張っているようで視線が痛い。


 えーっと、私……何も悪いことやってないんだけど?


 ちょっとセオの為にウーノの事考えただけなんだけど?


 何、これ、なんの拷問ですか?


 私ここで皆に虐められちゃうの?


 いやいや、虐めっていうよりこれって取調べだよねー?


 私は何も悪いことはしていませんー!


 逃がしてくださーい!


「コホンッ、ア、アダルヘルム……私は特に……その……大きな問題になるような事は何も考えていませんわ」


 正直に話しついでに余裕を見せるため「オホホー」と笑ってみたが、誰も私の言葉を信用していないようだ。何故だろう……


 さあ、吐け!


 吐けば楽になるぞ!


 犯人はお前だろう?!


 と、厳しい視線を私に浴びせ、目で問いかけてくる。


 すると静かな部屋で一人カリカリと響く音をたて、まだお菓子を食べているノアが、「何かさー、ララ、あの時、裏ギルド長の事考えてたよねー?」と言い出した。


 確かに、セオの親友であるウーノをどう助けるか……で、ガマガエルさんの事を思い出してはいた。


 私の魔力で出来ているノアには私の危機や、考えが以心伝心出来てしまうので、ノアのその言葉が嘘ではないと皆には分かってしまう。


 何故裏ギルド長であるクロイド・ロッグの事を、あの場で考えていたのか。


 ララ様はクロイド・ロッグのことを嫌がっていましたよね?


 これはやはりどうみても、よからぬ事を考えていますね?

 

 と、この部屋にいる皆が皆、視線だけでそんな言葉を私に言っているようだった。


 私は皆の誤解をしっかり解くため、自分的すんばらしい笑顔を浮かべ、皆の無言の問いかけに答えた。


「コホンッ……えーっと、確かに私はあの時ガマガエルさ……いいえ、クロイド・ロッグさんの事を、ほんのちょーっとだけ考え……いいえ、思い出していました……でもそれは本当にほんの少しだけなのですよ。実際は私は違う事柄を考えていたんです!」


 ムフフという鼻笑いが出てしまうと、アダルヘルムとクルトの視線が痛くなる。


 まだ考えていた事柄を何も話していないのに、やっぱりまだよからぬ事を……と思っているようだ。


 そんな二人に胸を張り、私は自分のナイスアイデアを皆に話した。


「コホンッ、えー、この前のウイルバート・チュトラリーたちとの戦いで、ですね。私はあちらの人達に癒しをた〜っぷり掛けて上げたじゃないですか?」

「ええ……ララ様の攻撃は良く効いておりました……そのまま敵の者達が全員消えてくれれば良かった程です」


 うん。アダルヘルム、あれは攻撃じゃなくて癒しですからね。


 確かにウイルバート・チュトラリーの仲間達は私の癒しを受け、皆胸を押えていたし、ウイルバート・チュトラリー自身はあんな状態になっちゃったけど、癒しは私の優しさの塊ですからね。そこを間違えないでくださいね。


 アダルヘルムの言葉にちょっとだけ疑問は感じつつ、そしてニヤニヤするマトヴィルを気にしながらも私は身の潔白を証明するため話を続ける。


「彼らはウイルバート・チュトラリーから血の契約を受けています。でも、私の癒しでそれが薄れた……中にはクロイドさんのように私色に染まった人もいるかもしれない……だったらその人達に声掛けをしてみたらどうかなって思って……その……ウイルバート・チュトラリーに気付かれないように念話を使ってひっそりと……」

「ダメだ! ララにそんな危ない事させられないよ!」


 セオとウーノの仲を取りもてたらと思っての ”念話作戦” だったのだけど、セオが一番最初に反対してきた。


 私の護衛としてはちょっとでも危険がある事はどうやらさせられないらしい。


 セオは相変わらず心配症のようだ。


 だけどアダルヘルムは「ふむ……」と考え込む。


 悪くは無い。


 そう思っているのかもしれない。


「ガハハハッ、ララ様から急に連絡きたらアイツら驚くだろうなー」


 ニヤニヤ顔のマトヴィルが楽しそうにそんな事をいう。


 作戦に反対したセオは、驚いた顔でマトヴィルを見る。


 ララにそんな事をさせようとするだなんて?! と目が大きくなっている。


「ふむ……別にあの者たちを本当にこちら側に引き込まなくても良いでしょう……ララ様と連絡を自由にとれる……それはあちらに不協和音を引き起こす可能性がとても高い……彼らを信頼ではなく力で従えているウイルバート・チュトラリーだ……その関係性にヒビが入るのは確実でしょうね……フフ……」

「アダルヘルム様?!」


 連絡を取る事に賛成するような言葉を言い出したアダルヘルムに、今度はクルトが驚いた声掛けをする。


 私は念話を使って別にあちらの仲を割こうとした訳では無いけれど、アダルヘルム的にはそう受け止めたようだ。何だかそれって私が酷い人みたいじゃないですか?


 いえ、いえ、いえ、アダルヘルム。私はウーノとセオの仲を取り持ちたいだけですからね。


 大切なセオの情緒不安定を治したいだけですからね。


 だけどセオ本人を目の前にしてそんな事は言えず、ちょっと引き攣り始めた笑顔をどうにか維持した私だった。偉い!


「マスター! 師匠! ララがあちら側の人間と連絡を取って大人しくしていると思いますか?!」

「ふむ……それは……確かに」

「あー……まあ、ララ様だからなー」


 うんん? アダルヘルム? マトヴィル? その返事は何ですか? 私はいつだって大人しくしてますよ。


「マスター師匠、もしララがあいつらと連絡を取ったら、絶対に自ら会う約束をするはずです! 俺はララの性格も、それにこれまでの無鉄砲な行動も、傍にいてよーく分かっていますからね! 絶対連絡なんてさせてはダメです!」

「「……」」


 私の横でドヤ顔を浮かべそう話すセオの言葉に、反論する者は何故かこの場には居なかった……。


 えっ? 何故?


 私大人しい女の子ですけどー!


 信用してくださいってばよっ!




☆☆☆




こんばんは、白猫なおです。(=^・^=)

今日は寒くなるようですね。三寒四温。皆様体調にはお気を付けくださいませ。m(__)m

今度はまたあちら側とのお話です。一体いつになったら学園話に突入するのか……二人の王子、早く出したいです。(;'∀')

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