第547話 親友の訪問④
「それでは、スター・リュミエール・リストランテへ参りましょうか」
リアムの声掛けに 「待ってました!」 とばかりに皆が立ち上がる。
スター商会自慢のレストラン、スター・リュミエール・リストランテはブルージュ領だけでなく、ユルデンブルク王都でもやはり大人気で、中々予約の取れないと言われる程のレストランだ。
そんなスター・リュミエール・リストランテに行けると有って、校長先生と教頭先生は 「食事を摂るのを目的で来てますね?」 というぐらいニコニコ笑顔だ。
スター・リュミエール・リストランテの従業員用の入口に向かう間も、二人はスキップでもしそうな喜びようだった。
楽しみにしてくれているのは嬉しいけれど……なんだか私はダシにされた感じだよねー。
私に会いに来たんじゃなくって、ご飯を食べに来てますよね?
校長先生と教頭先生にはそう突っ込みたいぐらいだった。
そしてスター・リュミエール・リストランテへ向かう私はというと……ディックが貴族の子息らしく、私をエスコートしてくれ……ようとしたのだが、セオが相変わらずのアダルヘルム似笑顔を浮かべたままでそれを止める。
セオは今日は私の騎士だからか? ディックには他人行儀な様子で「ララのエスコートは私に任せ、ディック様はどうぞお兄様と商会内をお楽しみ下さい……」と、展示してあるお父様の武器やお母様の絵画をお勧めしていた。
ディックとジャック兄さんの目はキラキラだ。
お父様とお母様の作品はそれ程素晴らしい。
確かに私をエスコートしていたら、ジックリとお父様やお母様の作品を見るなど出来ないだろう。
でもクルトやリアムが今日のお客様皆に展示品の説明をしている姿を見て、ジャック兄さんとディックに説明する役は私で良かったのでは? とちょっとだけ思ってしまった。
ただし、道すがら泣き出したモルドン先生を見てそれどころではなくなってしまったけれどねー。
「ずばらじい、ずばらじずきまず……グズッ……もうぎょうじんでもいい……グズッ……」
涙を流し、鼻をすすり、何か言っているモルドン先生はちょっと怖い。
モルトン先生は一瞬足りともお父様とお母様の作品から目を離したく無いのだろう。
涙を流しながらも瞬きはせず、涙も鼻水も流しっぱなしだった。
見かねたクルトがハンカチで拭って上げていたが、それさえも気が付いているか微妙だった。
学園で一番常識人の? エリー先生でさえ、お父様の刀の前でウットリとし、まるで恋に落ちたかのように頬を染めている。
このままではスター・リュミエール・リストランテに着くのはいつになるか分からない……最悪、食事が出来なくなる可能性もある。
すると困った客には慣れた様子のリアムが、口を開いた。
「スター商会内にもアラスター様やエレノア様の作品はございますが、スター・リュミエール・リストランテの店内にもお二人の珍しい作品が飾られてございます。それにアラスター様やエレノア様のお好きな料理もメニューにはあるのですよ」
この言葉を聞いた瞬間、モルドン先生の動きは早かった。
一瞬で涙は引っ込み、食事が楽しみで先に進んでいた校長先生達に一気に追い付いた。
刀に魅了されていたエリー先生も「やだぁー、凄い楽しみー」とウキウキした様子で校長先生達に追い付く。
そんな中、お父様とお母様の好きなメニューなんてあったっけ? と私の脳裏に浮かんだ疑問は心の中に封じこめる。
先ずは目的地にたどり着こう。
考えるのはそれからだ。
協調性が余り無いこの集団を目的地に到着させるため、「とにかく先に進む!」 それが今の私の目標となった。
そしてどうにか無事にスター・リュミエール・リストランテの特別室へと辿り着き、先ずは皆にメニューを決めて貰う。
受験期間に入っていた私も、久しぶりのスター・リュミエール・リストランテでの食事。
ウキウキしながらメニュー表みてみれば、アラスター様コース、エレノア様コースと、男性向けのガッツリメニューと、女性向けの健康食メニューが出来ていた。
どうやら料理人達が色々と試行錯誤し、メニューを考えてくれていたようだ。
料理のメニュー表の下の方に ”監修マトヴィル・セレーネ” とディープウッズ家の料理人、マトヴィルの名が書かれていた。
マトヴィルいつの間に……
私がメニューをジッと見つめていると、リアムが「驚いたか?」とニヤリとして私に声を掛けてきた。
頷けば、「受験合格のご褒美だ。驚いただろう?」と副会頭らしからぬ笑顔で答えてくれた。
料理人達が私の受験合格を信じ、そのお祝いのメニューとして新しく作ってくれたらしい。
無事合格出来て本当に良かったと、皆の頑張りを思い胸を撫で下ろす。
だって、一瞬? いや、かなり長い時間に感じた程、あの合格発表の日は ”落ちた” と思っていたからねー。
本当に受かって良かったよー。
もう、あんな思いは二度とごめんです!
「あの! アラスター様とエレノア様の両方のメニューを頼んでも宜しいのでしょうか?!」
モルドン先生がビシッと手を挙げ、メラメラと燃えるような瞳をしてリアムにそう訴える。
食事代は自分でお払いさせて頂きます! と言っているが、心配なのはそこではない。
お父様のメニューも、お母様のメニューも、両方ともコースメニューだ。
モルドン先生がどれぐらい食いしん坊かは分からないが、両方のメニューを食べ切るのはかなり辛いのでは無いだろうか?
リアムもそこが心配だったのだろう。「シェアしたらどうでしょうか?」 とモルドン先生に進めていた。
「じゃあー、モルドンちゃんとーあたしで仲良くシェアしましょー、さっきお菓子だって全種類食べてたんだもの、モルドンちゃん、そんなに食べられないでしょう?」
エリー先生が母親のように、優しげにモルドン先生に声を掛ける。
だけどモルドン先生は、少し悔しげに、まるで人生最大の決断を今下したかのような表情を浮かべ、エリー先生の言葉に渋々頷いていた。
これこそまさに、苦渋の決断……と言ったところだろうか……
モルドン先生は食いしん坊ではなく、本当にディープウッズ馬鹿のようだ。
アダルヘルムやマトヴィルにあれだけ反応するのも分かる気がした。
歴史好きっていうよりディープウッズ家が好きなんだろうね。
「ディック、ディックも良かったら私とシェアする?」
きっとディックも両方のコース料理を食べたいだろうと思い、そう声を掛ければ、今度はモルドン先生ではなくセオが手を上げてきた。
どうやらセオがディックとシェアしたかったようだ。
セオもディックとは本当は仲良くなりたいのかもしれない……
そうウーノとの友情のように……
けれど結局ディックはジャック兄さんとシェアし、私がセオとシェアすることになった。
後ろに控えていたクルトは何故か苦笑いを浮かべていたけどね。
どうやらセオがちょっと可笑しい事にクルトも気が付いているようだ。
クルトの授業が必要なのは私ではなくてセオじゃないだろうか?
美味しいコース料理に舌鼓を打ちながら、そう感じた私だった。
☆☆☆
おはようございます。白猫なおです。(=^・^=)
今日もよろしくお願いします。残業続きのお陰でちょっと痩せました。やったー!
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