第548話 親友の訪問⑤
「うおー! スゲー! これがおもちゃ屋さんかー!」
食事を終えた私達は2グループに分かれて行動する。
ただし、ノアだけはルイをお供に、お腹いっぱいだからと屋敷へと先に戻っていった。
お菓子もたくさん食べていたからね……
まず1チームは、スター商会の副会頭であるリアムの案内でスター・ブティック・ペコラへと行くグループ。
そしてもう1チームは、会頭である私の案内でおもちゃ屋さんへと向かうグループだ。
校長先生、教頭先生、エリー先生、モルドン先生は勿論スター・ブティック・ペコラに、そしてディックとジャック兄さん、魔法学の先生であるバンナヴィン先生とライリー先生の二人はやっぱりおもちゃ屋さんにやって来た。
スター・ブティック・ペコラには、アダルヘルムやマトヴィルが普段着ている稽古着があるのだと(マトヴィルのエプロンも)エリー先生とモルドン先生に伝えれば、二人はまるで魔獣を倒すハンターの様に目を光らせ、リアムの後に嬉々としてついて行った。
校長先生と教頭先生はどうやらスーツを作りたいらしく、リアムが 「お値引させて頂きます」 と伝えれば、こちらも興奮気味に足を進ませていた。
一度でもスター・ブティック・ペコラの洋服(とくに下着)を着てしまうと、他の店の服は着たくなくなる。
そんな噂が流れるほど、王都でもブルージュ領でも絶大な人気があるスター・ブティック・ペコラ。
先生方は初来店らしく、店内をジックリみられることをとても喜んでいるようだった。
どうやら先生たちはスター・ブティック・ペコラは女性客が多いので、入店する勇気がなく、来たくても来れなかった……らしい。
そんな話を聞き、この世界の男性ならではだなと思ってしまった。
まあ、前世でも女性の買い物に勝てる男性は余りいなかった気もする。
そしてディック。
私の大親友のディックは、おもちゃ屋さんに大興奮だ。
子供らしくて可愛い!
ディックもおもちゃ屋さんに前から足を運びたかったようだが、そこは受験生。
家族に止められていたらしい。
何故なら 「おもちゃ屋さんで商品を購入したら絶対に遊びたくなるでしょう?!」 と家族皆に言われてしまったようだ。
確かに、そうだよね! と、会頭の私でもひいき目なしで納得の意見だ。
スター商会のおもちゃ屋さんは楽しい。
それは胸を張って自慢出来る事だった。
そしてジャック兄さんはというと、受験生の弟を差し置いておもちゃ屋さんに行く気にはなれず、ディックの為に自分もおもちゃ屋さんに来ることを我慢していたらしい。
くうー! 兄弟愛! 泣かせるねー!
ジャック兄さんマジ優しい。
だけどそこはやっぱりジャック兄さんもスター商会が気になっていた。
なのでスターベアー・ベーカリーに来た際は、外からおもちゃ屋さんを眺めては訪問できる日を楽しみにしていたようだ。
ムーア兄弟は二人して、友人達がおもちゃ屋さんの話に花を咲かせているのを指を加えて眺めていたらしい。
絶対合格してやる!
絶対合格させてやる!
ムーア兄弟は友人達の話を聞きながら、そう決意を固めたらしい。
うぷぷ、可愛い兄弟だ事。
そんなに楽しみにしてくれていただなんて、会頭としては嬉しくなっちゃうわ。
「ララと試験で出会ったのもさー、俺、運命だと思ったよ! スター商会の会頭と仲良くなれた! って、神様って本当にいるんだなってさっ」
「ディック……」
「……運命……?」
試験で出会い、私と友人になったけれど、ディックは自分からスター商会に来たいとは言わなかった。
それに友人だからと特別扱いを望んだりとも、願っても来なかった。
「そりゃー、ちょっとは……ほんのちょっとはさー、おもちゃ屋さんに案内してもらえたら良いなーとは思ったけどさー、そこは自分でも行けるし、何よりせっかく友達になれたララに好かれたかったしな」
「ディック……」
「……好かれたい……?」
ディックは嬉しい言葉をポンポンと投げかけてくれる。
私達は本物の親友同士だ。
出会ったばかりだけれど、夕陽に向かって一緒に走れるぐらいの仲の良さだと思う。
そんな私達の会話をジャック兄さんは側で微笑ましげに聞いていて、クルトは一歩下がって何故か困ったような表情で聞いている。
そしてセオはと言うと……
相変わらず私とディックの両方と手を繋ぎ、定番のアダルヘルム似スマイルだ。
”親友” に過敏に反応するセオ。
もうしばらくは、セオはウーノの事を引きずる気がする。
こればかりは仕方がないだろう。
だってあんな再会をしてしまったんだものね……
ウーノを救い出したい。
セオが命の恩人と思っている相手が、今もウィルバートの手の中にいる。
それはセオが不安定になってしまうのも仕方がない事だと思った。
「ルベル、ユーゴ、サスケリオ、お疲れ様です」
「「会頭」」「ララ様」
おもちゃ屋さん担当のルベル、そして店長のユーゴと副店長のサスケリオには、今日私の親友を連れて来る話は伝えてあった。
店が忙しい中、三人は私達を出迎えてくれる。
三人ともすっかりおもちゃ屋さん担当が板についているようだ。
ユーゴとサスケリオは店の事があるからと挨拶だけで仕事に戻り。
肩に店スライムを乗せたルベルが 「俺が案内するっす」 とディックとジャック兄さんと魔法学の先生二人を引き連れ、店案内を初めてくれた。
初めのころは「貴族様の相手って、怖いっすね〜」なーんて半泣きで言っていたルベルだが、今はまったく抵抗が無いようだ。
まあ、おもちゃ屋さんにはこの国のお姫様である、ジュリエットやシャーロットが来たり、レオナルド王子が来たりもしてるからね。
それに王妃様だってお忍びで来たりするんだもの。
もうルベルは普通の貴族の子供に怯んだりはしないだろう。
今日はルベルの成長も凄く感じられた日となった。
「ルベルさん、これは何ですか?」
「ルベルさん、あれは?」
「ルベルさん、それは?」
ディックとジャック兄さんは、おもちゃ屋さんを楽しみにしていたと言うだけあって、ルベルに沢山質問をしている。
全ての商品のデータが頭にしっかりと入っているルベルは、それに難なく答え、紹介をしてくれる。
ディックは悩んだ末に光る剣を買い。
ジャック兄さんは文字を消せるペンを数本買っていた。
勿論他にも購入はしていたけど、それは屋敷へのお土産のようだ。
自分用に……と、二人はとても嬉しそうに購入した商品を抱きしめていた。
くーっ! この兄弟本当に可愛いよっ!
「うぇー……先生達、本当にそんなに買うっすか? 安いってもそんだけ買えば破産しちゃうっすよー」
「買います! ぜーったい買います! 破産しても構いません!」
「私は全財産をつぎ込んでも良い! 絶対に全て持ち帰って使ってみせますわ!」
商品をカゴに山盛りに積んで、レジに並んでいるのは魔法学の困った先生二人だ。
店内にいる他のお客様も、呆れるほどおもちゃを抱え込んでいる。
まあ、スター商会としては売上が上がるのは嬉しいけれど、「破産」や「全財産」と聞いては素直には喜べない。
苦笑いしか浮かばないスター商会の私達。
するとクルトが「はー」とため息をつくと、二人の傍に行き、何やらこしょこしょと耳打ちをした。
すると先生二人は ぐるん! と勢い良く首を回し、私をジッと見つめ頷いた。
そして大量に抱えていた商品を戻し始める。
スライム店員も手伝い、最終的に駄菓子も含め、十個ぐらいの品で我慢したようだ。
一体クルトは何を言ったのか……
先生たちを丸め込んだその手腕!
猛獣使いの様だとちょっとだけ思ってしまった。
「クルト、先生達に何を言ったんですか?」
先生達をレジに案内し直し、戻ってきたクルトにそっと声を掛ける。
私の質問を聞くと、クルトはクスリと笑い答えてくれた。
「簡単な事ですよ。ここでおもちゃを沢山買って帰るより、学園に入学したララ様と新しい魔法のおもちゃを作る方が楽しくないですか? と声を掛けただけです」
「えっ……それは……私のところに先生達が入り浸りませんか……?」
「それは大丈夫でしょう。先生方には授業が有りますからね。それに自主的に新商品を作ってくれれば、スター商会は助かりますしねー」
「ああ、確かに! 凄い! クルトってば猛獣使いみたいですね!」
「あはは、普段から一番大変な猛獣の傍にいますからねー、先生方など可愛いものですよ……」
そう言って笑ったクルトが言った ”猛獣” とは一体誰の事なのか……
深くは考えないようにした私だった。
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