第544話 親友の訪問

「ふんふんふーん、ふんふんふーん、ふんふんふーん」

「ララ様ご機嫌ですねー」


 クルトの言葉に私は元気いっぱいに頷く。


 そう、クルトのおっしゃる通り! 今日の私はめちゃくちゃご機嫌だからだ。


 なんと今日は学校で初めて出来た私の親友ディックがこのスター商会に、そして王都の屋敷に遊びに来る日なのだ! フッフー!


 学校で出来た初めての友達、ディック!


 その上親友でもあるディック! マブダチディック! ズッ友ディック!


 私は朝から……いいえ! 前日から親友が遊びに来る! という喜びでウキウキが止まらなかった。


「ララ、ディックだけじゃなくって先生達も来るんでしょう? ディックの事は俺に任せて良いから、きちんと先生達の相手もしてね」


 目が笑っていない様子でそう声を掛けて来たのは、ちょっとばかし不機嫌気味のセオだ。


 セオは何故か年下のディックをライバル視している。


 いやいや、ライバルならルイやレオナルド王子がいるでしょう? 


 と普段なら突っ込むところだが、ウイルバード・チュトラリーとの戦いでウーノと顔を合わせてからのセオは、本人が気が付かない程度に情緒不安定だ。


 先日の受験結果発表の際も、普段とは違いソワソワと落ち着かない様子だったセオ。


 普段見せる可愛い笑顔だってまるで別人の様で、ちょっとばかしアダルヘルムを思わせるような笑みを浮かべていた。


 そう、セオがちょっと可笑しい。


 義理の妹として、そして主として、暫くはセオの事はそっとしておきたいと思っている。

 

 本人が望むなら、ディックの事もある程度はセオにお願いした方が良いだろう。


 勿論ディックの親友として私も譲れない部分はあるけれど、部屋の案内などは男同士のセオの方が良いはずだ。


 それにセオとディックも親友になるかもしれないしね。


 そうしたらウーノへの想いも少しは落ち着くかもしれないものね。うん、うん。



「ララ、準備出来たー?」


 軽くノックをすると、ノアとルイが私の部屋へと入って来た。


 今日はノアも一緒にディックと先生達をお出迎えする。


 ノアは受験でオール満点を取り首席となった。


 私が学園の教授として一年だけユルデンブルク魔法学校へ通うように、ノアも一年だけ学園へ通い、卒業試験を受け、合格すればそのまま卒業する予定だ。


 私はガイフ国にある世界最高峰と言われている、グレイベアード魔法高等学校へと進学する予定だが、ノアは進学はしない。


 元からユルデンブルク魔法学校もあまり行く気が無かったので、そこは仕方がないだろう。


 それよりもスター商会やお母様の傍にいたい。


 ノアはそう思っているようだった。


「ララ様ー、今日は暴れるなよー、学校は良いけど屋敷は壊さないでくれよー?」


 ルイが私をからかってなのか、ニヤニヤしながらそんな事を言ってきた。


 ちびっ子だったルイはまだ成長期の途中のようで、また背が伸びたように思う。


 見た目だけは一応成人した大人に見えるルイだけど、私を揶揄うだなんて、中身はまだまだお子ちゃまのようだ。


 私は学校で暴れたことも、みずから進んで学校を壊した事も無い。


 私が学校でやった事といえば試験を頑張った事だけだし、最近暴れたといえば、敵であるウイルバード・チュトラリーの仲間達のほうだ。


 自分はまったく悪くないと自信がある私は、一つ咳払いをした後ルイに素敵笑顔を向けた。


「ゴホンッ、ルイ、私は暴れたことなどございませんわ。学校が壊れてしまったのは魔道具が壊れたからですの……それに先日占いの屋敷が壊れたのはウイルバード・チュトラリー達、敵のせいです。私はまったく関係ないのですよ、オホホホホ」

「アハハ、まあ、そうとも言えなくはないよなー、でも次回戦いがあったら俺もついて行くからな! 俺だって戦えるんだぜ」

「ルイ、ルイは僕の護衛だろう? 僕の傍を離れるの?」

「なーに言ってんだよー! せっかく強いんだ、ノア様も戦いに行こうぜ! 敵の奴らを一緒にやっつけちまおうぜ!」


 何だか……


 私の言葉はあまりルイには響かないらしい……


 笑い飛ばされて終わってしまった。


 ルイとノアは、私の様子など気にする事無く「面倒臭い」「行こうぜ!」と兄弟喧嘩のようなやり取りを始めてしまった。


 そこにクルトの「まった」が入る。


 ふざけ合って騒ぎ出したノアとルイの間に入り「そろそろ出迎えに参りませんと……」と止めに入ってくれた。


 さすがクルト先生、気が効きますね! うん、うん。


 ディックや先生達とは、まずは王都のスター商会で待ち合わせをしている。


 なので転移が出来る私達は、余裕を持っての移動となる。


 転移部屋へ向かう間も、ルイはちょっと興奮気味だ。


 ウイルバード・チュトラリーの攻撃や、占いの館での戦いの事を、セオやクルトに聞いては、「次こそは自分も!」と握り拳を作り気合いを入れていた。


 このユルデンブルクの街を守りたいと幼いころから思っているルイからすると、ユルデンブルクがウイルバード・チュトラリー達に攻撃されないように、自分の手で守りたいと思う気持ちは良くわかる。


 親友訪問でウキウキしている私より興奮気味のルイを見て、ノアが「最近ずっとあんな感じなんだよー」と小さくため息をつくのを聞きながら、私達はスター商会へと転移した。




「リアムー、おはようー」

「おー、ララ、ノア、おはよう。今日は揃いの衣装なんだなー、あー、二人とも良く似合ってるぞ」

「ウフフ、ありがとう。オルガが作ってくれたの、白を基調にして水色が入っていて、刺繍は銀糸なの、素敵でしょう?」

「ああ、オルガ様は流石だよなー。スター商会で雇いたいぐらいだぜ」

「ダメー。オルガはディープウッズ家のメイド長だもの。いなくなったら困るわ」

「まあ、確かにそうだよなー、オルガ様にも一瞬で断られそうだしなー。あ、それより今日は先生は三人だったか? んで、ララの友達も来て全員で4人で良いんだな?」

「うん、そうです。リアム、宜しくお願いします。スター商会を見学出来る事を皆さん楽しみにしてますからね」

「おう、任せとけ! スター商会の虜にしてやるぜ」


 リアムはそう言って違和感なくウインクをした。


 リアムもやっぱりモテ男子。


 自然にウインク出来るだなんて羨ましい。


 沢山の友人を作る為にも、学園入学前に私ももう少しウインクを鍛えた方が良いかもしれない。


 リアムの笑顔を見ながらそう決意した私は、ひっそりと片目瞬きを連打しながら、皆と一緒に玄関へと向かったのだった。




☆☆☆



おはようございます。白猫なおです。(=^・^=)

ウイルバード・チュトラリーが復活しましたが、こちらは相変わらず呑気な様子ですね。セオはディックとララが仲良くなりすぎることを警戒していますが、恋に発展することは無いでしょう。例えディックがララを好きになったとしても……まずララは気付かないでしょうからね。セオは苦労性なのかもしれません。頑張ってー。

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