第545話 親友の訪問②

 約束の時間になると、二台の馬車がスター商会へとやって来た。


 前を走る馬車は、ユルデンブルク魔法学校の校章の付いた馬車。


 そして後ろを走る馬車は、貴族の家紋入りの馬車。


 多分ディックの屋敷の家紋、ムーア子爵家の馬車だろう。


 その二台が連なりやって来ると、セオがギュッとまた私の手を握ってきた。


 そしてその美しい顔には、アダルヘルム似の笑顔を浮かべている。


 リアムがチラリとそんなセオの様子を見ると、目を見開き二度見していた。


 リアムが大好きなセオに 「えっ? アダルヘルムが乗り移った?」 とそう思ったのかもしれない。


 馬車よりもセオが気になる、リアムはそんな様子だった。


 馬車が止まると、まずはモルドン先生が元気良く飛び出してきた。


 そう、本当に文字通り馬車から飛び出して来たのだ。


 きっとモルドン先生はこの日を楽しみにしていたのだろう。


 ニコニコ顔がとても眩しい。


 お誘いして良かったとその笑顔を見て思えたが、ただ、モルドン先生はアダルヘルムとマトヴィルがこの場にいない事に気が付くと、少しだけ (いや、かなりかな……) しょんぼりとしていた。


 モルドン先生大丈夫ですよ。


 二人には後でタップリ会えますからね。


 楽しみにしていて下さいね。



 そして次に馬車から降りて来たのは、ユルデンブルク魔法学校の剣術の教師であり、私の大好きな先生でもあるエリー先生こと、ロバート・エリドット先生だ。


 エリー先生は私服姿でも、そのガッチリとした体格の良さがよく分かり、その上今日は髪型にも、そして自慢の? 短い顎髭にも、気合いが入っている。


 入学試験の時のエリー先生は、スポーツ刈りといった感じだったけれど、今日は坊主姿だ。


 顎髭は綺麗に揃えられ、正に今整えました! といった様子だ。


 エリー先生の見た目にはめちゃくちゃ似合っているけど、「うふふ」と可愛く笑い、私に手を振る姿とは違和感有りまくりだった。


 でもエリー先生がやると、何故かそんな姿も素敵だと思えるから不思議だ。


 ただし、エリー先生もアダルヘルムとマドヴィルが居ない事が分かると、ちょっとだけ残念そうな顔をしていた。


 エリー先生、私のお出迎えでごめんなさいね。


 


 そして次に馬車から降りて来たのは……


 何故か呼んでいない、校長先生と教頭先生だった。


 いつも学校で会う時は落ち着いた色のスーツを着ているこの二人だが、今日は狸顔の校長先生は赤いネクタイに同色のハンカチーフ、そしてスーツも派手目な淡いブルーを着ている。


 これは、一張羅というやつだろうか?


 いや、この日のために新調したのかな?


 呼んでないんだけどね……




 そして狐顔の教頭先生は、淡い緑のスーツに黄色のネクタイでこちらも派手だ。


 髪も普段以上にバッチリと固めてあり、訪問への気合いが伺える。

 

 ただし、そんな二人を見て (呼んでないんだけど……) と私の笑顔が引きつってしまった。


 もしかしてリアムが招待したのだろうか?


 いや、リアムも (ん?) と疑問の表情を浮かべている。


 勝手についてきた?


 それが正解のようだ。



「ララ!」


 二台目の馬車から、今日一番会いたかったディックがやっと降りてきた。


 ディックも普段着ではなく、今日は貴族の子息らしくスーツ姿だ。


 カッコイイ!


 私がディックに手を振ると、セオがウーノを思い出してしまうのか ”アダルヘルム似笑顔” になる。


 ディックが笑顔で手を振り返してくると、今度は私の前にセオが出てきた。


 まるで誰かからの攻撃から私を守るかのような行動だけど、今日招待した人達が私を攻撃してくるとは思えない。


 それに校長先生達には、流石に負ける気もしないしね。


 そんな可笑しな行動をするセオを見て、リアムが心配そうだ。


 やっぱり愛しい人の様子が可笑しいと、気になって仕方がないようだ。


 私はそんなセオやリアムの様子に気付かないフリをしながら、「では、中へ……」と皆をスター商会内へと案内しようとしたところで、ムーア家の馬車からまた人が降りてきた。


 その人物は、最初に私の魔法の試験を受け持ってくれたバンナヴィン・スラング先生と、特別室で私の魔法試験を見てくれたライリー先生だ。


 うん、この二人も呼んでないけど……


 リアムもまた (ん?) と疑問系の表情だ。


 やっぱり先生達も勝手についてきたんだね……と苦笑いになっていると、最後にディックに良く似た男の子……いや、青年かな?


 ディックのお兄様だと思われる男性も馬車から降りてきた。


 おお! 大歓迎だよ! お兄様!



「初めまして、ムーア子爵家長男、ジャック・ムーアでございます。本日は仕事の父に変わり、私が代理としてディックがお世話になる挨拶に参りました。宜しくお願いいたします」

「ディックのお兄様ようこそお越しくださいました。ディックの友人のララ・ディープウッズです。宜しければお兄様も一緒にスター商会によって行かれませんか?」

「いえ、急に押しかけてはご迷惑でしょうし……」

「いいえ、親友のお兄様ですもの大歓迎ですわ! ね、リアム、良いでしょう?」

「ああ、勿論だ。ジャック様、これから弟君のディック様にはスター商会の会頭がお世話になるんです。今日は是非色々とお話しさせて下さい」


 リアムは副会長らしい笑顔でそう挨拶する傍ら、私に聞こえる程度で「ララの無鉄砲な性格を親友の兄貴にも知っておいて貰わなきゃなっ」とボソリと呟いた。


 どうやらリアムは、私がディックやディックの家族に何か迷惑を掛けるとでも思っているようだ。


 リアムの言葉が聞こえたであろうルイが、後ろでクスクスと笑っている。


 けしからん!


 ディックのお兄様はちょっとだけ悩んたあと、チラリとディックを見て 「では、是非お邪魔させて頂きます」 と言ってくれた。


 親友であるディックとは、是非とも家族ぐるみで仲良くなりたいからね。


 うん、うん、リアムの ”か弱い(無鉄砲)私を心配する優しい心遣い” のお陰で、またディックとの親友度がグーンと上がった気がするよ。


 ただし、私の横で微笑むセオは相変わらずの笑顔だったけどね……



「あー、もしかして校長方もお見送りでいらしたのですか?」


 リアムも私も、そして勿論ノアも、誘った訳では無い校長先生達に向け、リアムがそんな質問をした。


 すると校長先生、教頭先生は 「あのー……えーと……」 とちょっと困り気味でモジモジとしだし、そして同じく呼ばれていない魔法学科の先生二人は、何故か授業中に発表するかのようにビシッと大きく手を上げてきた。


 リアムはそれを見て楽しそうにクスリと笑い、手を上げている先生二人に今度は声を掛けた。


「先生方、どうぞ、お話し下さい」

「「はい!」」


 先生二人は良い返事をする。


 本当に生徒のようだ。


 そして一歩……いや、二、三歩前に出ると、熱意ある視線を私に向けてきた。


 うん、これは嫌な予感しかしないよねー。



「私は今日はララ様の弟子にして頂こうと思ってやって参りました!」

「私もです!」

「えっ? 弟子?」


 興奮気味の先生二人は、また一歩前に出る。


 だんだんと私に近づいてきてちょっと怖い。


 先生たち、試験の時とキャラが変わってないですか?! 何が合ったんですか?!


 と私がちょっと怯えていると、セオが護衛として本格的に私をガードし始めた。


 そんな事も気にする事無く、鼻息を荒くして先生二人は叫んだ。


「ララ様が研究室を開く! その一番弟子は是非私で!」

「ララ様の魔法を最初に見たのは私です! 一番弟子は私こそ相応しい、是非一番弟子の称号は私にお願いします!」


 メラメラと燃える視線を私に向ける魔法科の先生二人。


 楽しそうなリアムが大笑いしそうな様子を堪え乍ら 「取り敢えず皆さん中へ……」 と皆をスター商会内へと案内しても、残念ながら先生二人のその燃え上がる炎は消えることは無かった。


 えー、私、弟子とか有り得ないんですけどー!


 これ、どうするのよーーー!





☆☆☆




おはようございます。白猫なおです。(=^・^=)

今日はひな祭りですか……雛あられでも買ってこようかなー。うん……忘れそう。

さてさて、暫く親友とのお話になりますが、私としては早く学園に入学させたい。二人の王子も登場させたい!そう思いながら長くなってしまうのがララちゃんなんですよねー(;'∀')

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