第533話 ユルデンブルク魔法学校の一大事④

「いやー、それにしてもディープウッズ家の姫様も若君様も美しかったねー」

「ええ、校長、お二人共まさにアラスター様とエレノア様のお子様という輝きでした。それにアダルヘルム様とマトヴィル様も……噂以上の美しさでしたねー……」


 教頭であるオスカルの言葉に、ユルデンブルク魔法学校の校長であるブルーノは満面の笑みで頷く。


 伝説の騎士と武術家であり、アラスター様の一番弟子である伝説のあのお二人に、まさか生きているうちに会えるなどとは思っておらず、ブルーノもオスカルもただただ感動していた。


 それに、アダルヘルム様とは思いがけず、ジックリまったりとお話しまでしてしまった。


 これは家族に自慢出来るどころか、ラクーン家の末代まで言い伝えることが出来るほどの案件だ。


 それにディープウッズ家の素晴らしい馬車に乗ることまで出来た。


 もう死んでも良い! そう思えるほどブルーノもオスカルも感動に酔いしれていた。


「は〜……実技試験の際もお二人はお見送りにいらしゃるだろうか……?」


 一度会ってしまえばまた会いたくなるのが恋。


 ブルーノもオスカルもすっかり恋する乙女となり、目をつぶっては「は〜」と吐息を吐きながら頬を染め、昨日会ったばかりの美しいアダルヘルムとマトヴィルの姿を思い浮かべた。


 今日は試験の中休み。


 受験生はやって来ない。


 つまり今日はお二人には会えないと言う事だ。


 けれどディープウッズ家のお子様が入学すればしょっちゅう会える!


 毎日お見送りに来るかもしれない。


 それにもっと仲良くなって……親友と呼べる間柄になんかなっちゃったりして?


 と、最初の頃の不安も忘れ、ブルーノとオスカルがアダルヘルムとマトヴィルの美しさに酔いしれていると、ノックもなく突然校長室の扉が バンッ! と勢い良く開いた。


 二人が口から心臓が飛び出すほどの驚き顔で扉を見つめれば、息を弾ませ興奮気味のモルドン先生が立っていた。


「モ、モルドン先生! 突然どうしたのですか?」

「校ー長ーーーー!!」


 モルドン先生は細身の体に似合わない、ドカドカという大きな足音を立てながら校長のデスクの前まで来ると、力がまったく出なさそうなひょろひょろの腕を大きく振りきり、バンッとデスクを叩いた。


 いや、何かの白い紙を、机に叩きつけた。


「校長! 教頭も! 見てください! コレを!」

「えっ?」

「すんっばらしーんです! もーのすんっごいんです! 信じられないんですよー!!」

「えっ? えっ? ちょ、モルドン先生! おち、落ち着きなさい!」

「校長! 何を言っているんですか! 落ち着いてなどいられる訳がない! 新しい歴史の発見ですよ! 大発見なんですよー!」


 首を絞められるのではないかとブルーノが心配するほど、モルドン先生は興奮していた。


 オスカルが羽交い締め……ではなく、モルドン先生を抑え込み、なんとかソファーへと座らせる。


 その間にブルーノはモルドン先生が持ってきたクシャクシャになった白い紙に目を通した。


 するとどうやらそれは答案用紙のようだった。


 受験生の名前を見れば、あのディープウッズ家の姫様の名 ”ララ・ディープウッズ” と書いてある。


 ディープウッズ家の姫様の回答だからこんなにもモルトン先生は興奮しているのか? と思ってみたが、点数の枠に視線が進むとブルーノは固まった。


 そう、その点数の枠には……なんと ”250点” とあり得ない点数が書かれていたからだ。


「……あー? モルドン先生? このテストは250点満点だったのかなー?」


 と、そんな頓珍漢な質問をしたブルーノでさえ、そんなはずはないという事は分かっていた。


 けれど一応、そう、一応! モルドン先生に点数を確かめる事にした。


 だって100点満点のテストで250点って有り得ない! 事だからだ。


 少しだけ落ち着つき始めていたモルドン先生は、ブルーノのこの問掛けを聞くと、困ったことにまた興奮し始めた。


「校長! 勿論100点満点のテストですよー! 試験なのです、当たり前でしょう! ですが! ですがね! ララ姫様はそのテストで250点を叩き出したんですよ! 私に歴史の新事実を発表して下さったんですよ! もう出来れば1000点上げたいぐらいです! それぐらい素晴らしいんですよ! ララ姫様はーーー!!」


 ソファーへと座ったはずのモルドン先生は、またまたブルーノの前へと立ち、ララ・ディープウッズのテスト用紙を握り締めると騒ぎ出した。


 どうやらララ姫様が、ディープウッズ家だけが知っている歴史の秘密を回答用紙に書きこんだようだ。


 だからといって100点を超える点数を付けるだなんて……と校長は少し呆れたが、歴史がかわるほどの新発見をしたとなれば、それだけでも学校合格どころか卒業が出来るほどだ。


 ユルデンブルク魔法学校の名も、国中で上がるどころか爆上がりになる。


 モルドン先生の興奮も仕方ないのか? とオスカルと目配せをしていると、またまた バッバッバーンッ! と校長室の扉が開いた。


「「「校ー長ーーーー!!」」」


 入って来たのは各教科の担当教師達だ。


 皆モルドン先生に負けないほどの興奮具合。


 嫌な予感しかしない。


 これはデジャブなのか?


 ブルーノにもオスカルにも、まるで目の前にモルドン先生が何人もいるかのように見えていた。


「校長! ララ・ディープウッズ様は天才です! 新しい問題をこんなに沢山提案し、書いてくださいました!」

「校長! ララ・ディープウッズ様は素晴らしいです! 生徒達に合う問題を次々と作って下さったんですよーーー!」

「校長! ララ・ディープウッズ様が入学したら、私が生徒となり教えを請いたいです! 素晴らしい発想力! 天才です! スター商会にはララ様が作った問題集があるようなので、是非学園で大量に購入を!」

「ちょ、ちょ、ちょーっと、皆さん! とにかく落ち着いてー!」


 興奮する先生達に囲まれたブルーノは恐怖を感じていた。


 隣に立つオスカルもだ。


 もしかして我々はここで殺される?


 先生たちの圧で、押し殺される?


 オスカルに助けを求めたくても、先生達の壁で二人共埋められていてどうにも出来ない。


 ただ先生達が持つ、ララ姫様のテストの点数だけはしっかりとブルーノの目に入った。


 どの教科もやはり200点を超えている。


 学校始まって以来の天才。


 そう、ララ・ディープウッズは入学前から騒ぎを起こし、ブルーノとオスカルにそう印象付けることに成功したようだった。


 そして……人に襲われる恐怖も。


 それから……規格外という少女だという事も……


 自分たちの手に余る。


 ララは知らず知らずのうちに、自分で自分の首を絞めていたのだった。




☆☆☆




こんばんは、白猫なおです。(=^・^=)

胃が痛いです……神経の使い過ぎ、気の使い過ぎ、ストレス……

では無く食べ過ぎの白猫です……てへっ。油が胃に染みる年頃です。(;'∀')

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