第534話 ユルデンブルク魔法学校の一大事⑤

「教頭……どうしましょうかねー……」

「校長……どういたしましょうか……」


 ディープウッズ家の二人の子供達の学科の試験結果を聞いた、ユルデンブルク魔法学校の校長であるブルーノと、同じく教頭であるオスカルは、今校長室で仲良く二人して頭を抱えていた。


 先ず、ディープウッズ家の子息、ノア・ディープウッズ様の筆記試験の結果はオール満点。


 そして、ディープウッズ家のご令嬢である、ララ・ディープウッズ様の筆記試験の結果に至っては、100点満点のテストでなんと全てが200点超えという有り得ない結果を叩き出していた。


 各担当教諭達の興奮は物凄いもので、皆が皆 「ディープウッズのお子様が入学されたら教えを乞おう!」 と困ったことに大騒ぎしているのだ。


 もし……我が学校ではお子様方に教育など、勉強を教えるなど無理です!


 などと校長であるブルーノが、ディープウッズ家へと伝えたとしたら……


 教師以上の存在相手にどう教育しろというのですか?


 とでも言ったとしたら……


 あのアダルヘルム様に問答無用で真っ二つにされる事は間違い無いだろう。


 それに……


 ディープウッズ家のお子様たちの入学を、楽しみにし、心待ちにしている先生達に、ブルーノもオスカルもズタボロのボコボコにされる事も間違い無いだろう。


「あの方たちに教えるなんて……どう考えても無理だろう……」


 そんな本音と弱気が漏れたブルーノの肩を、オスカルが励ますかのようにガシリと掴む。


 期待を込めてオスカルの顔を見上げてみれば、狐のようなその顔には何か妙案があるかのようだった。


「校長! まだ諦めてはいけません! この学校には魔法学科と選択科目が沢山あるではありませんか!」

「ハッ、そ、そうか! 基礎教科を全て飛び級されたとしても、我が校には魔法学科と選択科目がある! これだけ沢山の選択科目があればいくらディープウッズのお子様とて流石に1教科ぐらいは初めての科目があるはずだな!」

「ええ! きっと大丈夫です! 希望を持ちましょう!」

「オスカル!」

「ブルーノ!」


 アダルヘルムに体を半分にされることはないと気が付いた感動のあまり、思わずヒシッと抱き合った二人だったが……


 残念ながら彼らは、アダルヘルムに育てられたララの事を、如何に甘く見ていたのかと、この後すぐに後悔する事になった……



 ドーンッ! ド、ドーンッ!



「な、何だ? 爆発か? 敵襲か?」

「こ、校長、おち、おち、落ち着いてー! こ、このもの音は……し、試験会場のようですよ!」


 ブルーノとオスカルは試験会場と自分たちで言った瞬間、ピーンッときた。


 もう絶対これしかない! と、二人とも脳裏に同じ名が浮かんでいた。


 それは勿論、ディープウッズ。


 絶対ディープウッズのお子様に何かあったに……いや、何かしたに違いない!


 そう、この数日間の経験で二人共学んでいたのだ。


 そんなひらめきを感じたその瞬間、二人は校長室から飛び出していた。


 午前中の男子の試験では、何も問題が無かった。


 午後は女子の試験……


 つまりララ姫様に何かあったと言う事だ。


 あのか細く可憐な姫様のお体に傷一つでも付いてしまったら……


 ブルーノとオスカルが、アダルヘルムにミンチにされる事は間違いないだろう。


 そんな恐ろしいことを想像し、ブルーノとオスカルは廊下を走りながらゴクリと喉を鳴らした。


 そして冷や汗たらたら状態で、大きな音がした一般試験場へと二人が足を運んでみれば、結界が張られている魔法の試験部屋は粉々になり、見るも無惨な状態へと様変わりしていた。


 ディープウッズ家のお子様は特別会場へ!


 そう教師間では徹底されていたはずなのに、どうやらそれは無意味に終わってしまったようだ。


 ブルーノとオスカルの背中には、どんどん冷たい汗が流れ出る。


 絶対に怒られる……


 アダルヘルム様に裁かれる……


 遂に殺されてしまうーーーー!


 案の定、アダルヘルムがこの緊急事態を即座に察知し、試験会場へと飛んできた。


 ララ姫様のお陰で、どうにか、どうにか命拾いをした二人だったが、その後も生きた心地がしなかった。


 そしてアダルヘルムの怒りから逃げるように、ララの魔法試験へとついて行った二人は、そこで本当に死と直面したのだった……


 そう、ララが繰り出す魔法の数々は、魔法騎士として名を馳せた二人からしてみても、有り得ないほどの威力の物だったのだ。


 あれだけの魔法を使って魔力切れも起こさず、返って生き生きとしているララを見て、ブルーノとオスカルは恐怖しか沸かなかった。


 人間じゃない……


 この子に指導? 教育?


 無理無理無理!


 ぜーったいに無理!


 規格外どころじゃない!


 この子は化け物だ!


 深層の令嬢?


 か弱いお姫様?


 誰がそんな嘘を言ったのだ!


 こんな恐ろしい令嬢、この学校じゃ受けきれないだろう!


 そう、ララの魔法を直に見たブルーノとオスカルは、この時奇跡のように思考がシンクロし、二人ともまったく同じ意見を思い浮かべていた。


「教頭……これは……何か特別措置を取らないといけませんねー……」

「ええ、校長……これは絶対に、何か特例を作らなければならないでしょう……」


 そして、試験は進み、結局ララは全ての試験でパーフェクトどころか、とんでもない結果を叩き出した。


 学校崩壊寸前……


 その言葉がピッタリなほど、ララは 「自分はディープウッズ家の子供です! 証拠を見せちゃうぞー!」 と、本人がしたくもないアピールに成功していた。


 あの姫様を学校が守るのも、教育するのも絶対に無理!


 ブルーノとオスカルが、自分たちの死を覚悟しても諦めるしかない程、ララの試験は破壊力満点だったのだ。


 だが……流石にそれをそのままアダルヘルム様にも、そして学園の教師陣にも伝える訳にはいかない。


 卒業認定を送るのは簡単だが、ユルデンブルク魔法に通った実績もやはり欲しい。


 それにガイム国にある、世界最高峰と言われているグレイベアード魔法高等学校へ推薦で行くとしても、もう今年は募集を締め切っているので、どんなに早くても行けるのは来年だ。


 それに国王陛下からは、ディープウッズ家の姫様と王子殿下たちとの仲を取り持って欲しいとの、そんな難しい連絡まできてしまった。


 自分たちの命の為にも……


 そしてアダルヘルム様に殺され……いいや、怒られないためにも、なんとか良い方法を思いつかなければ……


 と、ララの試験結果を発表するまで、ブルーノとオスカルの二人は暫く胃の痛い思いをするのだった。


 はてさてララの結果はどうなるのか……


 それを知るのは、胃に穴が開きそうなブルーノとオスカルのみなのだった。





☆☆☆




おはようございます。白猫なおです。(=^・^=)

次話からララ視点に戻ります。宜しくお願い致します。m(__)m

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