第523話 君たちは完全に包囲されている

(クロイドとメルキオールの傍へ!)


 と、そう願いながら屋敷の中へ転移すると、私とクルトはメルキオールの丁度後ろ辺りに上手く転移出来た。


 薄暗い部屋の中では、派手な服装から占い師だと思われるリードらしき人物が床に転がっていて、その後ろの壁には大きな穴が開いている事から、リードがそこにぶつかり勢いで倒れたのだろうと分かった。


 隣の豪華な部屋が丸見えだ。


 もしかしたらウイルバート・チュトラリー達の控え室だったのかもしれない。


 それとリードはそのボサボサになった髪色から、チェーニ一族の者だろうと分かる。


 セオのように濃い紺色ではないけれど、紫に近い紺色の髪だ。


 そして布で隠されていた顔も倒れた衝撃で露になっていて、その顔つきもセオと同郷だと言える美しい物だった。


 けれどそんなリードが直ぐには立てないぐらいの攻撃を何かによって受けた。


 きっとそれはクロイドとメルキオールに渡した防御の魔道具の攻撃だったのだろう。


 今日渡した魔道具は、全て市販の物より防御力マシマシで作っている。


 襲ってくる相手を、無慈悲なコナーとして想定していたので、手加減などまったくしなかった。


 そう、それは普通の人なら……天に召されている可能性もある程強力なものだ。


 けれどリードはそれに耐えた。


 それだけの力をリードももっているという事だろう。


 けれど……


 そんな倒れてボロボロの姿になっているリードを助けようと思う者は、残念ながら敵側にはいないようだ。


 皆青年の姿になったウイルバート・チュトラリーを守る様に立っており、誰一人リードを助け起こそうと思う者はいなかった。


 仲間ではあるけれど、仲間では無い。


 彼等にとって主であるウイルバート・チュトラリー以外は全てどうでも良いのだ。


 ディープウッズ家の家族や、スター商会の皆を、仲間だと、そして大切な家族だと思っている私には、それが凄く悲しい事のように感じた。


 チェーニ一族として生まれ、生き方を選択出来なかった彼等。


 生まれた時からそう育てられてしまった。


 彼らの心と体はきっと、奴隷以上に何かに縛られているのだろう。


 私の哀れむ視線を感じたのか、ウイルバート・チュトラリーが言葉を発した。



「お前は……ララ・ディープウッズ!!」


 ウイルバート・チュトラリーが私を見て名前を呼ぶ。


 ノアによく似た綺麗な顔をしているのに、私を酷く憎らし気に睨んでくるウイルバート・チュトラリー。


 まるで悪魔のようだ。


「お前のせいで……」


 と小さく呟いているが、いやいやいや、私の魔力を勝手に奪って、勝手に自分の物にしたのは貴方ですからね!


 私を恨むのはお門違いも良いところですよ!


 それをお忘れですか?!


 と私は心の中でだけで叫ぶ。


 だって逆恨みも良いところでしょう?!


 私はそんな思いは口に出さず、余裕気にウイルバート・チュトラリーに答えた。



「ウイルバート・チュトラリー! いいえ、プリンス様とでもお呼びしようかしら? ふふふっ、君たちは完全に包囲されている! 大人しくお縄になりなさい!」

「はあぁあ?!」


 メルキオールの一歩前に出て、ずっと言ってみたかったセリフをウイルバート・チュトラリー達に向けて言い放つ。


 片方の手の指で相手をさし、腰に手を当て、ついでにドヤ顔だ。


 だけど残念なことにウイルバート・チュトラリーはこの名セリフの意味が分からなかったのか、口を開け「はあぁあ?!」と間抜けな声を出していた。


 それを聞き、マトヴィルとメルキオールは「ぷっ」と笑い。


 アダルヘルムとクルトは「ララ様……」と小さく呟き、呆れた様な声で私の名を呼んでいた。


 セオはそんなここ一番でカッコイイ姿を見せた私の前に立ち、一歩前に出た私と敵側との間に素早く入ってきた。


 私を尊敬してやまないクロイドだけが、パチパチパチと高速で小さく手を叩き「カッコイイ!」と褒めてくれた。


 そんなクロイドの姿を見てウイルバート・チュトラリーはピーンと来たのだろう。


 自分の胸に手を置き、何かを確認した。


「ララ・ディープウッズ……お前、まさか……僕の血の契約を切ったのか……」


 先程以上に怖い顔でウイルバート・チュトラリーは私を睨んでくる。


 多分、私を褒めたたえたクロイドを見て、自分との血の契約が何かおかしいとやっとここで気が付いたのだろう。


 ウイルバート・チュトラリーの焦りはあからさまだった。


 何故なら血の契約は、結んだ主である人間にしか解除することが出来ないもの。


 それなのに私がクロイドの血の契約を知らぬ間に解除してしまった。


 つまりウイルバート・チュトラリーは血の契約をする事で、これまで信用し、自分の部下として使ってきたもの達から、気が付かないうちに裏切られる可能性が出てきたという事だ。


 それも今日クロイドの様子を見るまで、血の契約の異変にまったく気が付かなかった。


 それはウイルバート・チュトラリーが私の魔力を奪ってしまったからだろう。


 そう、ただでさえウイルバート・チュトラリーと私は、いとこ同士という事で似た魔力を持っていた。


 だからこそウイルバート・チュトラリーも、あの時私から魔力をたっぷりと奪えたのだろう。


 けれどそのせいで私も主として認識されるようになってしまった。


 ウイルバート・チュトラリーにとってこれ程恐ろしいことは無いだろう。


 信用できる部下がどれほどいるのかは分からないが、その全員が私の味方になり、ウイルバート・チュトラリーの敵になる可能性があるのだ。


 私達のように心で通じ合っている仲間とは違い、ウイルバート・チュトラリーは自分の力で無理矢理結んでいた関係だ。


 それが脆くなった今、ウイルバート・チュトラリーは確実に誰も信用できなくなった。


 そう、腹心の部下であるコナーのことだって、もう100%信用できないかもしれない。


 自分で蒔いた種とはいえ、ウイルバート・チュトラリーには大きな痛手のはずだ。


 沢山の人を苦しめて来た物が、今自分に返って来たのだ。


 申し訳ないけれど、ウイルバート・チュトラリーに同情する気にはなれない。


 私だってあの時の事は忘れていない!


 彼らのせいで多くの人が傷ついた。


 それに私は二年も眠らされたんだからね!


 起きてからのアダルヘルムとの修行大変だったんだから!


 そう! ざまーみろだわさ! フフフンッ!



「俺様の力がお前如きに汚染されたというのか!!」


 ウイルバート・チュトラリーはそう叫ぶと、足掻くように、何度も何度も自分の胸を触り、繋がりを確かめた。


 けれどクロイドは相変わらず私をウットリと見ていて、ウイルバート・チュトラリーよりも私に服従している事が分かる。


 ウイルバート・チュトラリーはイラつきが頂点に達したのだろう、一気に自分の胸に魔力を込めたように感じた。


 すると、コナーを始め、この部屋にいるウイルバート・チュトラリーの仲間達が皆苦しみだした。


 勿論私達と対峙しているので、何とか耐え、倒れ込んだりはしない。


 ただ冷汗をかき顔色がとても悪い。


 凄く苦しそうだ。


 先程吹っ飛ばされ弱っていたリードに至っては、胸を押さえ膝もついている。


 その中でもクロイドは平気な顔のままだ。


 いや、うっとりなカエル顔のままだ。


 これでウイルバート・チュトラリーは何かを確信できたのだろう、酷く醜い顔つきになると胸を押さえるのを止めた。





☆☆☆




おはようございます、白猫なおです。(=^・^=)

12月も半分が過ぎようとしていますね……はー……早い早い。ってまた言ってるってか?

ウイルバート・チュトラリー、はてさてどうなるか。彼の事はそれ程ですがコナーは好きです。いつかコナーの過去も書きたい。

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