第522話 疑わしきは罰せず?
「ウイルバート・チュトラリーが出てきた!」
「あの者が出てきたようです……」
馬車の中、私とアダルヘルムの声が揃った。
アダルヘルムはスライムから「キュキュキュッ」と言う言葉を受け取り、そして私の方はクロイドから……嫌だけど念話のように脳内に声が響いて来た。
こんな特殊な能力ちっとも嬉しくないが、あちらの様子が分かるのは正直嬉しかった。
スライム語は私には取得困難だしね。
どうやらクロイドは、主である私にどうにか連絡を取ろうと思い、血の契約者同士が繋がれる念話を咄嗟に私に送るすべを学んだようだ……
凄い、クロイド、凄すぎるよ。
やれば出来る子、カエルの子だね! 見直したよ。
主想い……と言えば聞こえが良いけれど……
でも、ちょっと怖くないですか?
それも私にだけ伝える念話……
やっぱりクロイドって気持ち悪い……いえいえ、えーと……頑張ってくれているよね。
うん。
でも正直なところ余り嬉しくない……と言いたいところだけれど、今は敵の様子が分かるので、クロイドの頑張りには感謝しかない。
まあ、これが終わったら、クロイドと繋がることは二度と無いと願いたいけどね。
クロイドの事は裏ギルド長だったから嫌い……というよりも、何だかネチネチしてる視線が苦手なんだよねー。
もうすっかりいい人になったはずなのに、こればかりは仕方がないよね、本当にごめん。
誰だって苦手なものはあると思うのです。
うん、うん。
「ふむ、どうやらウイルバート・チュトラリーも席に着いたようですね……それに、コナーと……ウエルス家に侵入していたガリーナ・テネブラエもいるようです……他には迎えに来た男の他に三名一緒にいるようですね……どうやら皆チェーニ一族の者の様ですよ……」
クロイドとの念話では、残念ながらそこまでの情報は入ってこなかった。
会話の音声のみだ。
スライムはメルキオールのポケットから、こっそりと覗き見し、盗み聞きして情報を掴んでいるのだろう。
諜報員としてスライムはとても役に立っている。
チェーニ一族も真っ青だ。
流石アダルヘルム親衛隊。
とても優秀だ。
それにしても、やはりウイルバート・チュトラリーも掌握できていない王都という事で、周りを警戒しているのだろう、自分の護衛の為かチェーニ一族の者を沢山連れてきているようだ。
それだけ闇ギルド襲撃失敗は、ウイルバート・チュトラリーにも痛手だったのかもしれない。
だったら尚更メルキオール達が危険な気がする。
助けに行かなくて大丈夫だろうか?
『リード、どうしたんだ? 何かおかしい事が有ったのか?』
『は、はい……プリンス様……その、水晶があり得ない物を映し出したのです……』
『あり得ない物……?』
屋敷の中の話し声だけはクロイドの念話から聞こえてくるが、クロイドに黙られると、あちらの様子がどうなっているのかが私には分からなくなる。
けれどアダルヘルムが直ぐにスライムの「キュキュキュー、キュキュキュキュ」という言葉を聞き取り、中の様子を教えてくれる。
何故か分からないけれど、リードが水晶を見て違和感を感じ、それを今ウイルバート・チュトラリー達に見せているようだ。
やっぱりこれはメルキオールとクロイドが危険なのでは無いだろうか?
何かを感づかれたのではないだろうか?
直ぐに助けに行った方がいいのではないか?
マトヴィルやセオやクルトも私と同じ事を思ったのだろう、アダルヘルムの動きを気にしながら、自分の剣に手を置き、いつでも動けるようにしていた。
そんな様子を見てジュンシーは怯えるのではなく、テゾーロとビジューを抱き、凄くウキウキとしているようだった。
ジュンシーは今、闇ギルドで宝物を目の前に置かれたときのような顔をしている。
きっとアダルヘルムとマトヴィルの本気の戦いが見れると喜んでいるのだろう。
でも転移する時はジュンシーは馬車の中に置いて行かれる予定なんだけどね。
それでも嬉しいものは嬉しいらしい。
ジュンシーもまた変態体質……いえ、闇ギルド長らしいようだ。
『これはどういうこと? この光は何なの? このクロイドが偽物って事なの?』
ウイルバート・チュトラリーは水晶を見てそうリードに話しかけた。
けれどリードは首を振り、本物のクロイドだと答えた。
どうやらクロイドを占おうとしたら、水晶があり得ない輝き方をした様だ。
それがどんな感じなのかは私達には分からないが、占い師であるリードが驚くという事は、今まで見たことも無いような光り方をしたのだろう。
アダルヘルムがそんな様子をスライムから聞き、納得顔で頷くと、口を開いた。
「水晶の光はララ様とクロイドが繫がったからでしょう……」
アダルヘルムの呟いた言葉に、今度は皆が納得顔で頷く中、ジュンシーだけは「ああ……! その場に居たかった!」と半泣きになっていた。
そんなジュンシーをいい子いい子と慰めている間も、あちらの会話は進んでいく。
『じゃあ、リードでもこれが何なのか分からないって事?』
ウイルバート・チュトラリーが気軽な感じでそうリードに問いかける。
声の調子から水晶の事など余り気にしていない、そんな感じだ。
けれど、リードの方は違った。
「分からない」などと、ウイルバート・チュトラリーに言ってはいけないとでも思っているのか、まるで首を締められ、喉を鳴らす音が聞こえてくるのではないかと思うぐらい、苦しそうに『……はい……』と小さく答えていた。
ウイルバート・チュトラリーは本当に仲間を支配しているようだ。
血の契約で体は勿論の事、心まで縛り、仲間に感情を持たせないようにしているように思う。
でもその中でも、リードやブライアンは自分の考えがまだあるように見えた。
けれど……コナーや他のチェーニ一族の者は、無表情で自分で考えることを放棄しているように思える。
リードは占い師だから、そこまで縛られていない?
いえ、もしかしたら育った環境のせいなのかもしれない?
ううん、奴隷たちも何も考えていないようだった。
やはりウイルバート・チュトラリーが自由に相手の縛り型を選択できるのかもしれない。
私に念話を送ろうとクロイドが成長したのも縛り方の関係なのだろうか?
いや、私はクロイドを縛っていない。
離れて欲しいぐらいだ……
血の契約。
禁忌の魔法。
それは簡単で単純なものでは無いと思えた。
『リード、疑わしきは罰せず……ってのは僕は嫌いだよ……』
『え、は、はい?』
『だから、怪しいんだったら処分してって事』
『は、はい!』
私の頭の中でドンッ! と大きな音がした。
一体何が合ったのかは分からないけれど、その音でクロイドが何かされたことだけは分かった。
直ぐに情報を掴んだ私とアダルヘルムの顔色が変わる。
するとセオはすぐさまアダムヘルムとマトヴィルの手だけを掴んで転移した。
皆の姿が馬車の中から一瞬で消える。
私も転移を……と思ったが、そんな私の手をクルトが掴んでいた。
もしかして私をこの場に止めようとしている?
ううん、違う。
クルトは私と一緒に行く気なのだ。
「クルト、あちらは危険ですよ?」
「ええ、だからこそ一緒に行くんです! おれはララ様の世話係ですからね!」
笑顔でそう答えたクルトの手をぎゅっと握りしめ、私はウイルバート・チュトラリーがいる屋敷の中へ転移した。
最後に見えたジュンシーの顔が、泣きそうだったのできっと一緒に来たかったのだろう。
転移する瞬間「ああーーー!」というジュンシーの叫び声が聞こえてきた。
ジュンシーさん、ごめんね。
お留守番、宜しくお願いしますね。
☆☆☆
おはようございます。白猫なおです。(=^・^=)
ララはどうしてもクロイドが苦手です。嫌いではない……嫌いでは無いのですが、ねっとりとした視線を思い出すと鳥肌が立ちます。
そしてジュンシー、この戦いを一番楽しみにしていました。アダルヘルムとマトヴィルはもう伝説の存在。そんな人達の戦いが間近で見れる。ジュンシーが興奮しないはずが有りません。
そしてクルト、ララから目を離す気は有りません。世話係として今度こそララを守る。そう覚悟を決めています。
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