第524話 やれるもんならやってみろ!

「だったら……その存在を消すまでのこと! ララ・ディープウッズ! 今日ここに来たことを後悔させてやる!」


 ウイルバート・チュトラリーはそんな事を叫ぶと、私に向けて赤黒い炎の塊のような魔法攻撃を仕掛けてきた。


 するとその瞬間、セオは私を守る……のではなく、その場から一瞬で転移しアダルヘルム達の傍へと離れていった。


 そう、これは最初からアダルヘルム達と話し合っていたことだ。


 決してセオが冷静さを失ったわけではない。


 今現在、繋がっていると思われるウイルバート・チュトラリーの攻撃を私が受けた場合、一体どうなるのか?


 ウイルバート・チュトラリーが私の魔力を奪った事で、ウイルバート・チュトラリーと私はほぼ同一人物に近い存在となり、その上私の方が主として力が強いと思われる現状となった。


 アダルヘルムはそれを実際に確認してみたいと言っていた。


 クロイドを見て、自分の部下を奪われたと知れば、子供のような性格のウイルバート・チュトラリーは絶対に怒る。


 その時真っ先に狙われるのは私だろうとアダルヘルムは言った。


 ならば、私がウイルバート・チュトラリーの攻撃を受けて相手に分からさせたい。


 自分達が何をしたのか、そして今現在それによってどういう状態になったのか……


 そう……


「ウイルバート・チュトラリーの鼻っ柱を……自尊心を……木っ端みじんに壊して見せましょう……フフフフフ……」


 そう言ったあの時の悪魔のようなアダルヘルムこそ、私はウイルバート・チュトラリーに見せてあげたい。


 あれは絶対にヤバイ相手を敵に回したと後悔する笑みだった。


 魔王降臨。


 だってアダルヘルムってば、そんな言葉がピッタリな笑顔だったからね。


 普通の人ならその時点で絶対に後悔することでしょう。


 そんな思いに耽り、私達の予定通りの行動をしてくれたウイルバート・チュトラリーは、セオが私の前から飛んで避けた事で驚いた顔になった。


 きっと最初の攻撃はセオが受けるとでも思っていたのだろう。


 またセオを痛めつけて、もしかしたら私の心をへし折る気でいたのかもしれない。


 いやいやいや、アダルヘルムとマトヴィルが今の時点で何の攻撃も仕掛けていない事でちょっとは可笑しいって気付こうよ。


 それにセオはもう大人だ。


 あの時のセオとは違う。


 努力の甲斐あって別人のように強くなった。


 それに……


 ウイルバート・チュトラリーやコナーと顔を合わせた今も、セオは冷静なまま予定通りの行動をしている。


 暗殺ばかりで、実際に敵と向きあう事など殆ど無かったであろうウイルバート・チュトラリーは、自分が優位に立てる戦いばかりをしてきたはずだ。


 その証拠に、前回アダルヘルムとマトヴィルが来た途端逃げて行った。


 きっと普通に戦っても勝てないと分かっていたからだろう。


 だからこそ今の周りの様子にも、仲間の様子にも気が付かない。


 見た目は大人になったけれど、ウイルバート・チュトラリーは丸っ切り子供のままだ。


 そう、自分の思い通りにならないと癇癪を起す子供。


 そして常に楽しいことを追い求める子供。


 そんな相手にいつまでもやられっぱなしの私達では無いのだ。


 今日会った事を、そして私の魔力を奪った事を後悔させてやる!


 ウイルバート・チュトラリー! 覚悟していなさい!





 ウイルバート・チュトラリーの黒と赤が混じった炎の玉のような魔法ボールは、セオが避けた事で、その後ろに居た私めがけて飛んできた。


 それを見ると、先日行ったボール飛び出し魔道具の実験を思い出し、自然と口元が緩んだ。


 あの実験の最高速度のボールの方が、ウイルバート・チュトラリーの攻撃よりも早かった気がする。


(ウイルバート・チュトラリーの攻撃ってこの程度なの……? 拍子抜けだよねー)


 全く怖くもなく、なーんの脅威も感じない魔法ボール。


 私がそれを難なく両手で軽く受け止めると、赤黒かった魔法ボールの球は私の手の中で黄金色へと変わり出した。


 ウイルバート・チュトラリーの魔力から、私の魔力の色へと変わる魔法のボール。


 すんなり私のという事を利く魔法ボール。


 やはり私とウイルバート・チュトラリーはほぼ同一人物に近い上に、元々性質が似ていたのだろう。


 想像以上に簡単に私色に染まってくれた。


 そして黄金色になった魔法ボールは、癒し爆弾にとても良く似ていた。


 もうウイルバート・チュトラリーがどんなに攻撃して来ても、私には当たることは無いだろう。


 それどころか、受けた力(魔法)を倍にする事が出来る。


 ギラギラと夏の太陽のように輝く魔法の球を、私は唖然とし余裕がなくなったウイルバート・チュトラリーに向けて勢い良く投げつけた。


「癒し爆弾! いけー! 百倍返しの刑だーーー!」


 自分目掛けて飛んでくる私の金色に輝く光の玉を見て、ウイルバート・チュトラリーの顔が恐怖からか青ざめたように見えた。


 腹心のコナーが、そして戦う前から既にヨレヨレのリードが、そしてガリーナや他の護衛の者達が、本人の意思なのか、それともウイルバート・チュトラリーからの指示なのかは分からないが、私の攻撃から大切な主であるウイルバート・チュトラリーを守ろうとしたのだろう……


 全員がウイルバート・チュトラリーの前に並んで立ち、光の玉を受ける壁となった。


 でもね……


 君たち、これは癒し爆弾なんですよ。


 つまり……私の癒しを君達が受けたらどうなると思いますか?


 答えは、クロイドみたいになっちゃうって事なんですよ?


 そう、私の攻撃は誰かを傷つけるものではない。


 なので壁になったところで無意味なのだ。


 私の癒し爆弾はそんな彼らを癒しながら、到着地点であるウイルバート・チュトラリー目掛けて飛んで行った。


 癒し爆弾が体を通り抜けたコナー達は、体がキラキラと光り出し、胸を押さえ、膝まづいた。


 残念ながら彼らには、私の癒しが苦しい様だ。


 きっとウイルバート・チュトラリーとの血の契約が影響しているのだろう。


 この攻撃は直に癒したクロイドとは影響が違うかもしれない。


 だが、絶対にゼロでは無い。


 きっと心に癒しが響き、自分の意思が出てくるだろう。


 その時どうなるか……


 ウイルバート・チュトラリーはまだ彼らを全員信用できるのだろうか?


 私を始め、こちら側の人間が皆ニヤリと笑う中、癒し爆弾はウイルバート・チュトラリーに遂に届いた。




☆☆☆




こんばんは、白猫なおです。皆様もう20日ですよ、今年やり忘れたことはございませんか?私は短編を一本年内に書き上げたかった……でもどうやら無理そうです。ううう……時間が欲しい。(;'∀')

忙しい時期です。皆様お体にはご自愛くださいませ。

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