第487話 リアムからの呼び出し
「よう、ララ、試験中に学校崩壊させたんだってー?」
受験の中休み、リアムに急だがスター商会へと顔を出して欲しいと呼ばれた。今日は試験は休みなので問題はない。
明日からは選択学科の試験が始まる。基礎教育以外で受講したい教科を自分で選択し、受験する。
ノアは特に希望する科目が無い様で、裁縫学科だけを受験する様だ。ノアはそもそも自分は人形だからと冷めたものだった。学校には多少興味はあった様だが、試験で男の子ばかりの教室で懲り懲りした様だ。
「僕には学校向かないみたーい」
と学科の試験の後、ノアはそう呟いていた。
きっとウィルバート・チュトラリーの事が無ければ、ノアは学校には行かなかっただろう。試験後の様子を見てそんな気がした。
ただし昨日の魔法の試験は楽しかったようだ。基礎教科が飛び級出来たとしても、魔法学だけは受けようかなーとも言っていた。ノアが生徒になったら魔法好きのライリー先生がきっと喜ぶ事だろう、なんとなく想像がついた。
リアムはニヤニヤしながら、嬉しそうに私が学校を崩壊させたと言っているが、それは違う。私はただ試験を真面目に受けただけだ。
そして真面目過ぎた為に偶々試験会場の魔道具が壊れ、偶々爆発しただけで、私が意図して学校を壊した訳ではない。それも試験教室だけだ、学校全てではない、そこは間違えないで欲しかった。
「リアム誰から聞いたの? 学校は崩壊したわけじゃないよ。偶々魔道具が壊れただけだからねー」
私の言葉を聞いてリアムは益々ニヤニヤする。何が嬉しいのか分からないけれど、とっても楽しそうだ。私が何かを壊す事が面白いのだろうか? だったらリアムのお屋敷も壊して差し上げますけどー!
「へへへ、師匠がさー、ララはアラスター様みたいだって滅茶苦茶喜んでたぜ。師匠はララが暴れる事が嬉しいみたいだな。それに聖女伝説に益々箔がつくしなっ」
犯人はマトヴィルか……
確かにマトヴィルは試験教室が壊れた時も、それに特別教室が壊れた時も、嬉しそうにニヤニヤしていた。
それに校長先生と教頭先生がアダルヘルムに怒られていた時も、それはそれは楽しそうにニヤニヤしていた。
要はマトヴィルは何か問題が起きる事が楽しいのだろう。マトヴィルの性格ならそれも仕方ないのかも知れない。なんてったってお父様の一の弟子だしねー。
でもね、聖女伝説に箔がつくと言うリアムの言葉には頷けない。聖女って癒す人だよね? それなのに学校を崩壊させて何故喜ばれるのよ。リアム、ちょっとそこは意味分からないんですけどー。
「リアム、学校崩壊と聖女は関係ないんじゃ無いの? それに聖女伝説って、私聞いたことないんだけど……」
「なんだ、ララ知らないのか? 聖女の逆鱗を……スター商会の会頭は聖女様って言われてるんだ。舐められるよりは怖がられる方が良い。ハハハッ、残りの試験も本気で行けよ」
つまり聖女の私が目立てば、スター商会の会頭として役に立つと言うことか。
スター商会の会頭が恐ろしいとなれば、因縁をつけてくる様な輩も減ると言うわけで、確かにブルージェ領でまだ聖女様の噂が無い時は嫌がらせが沢山あったきがする。
ならばもっともっと噂を広めましょう! リアムがどんどんやって良いと言うのならば、暴れさせて頂きましょう。そう、それこそ聖女の名にかけて!
リアムと応接室へ向かい、いつもの様に席へと着く。ガレスがお茶を入れてくれたので、ゆっくりと味わって頂く。アダルヘルムに今後何か怒られたとしても、リアムから許可が降りていると言えば許して貰えるだろう。
そんな事を思いながらオヤツのマカロンに手を伸ばしていると、リアムが私を急に呼び出した理由を話しだした。
「実はさー、オトマール・ホフマンさん、あのテンポラーレのオーナーが話があるって今から来る事になってよ。ララも話しが聞きたいだろうって思って呼び出したんだよ」
「オトマールさんが? どうしたんだろう、魔道具に何かあったのかな?」
テンポラーレと言えば、ロイドの件ではとってもお世話になった。その後お礼に伺ったが、オトマールさんは優しくてまったく気にもしていない様だった。
スター商会にはいつもお世話になりっぱなしだからと言ってくれたけれど、魔道具や香辛料のことはセオの先輩のことがあったからだ。私達の方がよっぽどテンポラーレにはお世話になっているんだけど、オトマールさんは本当に良い方だ。
リアムとそんな話をしていると、オトマールさんが時間通りにやって来た。今日も穏やかな笑顔を浮かべていて、オトマールさんは貴族にしては凄く人が良い気がする。
話に聞く限り貴族って自分の家の事しか考えてないみたいなんだけど……ん? いや、そんなことは無いのかな? だってレオナルド王子だって、アレッシオだって、良い子だもんね。
それにマティルドゥの一家だって皆良い人達ばかりだ。やっぱり世間の噂はあてになんてならないねー。私の事だってそうなんだもの、そんな考えにうんうんと一人納得した私だった。
「ララ様、リアム様、お時間頂いて申し訳ございません。ララ様はユルデンブルク魔法学校の試験中だったとか、そんなお忙しい時に急に参りまして、ご迷惑をお掛けしました」
「いえいえ、オトマールさん、大丈夫ですよ。筆記試験は終わっていますし、何の問題も有りません」
「そうですよ、オトマール様、ララのヤツは学校を崩壊させる程の余裕があるんだ。何の問題も無いですよ」
「えっ? 学校崩壊……? えっ?」
驚いているオトマールさんには笑顔を向けながら、テーブルの下でリアムの足を思いっきり蹴った。リアムは「ウッ!」と痛みに堪えていたけど当然の結果だ。余計なことは言わないで欲しい。身体強化しないで足を蹴ったのは私の優しさだ。リアムってばこれ以上私に可笑しな噂が流れたらどうしてくれるんでしょう。色んな人に自慢気に話すのやめて欲しいよねー!
オトマールさんの驚きと、リアムの痛みが治った所で、オトマールさんの話が始まった。ランス達も私達と一緒の席に着き話を聞く。スター商会にとって大切な話の様だ。
「実は私はレストランのオーナーを引退しようと思っておりまして……」
「えっ?」
私は驚いたがリアム達はそうでも無い様だった。
確かに出会った時のオトマールさんは、シェフを辞めて、店を人に任せていた状態だった。家の方は息子さんがもう継いでいるそうで、そちらは安心なのだそうだ。趣味だった料理。念願だった店をもったが、年齢的にも料理人を続ける事が難しくなった様だった。
「私にあともう少し残されている人生は、妻との時間を楽しもうと思っておりまして」
「奥様と……それは素敵ですね」
「はい、妻には支えられっぱなしで、私の趣味の料理を応援してくれたのも妻でした。ですからこれからは妻の専属シェフとして生きていこうと思っております」
オトマールさんてば何て素敵な旦那様なんでしょう! 残りの人生を奥様と過ごす時間に使いたいだなんて! それも専属シェフだって! ラブラブじゃないですか! 羨ましい、素晴らしい、私もオトマールさんみたいな旦那様が欲しいよー!
「オトマールさんの奥様はお幸せですね。こんなにも素敵な旦那様に愛されているんですもの」
私の言葉を聞いてオトマールさんは照れる。うん、可愛いし、素敵だし、本当にいい旦那様だ。
「あー、ララ様、それでですね。本日の話は、ウチの店をスター商会様で買い取って頂けないかと思いまして」
「えっ? 息子さんは宜しいのですか?」
「はい、人に任せた事であんな事になりましたし、息子はレストラン経営にも、料理にも、興味がございませんので、我が家としては何の問題もございません。それに……」
「それに?」
「私の店は、お世話になったララ様のいらっしゃるスター商会様に引き取って頂きたいのです」
「オトマールさん……」
嬉しい。
これはスター商会を信頼して自分の店を託したいと言う事だろう。リアムもそんなオトマールさんの気持ちが分かったのか、感動している様だった。その気持ちは分かる。スター商会が認められたって事だもんね。ここまで頑張って来た事が認められたみたいだ。
「ララ様いかがでしょうか?」
私はオトマールさんに笑顔で頷いた。
「オトマールさん、そのお話是非受けさせて下さい。テンポラーレ、スター商会で大切にさせて頂きます」
「ああ、本当ですか? それは良かった。ララ様に預けられるのならば私も安心です」
オトマールさんは私とリアム達に良い笑顔を向けてくれた。これで王都にスター商会のレストランがまた一つ出来る。それも従業員付きだ。スター商会にとっても有難い申し入れだった。
その後もオトマールさんとリアム達の話は続いた。店の引き渡しは半年後、丁度私が学校に入学する頃だろう。テンポラーレにはすでにスター商会の魔道具や、調味料なども置いてある。そう考えると簡単な改装だけで店は開店出来るだろう。人材不足のスター商会としては、これ程有難い事は無いと思う。
「よし! これで王都の第二店舗の目処はたったな」
オトマールさんが帰ったあと、リアムは気合いを入れてそんな事を言った。そう、スター・リュミエール・リストランテは、これまで散々第二店舗を望まれて来た。
王都でもブルージェ領でも、その希望は商業ギルドに嘆願書が届く程だった。二店舗とも常に予約が一杯だし、キャンセル待ちも受付出来ない状態になる程だ。これでその事が改善出来る。そう思うとホッとすると言うのが本心だった。
「リアム、大掛かりに宣伝するの? 私も何かする?」
ウキウキだったはずのリアムは動きをピタリと止めると、私の方をギロリと睨んで見てきた。もしかして今頃足を蹴った事を怒っているのだろうか? でもアレはリアムが絶対に悪い。だって私が暴れん坊みたいな事言うんだもんねー。
「ララ、お前は何もするな。受験生だろう大人しくしてろ」
リアムの言葉に首を傾げる。
だってテンポラーレを王都の第二店舗にする時は、もう私の受験は終わっている。だから宣伝活動は充分に出来るからだ。
「リアム大丈夫だよ。試験はもう終わるし、幾らでも宣伝して回れるよ」
私は会頭として任せてと胸を叩く。
でもリアムの笑顔は何故か引き攣ったものとなり、ランス達は苦笑いを浮かべ、そっと仕事に戻って行った。
「いや……ララ、お前は学校が始まる頃だろう、店の事は俺達に任せておけば良いんだぞ」
「あはは、リアム、私はスター商会の会頭だよ。遠慮なんて必要ないよ」
「いや、そうじゃなくてだな……とにかくお前は大人しく……」
「よーし、そうだね、学校で代々的に宣伝しようかな。うん、ノアにも手伝って貰って花火を上げても良いし……」
「いや、待て待て、学校で大掛かりな宣伝はやばいだろう……」
「そう? じゃあ商業ギルドと、闇ギルドと、それに王城で宣伝させて貰おうかなー。ウフフ、マルコに相談しても良いかも!」
「いやいや、待て待て待て」
この後暫くリアムと私の話し合いは続いた。
第二店舗が出来るってあんなにウキウキしていたリアムだったのに、話し合いが終わると何故かぐったりしていた。リアムは最後に「頼むから暴れないでくれ……」と意味不明な言葉を残し、スター商会の会頭と副会頭の第二店舗開店へ向けての話し合いは、無事に終わったのだった。
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