第485話 魔法試験②
「何事ですかっ?!」
魔法試験の試験官である腰を抜かしてしまった先生に私が声を掛け様と近づいた所で、受付をしていた女の先生二人が部屋に飛び込んで来た。
私が魔法で壊してしまった壁が崩れる音は、かなり大きかったらしく、試験中だと思うのに野次馬の生徒達や、別室の試験部屋の先生たちまでも覗きに来ていた。
そして部屋の有り様を見ると、皆口を開け動かなくなってしまった。
勿論最初に駆け込んで来た女の先生たち二人もだ。
その顔には一体何が合ったの?! と驚きが現れていた。ただ試験を受けただけなんだけどねー。
私が使っていた試験部屋は最初に火属性の魔法を使った為、結界が張ってあるはずの壁は焼け焦げ、真っ黒になっていた。
そして魔法を打ち込んだ的は消えてなくなり、その後ろの壁には大きな穴が開き、少し時間が経った今も壁の欠片が落ちているのか、パラパラと音を立てていて、それにまだ熱も持っているのか、ジュワーと言う音とともに煙も出ていた。
そしてそして申し訳ない事に、その先の学校の塀にも私の魔法はぶつかった為、こちらも結界が張ってあるはずはのに、ピシピシと音がたち、亀裂が入っている様だった。
皆が驚くのは当然なのだけど……ここで一番驚いているのは私だと思う。だって思いっきりやって良いって先生言ってたし、アダルヘルムも結界魔道具を校長先生に渡していたし、どう考えても普通に魔法使って大丈夫だと思うよね?
それに私は最初の魔法の試験だった為、加減をして100パーセントの力は出して居なかった。多少は温存しておかなければと大人的配慮だ。もしその配慮をしていなければ、きっと学校の塀までも壊していた事だろう。
「どいて、退いて、退きなさい!」
人垣の中でそんな声がすると、狸顔の校長先生と、狐顔の教頭先生が、試験部屋へと何とかもがき人垣をよけてやって来た。
そして私がこの部屋に居るのを見ると「えっ?!」と言って目が点になった。
その顔には何でこの部屋に居るんですか?! と書いてある。いやいや、ここに案内してくれたのはこの学校の先生ですからね!
「なっ、姫、あ、いや、へっ? なんで?」
多分校長先生はそんな声を出した後、ガヤガヤと騒がしく集まって来た人達を、騒ぎを聞きつけ飛んで集まって来た教師陣を使い、人払いを始めた。その中にはモルドン先生も勿論いて、困った顔になっていた。その表情には自分が受付後も私を案内すれば良かったとそんな気持ちが現れていた。
いやいや、普通に受付して、普通に試験を受けただけですからね、私迷惑掛けていませんよ。ワザとじゃないですよ。
そして何とか人が居なくなり、校長先生がこの部屋に残した人は、教頭先生、試験官の先生、受付の先生一人、そしてモルドン先生だけだった。そして私を試験現場に一人ポツンと残し、職員会議が始まった。
「先生、受付にディープウッズのお子様がいらしたら、別室の試験会場へ案内して下さいとお伝えしましたよね?」
「ええ、勿論分かっておりました。けれど午後はまだディープウッズのお子様はいらしておりませんでした。ですから私には何が何だか……」
「ですがあの方はディープウッズの姫様ですよ」
「私が見た受験票の名前は違いました。ですから一般生徒だと思ったのです」
「名前がちがう? 教頭先生、それはどう言う事ですか?」
「いえ、そんな筈は有りません! ディープウッズ家に受験票を送る際、私は何度も何度も確認致しましたから!」
あーだこーだと言い合う三人の先生の横で、モルドン先生と試験官の先生は違う話をヒソヒソと話し込んでいた。
「何の魔法でこんな事に?」
「いやー、最初の一発目だよ。姫さまは全属性らしくって、火属性からお願いしたんだけどねー、まさかこんな事になるとは……いやいや良い記念になった」
「ああ、羨ましい、私も姫さまの魔法を直に見たかった。きっと素晴らしいものだった事でしょう!」
「ああ、素晴らしかったよ。ドラゴンが火を吐いたかと思う以上の魔法だった!」
「ああ! なんて素晴らしい! 続きの試験は是非私も参加させて頂きましょう!」
ピーチクパーチク喋ってはウヒウヒと笑って居る二人の先生と、校長先生達の表情は正反対だ。楽しそうなのは良いけれど、学校をこのままにしていていいのかと不安になる。
(試験中にこんなに沢山の先生が集まってて大丈夫なのかな? それに壁……早く直さないと……)
学校の塀の修理まで考えると、セオをここに呼んだ方が良いかなと言う気がして来た。私一人で直しても良いけど、多分この後試験はやり直しになると考えると、私にそんな時間はないだろう。
先生達がまだ話し合っている横で私はセオに連絡を入れる事にした。
(先生の前で流石に転移はダメだよねー、じゃあ紙飛行機型の手紙? ううん、時間も無いし通信魔道具で良いかなー)
王都の屋敷で待機しているだろうセオだけに連絡を入れるため、私は魔法鞄からペンダント型の通信魔道具を取り出した。そして魔力を流し、セオに連絡を入れる。
話しに盛り上がっている先生達は、私の独り言など聞こえてもいないようだった。
『ララ! どうした? 何かあったの?!』
「ううん、何でもないんだけど……ただちょっと学校を壊しちゃっただけで……それでね、出来れば早く直したいんだけど……私はまだ試験が残ってて……」
『学校を壊したって?! えっ? 魔道具は?』
「それが手違いで、私、普通の試験場に通されちゃったみたいなの」
『……はー、分かった。直ぐにそっちに向かうよ』
「セオ、有難う。この事はくれぐれもアダ……はうっ」
そこまで言いかけた所で、セオ、クルト、マトヴィル……そしてアダルヘルムがやって来た。
アダルヘルムは素晴らしい笑顔を浮かべている。四人が来たことに気が付いたモルドン先生と、試験官の先生、それに受付の先生は赤い顔で「うあ」と言い。校長先生と教頭先生は青い顔で「ひぃっ」と言った。私は丁度先生たちの中間と言った所だろうか……だって私は悪くないもんねー! 多分……
アダルヘルムは笑顔のまま校長先生と教頭先生に近づいていく。マトヴィル、セオ、クルトはそんな事は気にもせず、私が壊してしまった壁と塀と魔道具の様子を見に行った。本当は私もそちらの様子を見に行きたかったのだけど、試験の続きがあるのでグッと堪える。
頑張って、頑張って、わーたしー、と自分を応援しながらアダルヘルムに近付いていく。真っ青な校長先生と教頭先生には本気で同情した。だって気持ちは良くわかるもの。
「校長……これはどう言う事でしょうか……確か結界魔道具をお渡しした筈ですが? 私がお渡しした魔道具は使う価値も無かったと……?」
校長先生はまん丸い狸顔が細く見える程ブンブンと首を横に振っている。狐顔の教頭先生は益々細く見えている。二人とも顔が青いので、なんだか頭の中でとある曲が流れ笑いそうになってしまった。いけない、いけない、試験中だちゃんとしなければ。
「あ、あの、アダルヘルム様、これは手違いでして……その、姫さまは本来別室で試験を行う筈だったのですが……何故かここに回されてしまいまして……」
「ほう……手違いですか……?」
「は、はい、決してこのように姫様を目立たせたかった訳では無いのです! ディープウッズのお子様が居る事を世間に広めたかった訳では決して! 決して!」
校長先生、なんだかそれって言い訳に聞こえて逆効果な気がするから、もうやめた方が良いかも知れない。だってアダルヘルムの魔力が感電寸前並みにピリピリしてるよ。
校長先生それ以上アダルヘルムに近づくとアフロになるよ。危険、危険! もう口開かないで!
「あ、あの!」
受付の女性の先生がアダルヘルムを見つめながら手を上げた。勇敢だ、何か意見がある様だ。
「あの、私が受付をしたのですが……その、姫様の受験票の文字が読めな……ゴホンッ間違っていた様でして……」
「間違っていた?」
ここでアダルヘルムは疑問が湧いた。だって私の受験表も、ノアの受験表も、アダルヘルムは試験前に確認しているからね。
アダルヘルムがチラリと私を見たので、私は鞄から受験表を取り出した。ボロボロになった受験表を見て、アダルヘルムが目頭を指で押さえた。どうやら頭が痛い様だ。アダルヘルム、私も同じ気持ちですよー。
「……ララ様……何故このような状態に?」
「……えーと……これは……」
頭を抱えるアダルヘルムに本当の事を話して良い物か悩んでしまう。何故なら、モルドン先生の命の危険があるかもしれないからだ。いやいやアダルヘルムがまさか敵でも、騎士でもない素人のモルドン先生を攻撃する事などあり得ないが、アダルヘルムは笑顔で人を怯えさせることが出来る人だ。本人が意図しなくてもモルドン先生の寿命を縮める可能性は十分にある。そう考えると本当の事を言いだし辛かった。
「ああ、アダルヘルム様、申し訳ありません。ララ様の受験票は私がちょーっとばかし力を入れて握ってしまいまして……」
頭を搔き掻き、まったく悪びれることなくモルドン先生はアダルヘルムに告白をした。モルドン先生勇気あるね! と思うとともに、ちょっと握っただけ……じゃないけどねー、と突っ込みたくなった。
「はー……つまりモルドン先生は、ララ様の受験票がこの様な状態になっている事を前もってご存じだったのですね」
「はい、勿論です。私がやったことですので」
「それなのにこのままにしていたと?」
「はい、番号が読めれば大丈夫だと思いましたので」
大好きなアダルヘルムからの質問に、モルドン先生はハキハキウキウキと答えていく。その後ろで校長先生と教頭先生が真っ青になっている事をモルドン先生はまったく気が付いていない。
けれどそもそもこの受験体制に問題がある。
この魔法試験も受験番号など自己申告だ。下手したら簡単に不正できてしまう可能性がある。そういったところの改善も、スター商会に任せてもらえたら……スター商会の会頭としてこの商機を逃す気はなかった。
「あの、アダルヘルム、宜しいですか?」
ユルデンブルク魔法学校の教師たちに向けるアダルヘルムの視線が、キンキンに冷たくなったところで、私は声を掛ける。先生達が心臓発作を起こす前で良かった。特に校長先生はアダルヘルムが一歩ずつ近づくたびに、息が出来なくなって居る様だった。マトヴィルが壁の修復作業に入っていなければ……先生達がこんなに苦しむ必要はなかったのにね。私の力不足でアダルヘルムをすぐに止められなくってすみません。私も怖いんですよー。
アダルヘルムを止めた私は、これ迄の受験に関して不安に思った箇所を校長先生にお話した。
魔法学校の受験票だというのに、この受験票には何の魔法も使われていない、それに本人を確かめるものも何も無く、全て自己申告だ。これでは不正が簡単に出来てしまうし、それに先生たちや、受験生だって受験番号を書き間違える可能性がある。その改善をスター商会の教育部門で受け持たせて貰えたら……そう話すと校長先生は大喜びだった。
「はー……ではリアム様には後でお話しましょう……ララ様はまだ魔法の試験が残っているのですよね?」
「あっ! そうでした! 忘れてました!」
アダルヘルムの言葉を聞き、自分が受験生だったことを思いだした。
私はこの部屋から逃げ出したかったであろう校長先生と教頭先生の案内で、特別受験室へと向かう事になった。
モルドン先生は勿論アダルヘルムとマトヴィルのいる部屋に残りました。
まあそこは当然だよねー。
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