第468話 王都 おもちゃ屋さん開店です。

 王都のおもちゃ屋さん開店日がやって来た。

 前日までに準備は滞りなく終わっていて、後は開店を待つばかりとなって居る。


 そんな中商業ギルドのギルド長であるルイスは、前日の夜からスター商会に泊り込みで来ていた。

 昨日の夜は開店前夜祭飲み会だと言って、何やら寮で騒ごうとしていたけれど、勿論リアムからのストップが入り、おもちゃ屋さんの店長で友人でもあるガレオからの冷たい視線も浴びていた。


 待ちに待ったおもちゃ屋さん開店と有って、王都店は混み合う事は確実で、特に護衛達は朝早くからやる事が沢山ある。そんな中で飲み会など開けば、開店日に支障が出ることは間違いない。リアムの判断は副会頭として当然の事だけど、ルイスはショックを受けていた。何故なら……


「俺、おもちゃ屋さん開店に間に合うように商品登録頑張ったんだぜー、なんでご褒美が無いんだよー」


 との事である。


 おもちゃ屋さん開店の為にルイスは一生懸命頑張ってくれた。

 おもちゃだけでなく駄菓子の登録も有ったのでさぞかし大変だったと思う。なので仕事が終わったご褒美に飲みたくなるのは当然だった。


 だけど暫くはおもちゃ屋さんは混み合うのは確実だ。その間スター商会の従業員達は飲み会をするとは思えない。もし飲み会を開催するとしたら定休日前日になることは間違いなかった。これ迄の事を思えばそれは確実だ。


「ルイス……じゃあ、今日は私の家に……ディープウッズ家に泊まりに来る?」

「えっ……? ララ様……良いのかー?」

「うん。ジュンシーさんも今日はウチに来る予定だし、ベアリン達が居れば飲み会の相手には困らないでしょう? それに大豚ちゃんをお世話してくれてるモンキー・ブランディの皆もいるしね」

「行くー! ララ様ー、行かせてくれっ!」


 ただしアダルヘルムがいるけどね。


 という言葉は飲み込み、ディープウッズ家に誘うとルイスは喜んで来てくれることになった。これでジュンシーの相手もルイスがしてくれることは間違いないだろう。きっと闇ギルド長と商業ギルド長とで話が弾むのは確実だ。ジュンシーをお任せできる相手が見つかってホッとした私だった。





 と、そんな事が朝からあったけれど、その後は無事に作業は進み。開店時間前になるとプリンス伯爵親子と、闇ギルドのギルド長であるジュンシーがやって来た。


 いや随分前に店には到着していたのだげ、リアムの応接室でランスが相手をしてくれて話が盛り上がっていたようだ。


 そして久しぶりに会うメルキオッレは男の子らしくなり背がぐーんと伸びていた。

 この時期の男の子は数ヶ月会わないととんでもなく成長しているように思える。メルキオッレもやっぱり同じで、前はプリンス伯爵夫人似の可愛い男の子だったのだけど、この数ヶ月会わない間に仕草とか、声とか、プリンス伯爵に随分と似てきた気がした。きっとあと数年たてばもっと似てくるだろう。少しだけ複雑な気持ちになった事は一生黙って居よう。プリンス伯爵が落ち込むかもしれないしね。


「ララ、久し振りだな、会いたかったぞ」

「メルキオッレ、久し振りね。随分背が伸びたのね。とってもカッコ良くなったよ」

「ふむ……そうか……なら嬉しいな。ララとは家族になりたいと思っているからな、少しでも立派になれれば私は嬉しい」


 メルキオッレは見た目は男の子らしくなったとはいえ、まだまだ甘えん坊なところがある様で、年下の私を姉の様に慕ってくれて居る部分がまだある様だ。とても嬉しい。


 メルキオッレはそんな感動して居る私に手を差し出すとエスコートをしてくれた。そして店内を案内しながら見て回ると、そろそろ開店の時間となった。


 つまりリアムからあの言葉がかかった。


「ララ、そろそろ部屋へ戻っておけよー」


 でもここは王都。リアムの言葉に従うしかないのは流石に私も分かっている。


 店長であるガレオとケレンゾウに「宜しくね」と声を掛け、私はセオとクルトと共に自分の執務室へ戻ることにした。


 でも、開店の瞬間だけは見逃したくはないのでまた窓からのぞき見をする。ガレオの透き通るような男性にしては可愛らしい声と共に「開店」の声が聞こえてきた。


 今日は癒し爆弾を打ち上げることは出来ないけれど、心の中でお客様に感謝をしておく。並んで迄足を運んでくれているのだ、有難いと思う。王都のおもちゃ屋さんもきっと人気になることは間違いないだろう。会頭としては喜ばしい事だった。



 

 私の部屋の窓にもおもちゃ屋さんが混み合っているザワザワとした声は届いてきた。

 子供たちが楽しそうにはしゃぐ声や、大人たちの珍しがっている驚いている声、お客様皆が喜んでいる事はその声を聞いていれば良く分かった。それにポップコーンの香りや甘い子熊の人形焼きの香りも流れてきて、何度も作っている事がそれで分かった。きっと作っても作っても売れてしまうのだろう。


 手伝いに行きたいなーとウズウズしていると、リアムがジュンシーやルイスを連れて私の部屋へとやって来た。心なしかリアムはぐったりとしているように見えた。その反対にルイスはホクホク顔で、ジュンシーも嬉しそうな顔をしている。それぞれ思う事があったようだ。


疲れ切ったリアムを休ませるため応接室へと移動し、クルトがお茶と食事を皆に準備してくれた。リアムの為に食事と一緒にデザートまでテーブルに並べてくれた。


 リアムは勿論最初に食事ではなくデザートのプリンに手を出していた。甘いものを食べたくって仕方が無かったのだろう。一瞬で食べ終わると二個目のプリンに手を伸ばしていた。今日ばかりはガレスも注意はしない。それだけリアムが頑張ってくれているという事だろう。


「ララ様、おもちゃ屋さんは素晴らしい人気ぶりですね。これならすぐにレチェンテ国だけでなく他国でも噂になることは間違いないと思いますよ」

「ジュンシーさん、有難うございます。闇ギルド長のジュンシーさんにそう言って頂けると心強いです」

「らふぁふぁはひょー」


 ルイスがカツサンドを口に入れながら何かを話しだしたが、何を言って居るのか全く分からない。本人もそう思ったのだろう、口の中の物をお茶で勢い良く流し込んでいた。隣に座るナシオの視線が怖かったけれど、向けられているルイスは慣れっこなのか気にしていないようだった。ごっくんと大きな音を立てると、話を始めた。


「ララ様よー、今日これだけ店が混んだのはー商業ギルドの宣伝効果もあるんだぜー」

「えっ、ルイス、もしかして色んな人に話してくれたの?」

「ああ、勿論俺もなんかしら人と会うたんびに話したけどよー。受付の若い奴ー、分かるかー?」

「うん、いつも挨拶してくれる男の子だよね」

「ハハハッ、ララ様に男の子なんて言われる年じゃないんだけどよー、アイツ受付に人が来るたんびにおもちゃ屋さんの話振ってたんだよ。だからアイツの……あー、フレディって名前だけどさー、そんなフレディの地道な頑張りがあったんだー、だから今度来たときでも何かアイツにお礼を一言でも言ってくれるとさー、アイツも喜ぶと思うんだー」

「分かった。フレディさんにはお礼伝えるし、また何か差し入れ持って行くね。それとルイスも有難う」

「ひぃひぃっふぇほほひょ」


 ルイスは照れ隠しなのか、今度はサラダサンドにかぶりついていた。ルイスが教えてくれなければフレディさんの気遣いには気が付けなかっただろう。


 普段から差し入れを持って行っていたと言う事もあるけれど、やっぱりここはフレディさんの人柄と、スター商会の信用あっての事だと思う。凄く嬉しい気持ちになれた。


「ララ様、では私も恋人候補としての働きを褒めて頂きましょうか」

「ジュンシーさんまで何かして下さったのですか?」

「勿論でございます。新店が出来ますと必ずと言って良いほど裏ギルドからの嫌がらせが入りますからねー、闇ギルド長としてあの者たちには目を光らせておきました。フフフ……今の彼らに何か手出しする余裕など無いでしょうね……」

「……そ、それは……その、有難うございます……」


 クスクスと楽しそうに笑うジュンシーが、裏ギルドに何をしたかは聞かなかった。


 元々裏ギルドと闇ギルドは仲が良く無い様で、ジュンシーは昔襲われたこともある様だ。きっとここぞとばかりに仕返しをしたのだろう。

 一番稼ぎがあったブルージェ領の裏ギルドが潰れてしまった今、裏ギルドの勢力も落ちている様だし、ジュンシーにはテゾーロとビジューがいるので、どんな攻撃を受けても無敵の百人力だろう。ジュンシーが何をしたのか想像しただけで何故か身震いがしたが、借りを作らないためにも早めにお礼をしておきたいものだ。


「ジュンシーさん、何かお礼に欲しい物は有りませんか?」

「いえいえ、ララ様、私は別にお礼が欲しくて何かした訳ではございません、ただ恋人候補としてララ様の笑顔を守りたかっただけなのです」


 フフフ……とまた笑うジュンシーを見てまたまたゾクリとした。

 キザっぽい事を只言って居るだけなのに、何故かジュンシーが言うと恐怖を感じる。いつか知らぬ間に結婚して居そうで怖い。まあアダルヘルムとマトヴィルがいる以上そんな事はしないとは思うけどね。


「じゃ、じゃあ、テゾーロとビジューに洋服を作らせてください」

「えっ?!」

「それも武器リボンを使った防御力たっぷりな物を」

「本当ですかっ! ララ様自らお作り下さるのですか?」

「ええ勿論です。可愛いテゾーロとビジューの為ですからね」

「有難うございます!!」


 これでジュンシーへの恩は無事に返せるだろう。


 ジュンシーはお礼の品の件を聞いて感動し過ぎてしまったのか、手を組み涙目で天井を見つめていた。

 ルイスは変態闇ギルド長のジュンシーにはなれたものなのか、そんな事はおかまいなしに食事を摂っている。リアムは五つ目のプリンに手を出したところで、やっと元気を取り戻したようだった。

 癒しを掛けるよりもポーションを飲むよりもリアムには甘いものが良い様だ。

 ホッとしたような表情になったリアムは話し出した。


「プリンス伯爵親子……あれは中身がそっくりだなー……」

「何か有ったの?」


 五つ目のプリンを一口ごくりと飲み込むと、リアムは渋い顔で話し始めた。


 どうやら入口で挨拶のお手伝いをし終えた後、店がとても込んでいたため、プリンス伯爵親子は店を手伝うと言いだしたそうだ。


 けれどそこは貴族の、それも伯爵家の当主とその息子だ。気軽にお願いしますとは行かなかった。けれど興味のあるレジに入ったり、出来ないなりに品物を並べたりと頑張ってくれたようで、止めろとも言いだせず、リアムが付きっ切りで二人を指導していたようだ。そのおかげでかなり疲れたみたいだった。


「プリンス伯爵に近づこうとする奴もいるしよー、メルキオッレには女の子達が近寄って来ようとするしよー、それに庶民の客は貴族が居ると、それだけで緊張するだろう? 悪いがお疲れ様と言って帰って貰ったぜ。まあ玩具は大量に購入していったから文句は無いと思うがなー……」


 リアムは「本当によー、大変だったんだぜ……」といいながらガクリとまた肩を落としていた。

 やっぱり私がお手伝いに行った方が良かったのでは? と思った事は内緒にしておこう、リアムお疲れ様です。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る