第467話 スライムの報告
クルトがセリカとアダルヘルムを呼びに行ってくれたので、その間にスライムにはスライム液を沢山上げることにした。
スライムはこれ迄水しか飲んでいなかったのか、ご飯だと分かると喜び、ぴょんぴょんと飛び跳ねながらスライム液を浴びるように飲んで? 食べていた。
お腹が空いていたのだろう、表情は分からないけれどとても美味しそうだ。
あれだけ小さな体になっていたのに大量にスライム液を摂取したからか、セリカのスライムはあっと言う間に元通りの大きさにまで戻った。勿論ビックほどには大きくはならなかったけどね。
そんな事をして居ると、アダルヘルムを先頭にセリカとクルトが部屋へとやって来た。
私はその時ある物を見逃さなかった。それはクルトとセリカが手を繋いでいたところだ。
勿論ここ迄来る間に動揺していたセリカを心配したクルトが、エスコート代わりに手を繋いでいたのかもしれないが、クルトは私と視線が合った瞬間、目をそらし赤い顔になっていた。
これは下心有りの確信犯だと思った。クルトはここぞとばかりにセリカの手を取ったのだろう。このムッツリめ。
残念ながらセリカの方は特に意味を感じていなかったのか、クルトと手を繋いでいたことも忘れスライムを見た瞬間声を出していた。
「スライム!」
「クッククゥー」
二人は熱い? 抱擁? を交わしている。
いや、セリカの手のひらにスライムがただ乗っているだけなのだけど、皆二人の様子に薄っすらと涙を浮かべていた。ずっと会えず、その上もう二度と会えないと思って居たのだ。二人の感動はこの部屋中に広がっていた。
そして二人が落ち着いたところで大切な話がある為、私の執務室へと移動することにした。
そこで結界を張り、スライムからセリカと別れてからの話を聞くことにした。
アダルヘルムが呼び出してくれていたのだろう私の部屋にはマトヴィルとルタも来ていた。
皆が席に着きクルトがお茶を入れてくれた。
スライムには勿論お水だ。スライムはお水も美味しそうに飲んでいた。
そしてコップ一杯のお水を飲みほすと真剣な顔をして? (私にはそう見えた……)話を始めた。
「クック、クッククーック、クククック、クゥー」
「ふむ……なる程、それで?」
「ククゥ―、クック、クークククゥー」
「ふむ……そうか……その後は?」
「クックックークゥー、クッククー、クゥークックー」
「そうか、よく頑張った。流石セリカが育てたスライムだ。良く主を守り生きて帰って来た。君は特別なスライムだ。これからもセリカを守ってくれ」
「クックゥ―!」
……はい。
私が今聞いたスライム語の中で理解できたのは、多分最後の「クックゥ―!」だけだと思う。
あれは任せてとか、畏まりましたって返事だよね? セリカも自分のスライムだから言葉が分かったのか、アダルヘルムと同じ反応でうんうんと頷いている。
スライムはアダルヘルムに認められたからか、胸を張ってどや顔を浮かべているように見えた。(私にはね……)勿論本当の表情は分からないけれど、セオはそんなスライムを幻の大型魔獣でも見つけたかのようにキラキラした目で見て喜んでいた。ほれ込んだらしい……
ああ……だれか私にスライム語を通訳してくださいませ……
話し終えたスライムは安心したかのようにセリカの手の中で眠りについた。
その様子を確認し、アダルヘルムが皆を見ながらスライムから聞いた話を始めてくれた。
スライムはあの日、セリカがコナーに襲われた日。主であるセリカを逃がす為にコナーの顔目掛けて飛び掛かった。そしてセリカとドワーフ人形のウインが転移で逃げた後、スライムはコナーに掴まり、知らない場所へと連れて行かれたらしい。
「スライムの話では洞窟のような場所へと連れて行かれた様です」
「洞窟?」
私が連れて行かれた洞窟はセオの転移では多分アグアニエベ国だったのではないかと思われている。元気になったセオがアダルヘルムとマトヴィルと共に再度転移をしようとしたが、もうそこに転移することは出来なかったらしい。
洞窟自体が壊されてしまったのか、それとも魔法で転移出来ないように何か処置をしたのかは分からないが、そう考えると私が連れて行かれた洞窟とスライムが連れて行かれた洞窟は違うようだった。
そしてそこにはコナーの他に、私の描いた似顔絵にない人物が三人と、セリカとスライムが見張っていたガリーナ・テネブラエと、そして後から知らない二人の男性が来たようだ。その一人は似顔絵にはない人物で、もう一人はウイルバート・チュトラリーだったらしい。
「ウイルバート・チュトラリーは怒り狂っていたようですよ……それもそうでしょう。情報を持った敵を逃がし、その敵がどこの者かも分からない。そして手に入れたたった一つの情報がこのスライム。その上このスライムも体が小さくなった事で逃げだすことが出来た。これでウイルバート・チュトラリーの怒りは益々募る事でしょう……フフッ、いい気味ですねー……」
スライムはその洞窟から逃げた後、魔獣の背に乗ったり、馬車の中に紛れ込んだりと、一人で大冒険をした様だ。
そしてやっと見覚えのあるレチェンテ国の王都に着いた。方向感覚があるのか、それとも主であるセリカの居場所だけは分かるのか、セリカに会う為頑張ったようだ。
ディープウッズの森でなく王都に来たのはセリカがまだ王都に居ると思ったからかもしれない。頑張ったスライムは暫くはゆっくり休ませて上げたいものだ。絶対にマルコにだけは会わせてはならないだろう。良い実験対象にされそうだものね。そこは気を付けて居て上げよう。
「……リアム様、ご実家にコナーがまだ居るのか調べる事は出来ますでしょうか?」
「ええ、どの道ルドの婚約の話を持っていかねばなりませんから、ルドとまたウエルス商会へ行く予定でした。それを少し早めて見てきましょうか?」
「……ロイド殿をどこか別の場所へ呼び出す事はできませんか? 別にスター商会へ来ていただかなくても構いません。ウエルス商会へ行くのはガリーナ・テネブラエが敵の仲間とハッキリ分かった今、得策ではございませんので……」
アダルヘルムの言葉に頷く。
あの甘い花の香の件があった事で、リアム達も狙われている事が分かる。
もしかしたらアレは毒ではなく意識をガリーナ・テネブラエに持っていかせるためのものだったかもしれないとアダルヘルムが言って居た。
ロイドの姿を聞けばそれは納得で、あれだけ横柄で我儘だったロイドの姿は今は見えないそうだ。それもガリーナ・テネブラエと出会ってからロイドはそれこそ別人のように変わってしまった。
これ迄の行いが悪すぎるロイドだったから良い方向に変わったように感じられるけれど、これがリアムやティボールドだったら?
二人がガリーナ・テネブラエの、そしてウイルバート・チュトラリーの思い通りに操られる事になったら? そう思うとゾッとする。
出来るだけウエルス商会やウエルス邸には近づかない方が良いというアダルヘルムの意見には納得だった。ただその場合ロイド一人だけで指定の場所へ出て来てくれるかが問題だった。
「まあ、そこは上手く誘導するしか無いか……男だけとか兄弟だけで話がしたいとか言ってなっ」
リアムは何でもないようにそんな事を言った。
コナーがまだそばに居れば危険であることは確かだし、ガリーナが傍に居てもそうだろう。あちらの情報を掴むのは大切だけど、リアムやティボールドの安全が第一だ。
そこは防衛をきちんと取ってロイドと会う事を約束してくれた。私もついて行きたいがきっとそれはまた許可が下りないだろう。セオもそれからルタやセリカも連れて行くわけには行かない。
アダルヘルムとマトヴィルは違う意味で目立つだろうし、そう考えるとまたメルキオールに頼る形になると思う。皆の安全の為に自分が出来ることをしようと思った私だった。
それからスライムは暫くセリカにべったりと甘えて過ごした。
盟友のウインとも顔を会わせ、お互いに健闘を称え合っていた。二人が無事に戻ったことでセリカも肩の荷が下りたのか益々良い笑顔を振りまくようになっていた。これはクルトの心が心配だ。ムッツリさんは妄想癖がありそうだしね。そう思った事は秘密にしよう。
セオとのいつもの夜の読書タイムで、そんなスライムたちの話をする事になった。
スライム語がどうやったら身に付くか、という事をセオの相談したかったからだ。
「セオはスライムの言葉は分かるの?」
「うん……何となく? 曖昧だけど言いたい事は伝わってくるかなー」
「そうなんだ……凄いね……」
「うーん……一緒に居る時間が長いからかな? ディープウッズ家のスライムの方が言葉? うーん……考えている事が分かるかな……研究所の子達はもっと単純な感じかなぁ……」
「単純?」
「そう、はい、いいえ、みたいな感じ? あまり難しい事は考えてないみたい……特にビックはねー……」
「ああ……うん……分かる気がする……」
マルコのスライムのビックは食べる事しか考えて居なさそうだし、それが関わることにしか返事をしなさそうだ。それと違ってアダルヘルムのスライムは、アダルヘルムから教えられたことを常に意識して考えて居る様な気がする。
まあこればかりはスライムに聞いてみなければ分からないけれど、学校を無事に卒業して時間が出来たら私もスライムの研究をしても良いかなとちょっとだけ思った。だってセリカとスライムの親子のような愛情には感動したからね。私も沢山スライムを可愛がって見たいなと二人の姿を見てそう思った。
「明日は開店だし、そろそろ寝ようか?」
いつものようにセオと一緒のベットに入る。
学校卒業してすぐの時はなにやら恥ずかしそうだったセオも、すっかり以前の様になれた様子になっていた。年ごろの男の子がいつまでも妹の私と眠るのは、きっと余り良いことではないのだろう。それは分かっていてもウイルバート・チュトラリーの夢を見てからはセオが一緒に居ないと不安だった。
まるでウイルバート・チュトラリーの心の中へ引きづられて行くような感覚が、怖くて仕方がなかった。でもセオがそばに居ればその恐怖が半減する。セオは絶対に私を助けてくれるとそう思えるから。
「灯りを消すよ」
セオが私の額にお休みの口づけを落す。
私も同じ様にセオの額に口づけをする。これも習慣になって居る物で、もう当たり前の行動の一つだ。
「セオ、今日はぎゅっと抱き着いていても良い?」
「えっ……? ど、どうしたの?」
「うん……何となく……」
セオが答える前にセオの懐へ入っていく、セオの鼓動がいつもより少し早い気がしたけれど、それが心地良い響きで直ぐに眠りについた。セオの傍に居ると安心できる。
だって大好きだから。
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