第447話 ごめんねとありがとう。
「リアム、昨日は大人げない行動をとってごめんね、リアムの気持ちは分かっているし、もう怒って無いから許してくれる?」
「ララ……」
喧嘩をした次の日リアムと顔を合わせると、リアムは泣きそうな顔になって私を抱きしめてきた。
セオからの連絡で、私がディープウッズ家の屋根の上にいる事は、アダルヘルムから皆に伝えて貰ってあったのだが、それでも喧嘩のもととなったリアムにはとても心配を掛けてしまった様だ。
これ迄の私はハッキリ言って蘭子の記憶が強いため、子供らしい癇癪など起こした記憶が殆どない、だからこそ泣きながら叫んで、勝手に一人で飛び出した私に皆唖然としてしまったのだろう。
子供らしいララの行動は私にとってはとても良い傾向だとは思うけれど、こうやって我に返って見ると、とても恥ずかしい。本当に大人げなかったと反省している。
昨夜はクルトにも心配かけたことを謝った。
クルトは私がまだ幼い事を忘れていたと言って父親の様に抱きしめて謝ってくれたが、心配を掛けてしまった私が悪いので私は何度も謝った。最後は笑い話になったけれど、心臓に悪いので一人で転移でいなくなるのだけは二度と止めて欲しいと言われた。本当に申し訳ない気持ちで一杯だ。
「リアム、大っ嫌いって言ってごめんね。本当は大好きだからね。許してね」
「ああ、うん……俺も、その……ララが好きだ……あのさ……本当にごめんな……」
お互いに謝った後は、私は子供だけれど、隠さずどんな事が有ったのか知りたかったとリアムに伝えた。リアムもこれ以上私を危険な目に合わせたくは無かったから、アダルヘルムに確認を取ってから話をしたかったのだと心の内を話してくれた。
「リアム心配してくれて有難う。でもやっぱり秘密にされると、一人ぼっちにされたような気がして寂しくなっちゃうの、だからこれからは何か有ったら教えて欲しいの」
「ああ、そうだよな、ララの方が俺よりよっぽど大人なのに子供扱いして済まなかったな……」
ニッコリとリアムに笑顔を向ければ、リアムはやっとホッとした表情になった。
昨日の駄菓子試食会は、私の怒りを買って居たので味が全くしなかったらしく、魔法袋に残して置いた物を今日改めてリアムは試食する様だ。お菓子大好きなリアムがそこまで胸が、いや胃かな? を痛めて居たのだと思うと、やっぱりちょっと大人げなかったと反省だ。これからは気を付けよう。
「では私から報告もさせて頂きます」
今日は私の様子を心配したアダルヘルムも一緒にスター商会について来てくれて、ミサンガを調べた結果を私たちに報告してくれる。アダルヘルムは普段以上に真面目な顔で皆に語りかけた。ミサンガが壊れた原因は毒か何かの攻撃を受けたからという事だった。
「部屋に漂う甘い香り……それに甘い香りのお茶……ララ様が領主邸で襲われた時も同じ様なものが出ておりました。これがミサンガが壊れた原因だと思います」
リアムとティボールドにはお茶が出されたが、殆ど口にせず、屋敷を出てすぐにメルキオールの判断で、ポーションを飲んだことも良かったとアダルヘルムは言って居た。
もしお茶を飲み切って居たり、ミサンガを付けて居なかったら、どうなっていたかは分からないとアダルヘルムは言った。リアム達を殺すつもりはなかったかも知れないが、ロイドの様に別人のような状態になっていた可能性はある様だ。
「その茶葉か……もしくは香水かが手にはいればもう少し調べることが出来そうですが……」
毒物や薬物に強い人間がウイルバート・チュトラリーの味方にいるのではないかとアダルヘルムは言った。一番怪しいのは占い師と言われているリードだ。
何故なら占いの館でもこの甘い香りで客を誘導していたとなれば、占いが当たり、人気になるのも頷ける。
同じ様な薬でも分量や混ぜる薬草などで使い方を変えているのではないかと、アダルヘルムは疑って居る様だった。
ただし推測の域は超えて居ない様だったけれど、でもアダルヘルムの考えだ、かなり可能性は髙いだろう。
「ウエルス商会とテネブエラ家はセリカが見張っておりますので、このまま様子を見守りましょう。もしもロイド殿の命に危険が迫った場合は、助けに向かう方針で宜しいですか?」
この言葉にリアムとティボールドは顔を見合わせた。そこは考えて居なかった様だ。
けれどウイルバート・チュトラリーの味方であったブライアン達が簡単に消されてしまった事を考えると、その可能性はとても高い気がした。
もしウエルス商会を手に入れることが彼らの目的だったとしたら……結婚をした途端ロイドは要らなくなるかもしれない。
そうは思いたくは無いが……
「兄上の事は……身内として勿論大事だよ……でも僕は今の僕の大切な仲間が傷ついて迄、兄上を助ける気にはなれない……いくら兄上が変わったからといっても、今までの行いが悪すぎる。僕は仲間の方が大切だ」
「俺も同じだ……わざわざ危険を冒してまで兄貴を助ける気は無い……兄貴は罪を犯し過ぎている……悪いが守る気にはなれない」
リアムとティボールドの意見は本心だろう、だけどもしロイドを助けなければ、優しい二人の心に傷が残ることは確実だ。もしもの時は二人が止めてもロイドを助けに入ろうと思った。
それは友人であるリアムとティボールドの為にだ。
「ララ様失礼いたします」
「タッド、いらっしゃい、お待ちしてました。さあ、席へどうぞ」
護衛のトミーと従業員のミリーの息子であるタッドから、話があると声を掛けられ、学校が休みの祭日に王都店の私の執務室へとタッドはやって来た。
タッドは学校でも優秀で、常に成績もトップだし、生徒会長も務めていたらしい、間もなく卒業な為、今はもう生徒会長ではないそうだが、弟のゼン曰くとても人気がある生徒会長だったそうだ。
席へと着いたタッドをジッと見つめた。
初めてタッドに会った時は10歳前だっただろうか……少し生意気な少年という印象だったタッドも、今は成人を迎え大人びた風貌になった。
学校を卒業したらランスの下で修業し、一流の商人になることが今の目標らしい。
これまでずっとスター商会の手伝いをしてきたタッドは、既にランスが認めるほど優秀で、直ぐにでも重要な仕事を任せることが出来そうだと嬉しそうに語っていた。
リアムも力強い味方が入ってくれるので嬉しそうだったし、何よりも両親であるトミーとミリーがとても喜んでいた。特にトミーは息子自慢が止まらない程で、娘のリリーに「パパうるしゃい」と言われてしまう程だったらしい。
その後のトミーの落ち込みようが酷かったらしいが……それ位タッドは立派な若者になっていた。親代わり、いや婆代わりに近い私としても鼻高々だった。
「タッド、私に話があるなんて珍しいですね、仕事の事かしら? それともお友達の事?」
クルトが入れてくれたお茶を一口だけ口に付けた後、何やら言い辛そうにしているタッドを見てこちらから声を掛けてみた。
タッドの友人で、仲のいい子が三人いるのだが、その子達も卒業後はスター商会で働くことが決まっている。
実は以前からアルバイトでスター商会で働いていた子達でもある。一人は男の子でタッドの親友らしく、優秀な子で生徒会でも一緒だった様で、今後はイライジャの下で働くことが決まっている。
そして残りの二人は女の子で一人の子は裁縫室に、そしてもう一人の子はスター・リュミエール・リストランテで働くことが決まっている。全て本人達の希望で、今アルバイトでも頑張ってくれている、期待の新人だ。
タッドは「いえ……」と小さく呟くと、飲みかけのお茶を一気飲みしてしまった。
緊張しているのか少し頬が赤いのが分かる。クルトは何か分かったのか、少し私たちと距離を置くかの様に離れたが、セオは返って私に近付いてきたように思えた。
タッドがここ迄言い難そうにして居るという事は……もしかしてスター商会でなく他に行きたい店が出来てしまったのだろうか? 不安になりドキドキとしているとタッドが口を開いた。
「あの!」
「は、はい!」
どうしよう何だか私まで緊張してきたよ。タッド、スター商会への就職が嫌だって言わないよね?
なんて益々ドキドキしていたら、思わぬことをタッドは口にした。
「ララ様、俺、いえ、私と卒業パーティーに出席していただけないでしょうか?」
「えっ? それは……親代わりとしてですか?」
「いえ、パートナーとしてです!」
パートナー……
一先ず就職取りやめの話ではなくホッとした。
けれど、卒業パーティーのパートナー……それは全く学校に無関係な私で良いのだろうか?
リタならば今既に同じ学校に通っているし、美少女だし、背もタッドと釣り合うし、問題無いと思う。だけど私は背が伸びたと言ってもまだ成人したタッドとは釣り合わない、ダンスもきっと踊りにくいと思うけれど良いのだろうか?
「タッド、私で良いのですか? その……学校の友人とかでは無くて……」
「はい、私はララ様が良いんです! 私の大切な人はこの人だって皆に自慢したいんです……それ位俺はずっとララ様の事が好……そ、尊敬しているんです!」
何と何と! タッドはずっと私の事を尊敬してくれていたようだ。とても嬉しい。
つまり師匠のような存在の私に卒業パーティーに出席してもらって、自分の功績を見て貰いたいって事だよね? 本当になんて可愛くっていい子なのでしょうかっ!
「タッド、卒業パーティーのパートナー喜んでお受けいたします」
「本当ですかっ?!」
「はい、とっても嬉しいです。誘ってくれて有難うございます」
タッドは部屋に来たときとは打って変わった晴れやかな表情になり、クルトが新しく入れてくれた冷たいお茶を美味しそうに飲んでいた。
きっとスター商会の会頭を誘うという事で、断られないかと緊張して居たのだろう。私とタッドは友人だ。そこまで緊張しなくてもと思ったが、成人して大人になった年頃を考えるとそれも当然で、前世で言えばタッドは中学生か高校生ぐらいだ。
例え年下の恋愛対象にもならない様なちびっ子であっても、誘うのは恥ずかしかったのだろう。羞恥心を捨て勇気を出して誘ってくれたタッドの事を改めて尊敬した私だった。
「ララ……タッドの事好きなんだ?」
タッドが部屋から出て行くと、少し不機嫌そうな様子のセオが隣に座り話しかけて来た。相変わらずの妹思いのセオは、私とタッドが出かけることが嫌なようだ。
セオのそんなところも可愛いけれど、ノアも含め少しシスコンで困る気もする。これではセオの恋はいつまで経っても始まらない可能性がある。
お年頃のリアムが不憫すぎる気がした。でもセオは愛情に飢えている。チェーニ一族という特殊な村で育ったので、私がセオの親代わりなのだろう。
セオの事が一番大好きだと常に伝えるのが親である私の役目だと思う。セオがもう私を必要としなくなるその時までは……
「セオ、私は勿論タッドのことも大好きだけど、世界で一番大切で大好きなのはセオだよ。これは絶対一生変わらないからね」
セオは少しだけ寂しそうな表情で私を抱きしめてきた。
クルトを見れば、カップなどを持って部屋を出て行った。ここにも簡易キッチンがあるのに、わざわざ別室の給湯室へ行くようだ。もしかして少し外の空気が吸いたかったのだろうか? あ、大きな食洗器魔道具が使いたかったのかもしれない。楽だものね。
セオは何やら「焦るな、焦るな」とブツブツ言いながら暫く私を抱きしめていた。
セオもタッド同様思春期真っ盛りだ。思う事が色々あるのだろう。異性で年下の為そう言った話しは私にはしづらいのかもしれない。これはクルトにでも頼んで話を聞いてもらうしか無いだろう。そう思いながらセオを抱きしめ返し、いい子いい子と頭を撫でたのだった。
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