第427話 学校を作ろう!

「ララ様、分かってらっしゃいますか? 後一年でララ様ご自身が学校に通うのですよ、それなのに学校を作っている余裕などあるのですか?」


 アダルヘルムの言葉に私は疑問を感じた。何か話が噛み合って居ないような気がしたからだ。

 確かに私は約一年後には学校の入学があるし、今年の冬には受験があるだろう。けれど、私の学業の教育はかなり進んでいるとアダルヘルム本人から聞いているし、私の学業のレベルはこの世界で最高峰の学校である、ガイム国のグレイベアード魔法高等学校に入学出来るぐらいのレベルはあるのだとアダムヘルム自身が太鼓判を押してくれて居るぐらいなのだ。


 なのになぜこれ程心配するのか……もしかして一般常識の件が心配なのかな? とも思ったが、私は恋愛面は苦手だけれども、リアム達と毎日の様に触れ合っているお陰で、庶民感覚は以前よりもずっと身に付いているはずだ。それに苦手分野の教育もクルトから受験日まで毎日授業を受ける訳では無いだろう。

 それなのに何故ここ迄学校づくりを心配するのかな? と考えて思いついたのは、一つの答えだった。


「アダルヘルム、もしかして私が教壇に立つと思っていませんか?」


 私の言葉を聞いてアダルヘルムは驚いたような顔を向けてきた「違うのですか?」と言っている事がそれで分かった。リアム達も驚いたような顔をして居ることから、アダルヘルムと同じ様な勘違いをしていた事が分かった。

 以前学校の件は話したような気になっていて、きちんと説明していなかった私が悪いのだけど、どう考えても他の学校に通いながら教壇に立つのは無理だろう。そこは分かってくれそうなものだけど……とも思ったけれど、きっと私なら無茶をしそうだとでも皆思っていたのだろう。


 今は大人しく淑女らしくなった私だけど、以前はほんの少しお転婆で、多少皆に心配を掛けてしまった節がある、正当防衛だったとはいえ女の子らしからぬ行動をとっていたことだろう、そう考えると私が学校を作って教師になろうと勘違いされても仕方がない事なのかもしれない。ここはしっかりと説明しておこう。


「えーと、私が作りたい学校は商業学校で……」

「「「商業学校?」」」


 聞きなれない言葉だったからか、部屋にいる皆が驚い顔にまたなった。

 この世界で商人や職人になる為には、店に入り下積みをしてなる物だ。早い子ならば10歳ぐらいから、そう今の私ぐらいの年で下働きに入って職人としての技を覚えて行くのが一般的だ。

 そして教養が必要になってくる大店の商人や、レベルの高いレストランなどに就職するためには学校を卒業してから就職することがこの世界では普通だと思う。


 その為字が書けない読めない庶民はかなりいる、それは幼い事から働いているため、小さな頃からの教育が無いからだ。いずれはここも改善していきたいところだけれど、今はスター商会の人材不足の為に人を育てたいと言うのが本心だった。


 騎士学校はあるのに商人や職人になる学校がこの世界にはない……だからこそ作ればすぐに目立つし、皆が何だろう? と興味を持ってくれると思う。それにブルージェ領は今庶民の暮らしはとても潤っている、子供を学校へ行かせたいと思う親は増えて居ることだろう。文字の読み書きだけでなく職人の勉強迄出来ると有ったら、子供の将来が広がると思ってもらえるのではないだろうか。


 魔道具技師としての才能があるヨナタンも、今は研究所の所長として働いているビルも、学校には通って居なかったけれど、凄い才能を持っていてそれを自分の力で開花させた。けれどそんな子は稀だと思うし、ヨナタンとビルの二人もスター商会と出会わなければ今どうなっているかも分からないだろう。

 出来ればそんな子が居なくなる位にブルージェ領に作る商業学校を大きくさせて行きたいと思う。それが成功したら今度は小学校のような小さな子が学べる学校を作りたいとも思っている。

 この世界ではお金の無い家庭の子供に勉強を教えてくれるのは教会ぐらいらいしいけれど、小さな頃から家の仕事を含め、働いている子供たちはそこへ通うのも難しい様だ。

 ブルージェ領がもっともっと栄えたならばそれも可能になってくるだろう。なので領主であるタルコットには今以上に沢山頑張って貰わなければならなくなると思うけれど……うん、タルコットの傍にはイタロもいるし、メイナードだって数年すれば成人だ。その頃にはきっと小学校を建てることが出来るだろう。


「あー……つまり……ララは本当に学校を建てるだけって事だな」

「うん、そうなの、勿論色んな事はお手伝いする予定だけど、ブルージェ領の学校って事だから……校長先生はタルコットかな?」

「教師はどうするんだ?」

「基礎教育の先生は商業ギルドで雇うとして、専門的な教育の先生は、まあ、最初の年はスター商会から出したとしても、きっとそのうちいろんな店から先生になりたいって言ってくると思うんだよねー」

「ああ、なる程……生徒の中で優秀な者がいれば自分の店に引き込むことが出来ますからね……それも自分の好みに育てることも出来る…ふむ……私も教師として行きたいぐらいですね」


 おおっと、アダルヘルムが教壇に立ったら生徒たちがその魅力で失神しちゃうんじゃないかな……マトヴィルも行きたがるだろうけど……こっちも心配だ……アダルヘルムやマトヴィルを見たくて授業参観に来たいって言いだすような保護者が沢山出る可能性がある……ここは止めてもらった方が良いでしょう。


「最初の年は、商人コースと職人コースの二種類のコースを作りたいかな、特に職人コースの方は二年目からはもっと細かくクラスを分けるか、自分で授業を選べるようにしていきたいし、数年たったら使用人コースとかも作っても良いかなって思ってる、こればっかりはブルージェ領のこれからの発展次第になるかもしれないけれどねー」


 ブルージェ領の発展はそれ程心配はして居ない。

 季節ごとのお祭りは大人気だし、バイク隊の活躍もあって、治安も良いので子育てに向いていると他領や他国から移り住んでくる人が増えているし、ブルージェ領にはビール工場があるので領の経済も潤っているから、他の領と比べて税金も安い、その上これから無料で通える学校が出来ると有れば益々ブルージェ領の人口は増えるだろう。

 もしかしたら王都よりも発展する可能性もある、ううん、既にいろんな面で王都よりも発展しているかもしれない……特に料理面ではね。


「ルイスとかジュンシーさんとかも、もしかしたら教師になりたいとかいうかもしれないですねー」


 私の言葉を聞いて今度は皆が固まってしまった。

 商業ギルドのギルド長であるルイスはともかく、変態気質のジュンシーが教師になるのは心配なようだ。確かにいい人材を見つけた途端に床を転げまわるような教師は気持ち悪い……じゃなくて、恐怖でしか無いだろう。そこは私も納得だ。闇ギルドの誰かに先生になって貰うとしたら補佐のトレブあたりが良いかもしれない。

 それに商業ギルドのギルド長のルイスも王都のギルド長だ。どう考えてもブルージェ領のギルド長になったナサニエル・タイラーの方が教師としては良いだろう。ただしルイスにその話をするとナサニエルに対抗意識をもって自分もやるとか言いそうだけど……リアムに良いところを見せたがりそうだしね。うん、話すのは止めておこうか……


「あ、あと、これはローガンにも相談なんだけど、生徒たちの教育実習の場としてブルージェ領のお祭りのお手伝いをしたり、卒業間近の三年生は自分たちで露店を開いてみても良いかなって思ってるの、リアムどう思う?」

「ああ、それはいい勉強になるだろうな……それに自分の店を持つ前の予行練習にもなりそうだ。うん、ローガンに相談して取り入れたいと思う、ああ、ベルティとフェルスにも相談した方が良いかもなー……よし、明日俺達も領主邸に行くか」

「タルコットの所? 急に行って大丈夫なの?」

「明日は領主邸で夏祭りに向けての話し合いがあるはずだ。俺達もその場に参加しよう、学校の事だけじゃなく駄菓子屋の事も話しておいた方が良いだろう、ブルージェ領が益々混み合う原因になる可能性大だからな」


 リアムはそう言うとランスに指示を出して、すぐにタルコットやイベント担当者宛に連絡を取る様にと言って居た。ランスは頷きすぐに動き出した。仕事が早い、流石だと思う。でも相変わらずおもちゃ屋さんではなくってリアムの中では駄菓子屋さんの様だったけれど……


 これで今後はスター商会の人材不足は改善していく事だろう、学生のアルバイト先をスター商会の各店舗にしても良いし、マイラやブリアンナの助手として雇っても良いと思う。女の子達にも結婚という就職先だけじゃなく自分で選べる職業が増えれば良いと思う。そうすればマイラ達のような働く女性がもっと一般的になるだろう。それも楽しみの一つだ。


 ふむ……そう考えると、いずれは保育園も必要となってくるのか……女性が働きやすいような領にブルージェ領をしていけたら良いだろう。でも先ずはウイルバート・チュトラリー対策が必要だけどね。


「ララ、お前またなんかとんでもない事考えてるんじゃないのか?」


 独り言が聞こえたのか、リアムが怪しんだ目をしながら私を見てきた。

 私はまだまだ先の計画なのでこの場では黙っておいた。これ以上何か言うとなんだかお叱りを受けそうで怖い。おもちゃ屋さんや学校が出来たらまた話そう。


 鉄壁レディスマイルを浮かべ「何でもない」と首を横に振ると、リアムは優し気な表情で私の頭の上に手を置いた。何だか妙に色っぽい。セオに良いところを見せたいのかもしれない。気持ちは良く分かる。


「ララ、お前はどこまで俺達を引っ張って行くんだろうな……」


 そんな事を呟きながら私の頭を優しく撫でるリアムは凄く色っぽい。

 シャツの第一ボタンをいつも開けて居るリアムだけど、今日はそれがやけに艶っぽいから、もし今ここにルイスが居たら「嬉死ぬ」とか言って爆発しそうだ。

 でも残念なことにセオにだけはこの魅力がイマイチ届いてないのが気の毒でしょうがない。セオが成人したことで、段々と二人の恋を応援してあげたくなっている私としては、どうにかリアムの気持ちをセオに分からせてあげたいぐらいだ。でも本人がそれを望んでいるかは分からないから、リアムの気持ちを確認して見たいところだけどねー。余計なお世話かも知れないし。


「リアム……何だか今日はいやらしいね」

「はあ?! はあ?! な、何でそうなる?! 頭触ったからか?」


 おっと、思わず気持ちが言葉に出てしまった様だ。

 いやらしいと言うのは見た目がという事なんだけど、私に触る手つきだと勘違いされちゃったみたいだ。ごめんごめん。リアムが慌てて私の頭から手を離したので、それを捕まえた。


「ごめんね、いい意味でいやらしいって事だよ。なんていうか……この辺が【エロティック】って言うか……」


 そのままリアムの首元をそっと触れば「きゃあっ」と可愛い声を上げて真っ赤になってしまった。

 皆が気の毒そうにそんなリアムを見ている。恋の相手であるセオは口元を押さえ下を向いてしまっている。肩が震えて居ることから笑っている様だ。きっとリアムが可愛くってしょうがなかったのだろう。


 この後暫くリアムは私と目を会わせてくれなかった。きっと恥ずかしい思いをさせてしまったからだろう……ごめんね、リアム……いつかセオとのデートをセッティングするから許してねー。


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