第424話 好きなんだもの

「という訳でだ、三人とも(マルコ、オクタヴィアン、ヨナタン)自分達がやらなきゃならない事は良く分かったな? 今後はチコとルベルによく相談をしてから実験をしていけよ」

「うむ……すまなかった……」

「申し訳ございません」

「悪かったよ……」


 リアムにしっかり諭されて、マルコは仕事のやり方を見直すことになった。

 これ迄研究員仲間のノエミの補助もあって、マルコは自由気ままに研究が出来て居たが、人が増えれば勝手は出来ない、それに今回はおもちゃ屋さん開店に向けての商品の開発を進めなければならなかった。皆が皆同じ研究に夢中になり、そしてそれを勝手に実験をして結局商品に出来る物が無くなってしまった、今のこの状態では注意されることは仕方がない事だっただろう。

 今後は報連相を大事にして三人(マルコ、オクタヴィアン、ヨナタン)とチコとルベル、そして私とおもちゃ屋さんについて話を進めて行く事になった。チコとルベルもこの事で自分達が中心になって話を進めていく気構えができた様だ。まあ、マルコ達三人の夢中になりやすい性格を見ればそれもそうなるだろう。放っておくと忘れたころにまた同じ様な事件をしでかしそうだものね。


「俺もいけなかったっす、もっと自分から責任者として開発チームの様子を見に来るべきでしたっす」

「私もです……自分が担当者と決まったのにどこかで下っ端のような……誰かが引っ張ってくれるような甘い気持ちでおりました。これからはキッチリ三人の事を見させていただきます」


 ルベルもチコもしっかりと自分の立場を理解したようだった。

 特にチコはウエルス商会の時はヴァロンタンに可愛がられていたし、今は双子たちにしっかり指導を受けている。もしかしたらこの中で一番厳しい人物にはチコがなるかもしれない。そこは商人として大事な部分だろう。


 そしてその後スライムたちをどうするかの話になった。

 観察をしてどれぐらい生きて? 生存して? いられるかの確認と、毎日の行動などをマルコは研究したいのだそうだ。だけど50匹ものスライムをここに置いていても仕方がない、各色五匹づつをマルコに渡し、残りはディープウッズ家に連れて帰って可愛がって見ることにした。


 スライム液は私がディープウッズ家で作り、毎日この子達に食べさせる? 浴びさせる? 事にした。マルコ達は販売できるように新しい魔紙を作るのと、後二色作ることを早急に始めるそうだ。それとヨナタンとオクタヴィアンはおもちゃ屋さんで販売する他のおもちゃの開発も頑張るのだと意気込んでいた。皆好きな事には夢中になる……ううん、なりすぎる兆候があるのでチコがしっかりと見張ると言ってくれた。頼もしい限りだ。


 その後もどんなおもちゃを作るかを話し合った。

 チコとルベルは皆の話を聞きながら、こんな商品が良いのではないかと、色々と意見を出してくれた。ビルとカイは皆の意見を聞きいてくれて、どんな店を建てようか考えてくれているようで、子供達がワクワクするような店を建てたいと私に話してくれた。店が出来るのが楽しみでしょうがない。


「俺はおもちゃよりも、早く駄菓子が食べたいけどなー」


 リアムがクルトが出してくれたお茶うけを一人ポリポリと食べながらそんな事を呟いた。

 駄菓子の方は今のところ料理人達に話をした所で止まっている、試作などを作るのはこれからだ。

 ただ……リアムを試作の試食会に呼ぶのが少し心配だ……マルコ達には試作で作った物を全部使ってしまうなんてと注意していたが、リアムだって試食会を開いたらどうなるかは分からない。お菓子好きのリアムの事だ、下手したら全部食べてしまうなんてこともあるかもしれない。

 好きな物なのだから仕方が無いのかもしれないけれど……

 スター商会の従業員は(リアムも含め)好きな物に夢中になってしまう人間ばかりの様だ。

 もしかしたら私もそうなのかもしれないけれど……うーん……私が夢中になりすぎるほど好きな物って何だろう? 何かを作ることかな? それとも子供たち? 色々ありすぎて分からない様な……


 そこで私はハッとマルコとメグの話を思いだしていた。

 二人が結婚するのならマルコはプロポーズをするのだろう。今の所一人で盛り上がっているようなので、詳しく話を聞いてどういう予定なのか知っていた方が良いだろう。既にビルとカイ公認の関係の様だが結婚となると家族との関係も大切になってくる、まあ、ビルとカイがこれからもマルコの事を弟として見て行く事になるのは間違いないけれど……歳はマルコが一番上なんだけどねー。


「マルコ、話は変わりますが……メグとは恋人同士としてお付き合いして居るのですよね?」


 もしマルコ的にはメグの事を友人と思っている関係なのに結婚すると言って居るのだとしたら大変だと思い、マルコに再度確認をする。ビルとカイの方にも視線を送り、メグはどう思っているのかを目で聞いてみると、私の気持ちを分かってくれたようで頷いてくれた。メグの方はマルコを彼氏としてきちんと意識している様だ。そしてマルコはというと、怒られてしょんぼりしていたが復活して胸を張って答えてくれた。


「うむ、メグとは恋人の研究をして居る間柄だ。そう、家族になる為の研究だな。叔父上にもメグのことは紹介してあるぞ、俺の研究対象だと伝えたんだ!」


 ガハハハッ! と笑うマルコに頭が痛くなってしまったが、マルコの叔父でありブロバニク領の商人であるファウスト・ビアンキは、きちんとメグがマルコの恋人だと理解している様だとビルとカイが教えてくれた。

 まあ、マルコの面倒を見ているビルとカイの妹と聞けば、ビアンキが反対することは無いだろう。それにメグはマルコに負けないほどの美少女だ。あんな可愛い子をお嫁さん(いや、まずはちゃんとした婚約者かな?)に出来るなんて羨ましい。従業員達の中でもメグにホの字になっている男の子たちは多くいるだろう。それ位魅力的な子なので問題無いと思う。


 そしてビルとカイの実家の方も、メグには色々と可哀想な思いをさせたので本人の望む結婚に反対は無いのだとビルとカイが教えてくれた。


 という事で、後はマルコがきちんとメグに申し込むだけなのだが、ここでカイが申し訳なさそうに声を掛けてきた。心配気という感じだろうか。


「あー……メグは確かにマルコの事大好きなんだけど……その……結婚となると……どう返事するかは俺達にも分からないです……」

「それは結婚と恋愛は別って事? それともまだ結婚するには早いって事かしら?」


 前世で考えればメグは高校生ぐらいだけど、この世界で考えれば結婚するのは年齢的には何の問題も無い。なので結婚相手としてはマルコが嫌なのかな? と思ったがそれも違うようだった。カイは言って良いのか悪いのかと考えながらそっと口を開いた。

 リアムはお菓子を食べるために口を開いているけどね、ここにはジュリアンだけでなくランスかガレスも一緒に連れて来るべきだったね。ここぞとばかりに手が進んでいる気がする。まあいざとなったらセオに止めて貰おう。恋する相手であるセオに注意されたら流石にお菓子を止めるでしょう。


「えーと、メグって、その……マルコの事を凄く好きなんだ」

「うむ、知っているぞ、俺もメグが好きだ。だからこの気持ちを研究している」


 のろけてくるマルコが口を挟むと話が進まないので、マルコにはお母様の書いた薬の論文を渡しておいた。これで少しは話が進むだろう。


 カイには気を取り直してもらって話を進めて貰った。どうやらビルも知らない事の様だ。ビル的にはメグがマルコのプロポーズを断る可能性は無いと思って居る様だった。年が近く仲の良いカイだけが知っている事らしい、尚更気になる。


「えーと、メグって綺麗な物が……その……可愛い物が凄く好きで……マルコを見てるだけで満足な部分があって……」


 カイの話ではメグは可愛い物フェチの様だ。

 恋人同士ならばそれ程長い時間一緒に過ごすわけでは無いので、メグの心臓も持つだろうけれど、一緒に住んで、その上結婚となると、可愛いと思っているマルコと顔を近づけたり、体を近づけたりも勿論出てくるわけで、カイはそういう事にメグが耐えられないのではないかと心配なようだ。

 まさかメグがカイが心配する程マルコの見た目に夢中とは……なんとマルコの笑顔で胸を押さえていたこともある様だ。そんな人と結婚なんて……耐えられないのではないかとカイは心配そうだった。


 私はお母様の論文に夢中になっているマルコからそれを取り上げると、マルコは突然地震でも来たか、それとも雷でも落ちたかのような驚いた顔で私を見てきた。返してくれと手を差し出してきたが先に質問に答えて貰おう。


「マルコ、メグとのデートはどうして居るの?」

「デート? デートとはなんだ? 初めて聞く名だな? 新しい実験道具か?」

「えーと、メグとは手を繋いだことはある?」

「メグと手を繋ぐ? ふむ、そんな実験はまだして居ない。そう言う事は結婚してから実験するのだろう?」

「えーと、お付き合いって具体的に何をして居るのかな?」


 なんだか段々子供に話すような感じになってしまった。

 クルトとリアムがこりゃダメだというような諦めた表情をすでにしている。ギブアップの様だ。でも私には不屈の闘志があるのでまだ諦めない。きっとマルコとメグのお付き合いのどこかに恋人らしさがあるはずだ。マルコは少し考えると普段のメグとの様子を話してくれた。


「ふむ、メグとはいつも食事の時と、ビルとカイの家に行った時に一緒に過ごすぞ、その間メグはずっと俺の顔を見て研究している、だから俺はその間、人間のお付き合いなる物の論文を書いているぞ」

「えーと、二人きりの時は何を話すのかな?」

「二人きり? ふむ……二人きりになった事があったか? これも研究が必要か? ふむ……ああ、話すことはビルとカイのことか、ララ、そうララ様のことだなっ。メグも俺と同じでララ様が大好きだからな」


 ああ……このカップルダメかも知れない……


 でもお互いが好きだと言って居るわけだし……両想いで恋人同士なのは間違いがない様だ。


 ビルとカイもまさか恋人同士と言っておきながら、自分たちの家に来たときや食事の時にしか二人が会っていないとは思っても居なかった様だ。「育て方を間違えた……」とビルとカイはマルコの父親でもメグの父親でもないのに頭を抱えていた。このカップルは前途多難の様だ。ビルとカイに頑張って欲しい……


 結論としてマルコは結婚の前に先ずは恋人同士としてのお付き合いを始めることにさせた。

 それと研究だと言ってティボールドことルド・エルス先生の書籍を沢山渡しておいた。マルコは「俺は研究者だぞ! 子供の作り方は知っているぞ!」と大きな声で叫び、リアムにこめかみをぐりぐりとされていた。幼い子供である私の前で話すことではなかった様だ。


 こうしてマルコの結婚は暫く延期になった。

 それ以前の問題だったからだ。いずれクルト先生の恋愛レッスンを私と受けることを約束して、私達は研究所を後にした。勿論スライムたちを連れて……

 その夜凄く疲れてしまってぐっすりと眠れたことだけは良かったかも知れない。

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