第423話 おもちゃのチャチャチャ

「チコ、申し訳無いけれど、リアム達を大急ぎで呼んできて貰えますか? ルベルはビルとカイをお願いします」


 チコは「畏まりました」と言ってすぐに部屋を出て行き、ルベルは「分かったっす」と言ってその後を追っていった。流石スター商会の従業員だけあって対応が早い、部屋の惨状を見て急がなければと思ってくれたのだろう。二人共凄く真剣な顔だった。


 残された私やセオ、クルトはこのスライム問題を起こした三人(マルコ、ヨナタン、オクタヴィアン)と共に、取りあえず部屋の中を飛び回っているスライムたちを集めることにした。

 実験室にあった大きな籠の様な物に色別ごとにスライムを集めて行くと、全部で50匹近くいる事が分かった。マルコは「そうか集めてどう育つのか実験するのだな!」と張り切っていたが、捕まえるのは一番下手だった。ここはやっぱり素早いセオがスライムたちを捕まえるのがとっても上手で、生き生きとして居た。顔には良い笑顔が浮かんでいて、鼻歌でも歌いそうなほどの喜びようだった。楽しくって仕方が無い様だ。


 スライムを集め終わったと同時ぐらいに、ビルとカイがルベルに連れられてやって来た。籠の中に入って居る沢山のスライムを見ると頭を抱えその場で固まってしまった。似ている兄弟だとは前から思っていたが、同じ仕草をすると尚更そっくりだ。クルトが苦笑いを浮かべながら二人をソファへと座らせ落ち着かせた。そんな様子に流石の三人(マルコ、ヨナタン、オクタヴィアン)も自分たちのしでかしたことに気が付いたのかウキウキした様子は消えて、シュンと肩を落とし大人しく席へと座った。スライム育成が成功して嬉しかったのは分かるけれどもこの数は流石にやり過ぎだ。ここはしっかりと今後の約束事を決めないといけないだろう。絶対にまた同じことをやる事は間違いない。特にマルコがね。


 クルトが入れてくれたお茶を味わって居ると、ドタバタとリアム達が慌てた様子で部屋へ向かってくる足音が聞こえてきた。そして勢い良くバンっと大きな音を立てて扉を開けると、すぐに籠の中でうじゃうじゃと集まり飛び跳ねて居るスライムが目に入ったのか、一瞬瞬きした後、頭を抱えているビルとカイを見て、その後ソファで小さくなっている三人(マルコ、ヨナタン、オクタヴィアン)に視線を送り、何かを察してくれたようだった。

 リアムはツカツカと足音をわざと立てながらドカッと一人掛けのソファに足を組んで尊大な様子で腰掛けると、三人にアダルヘルムの様な冷たい視線を送った。三人はブルッと震えてその様子を見ていた。気持ちはよく分かる。


「さーて、何があったのか全て話してもらおうかぁ?」


 リアムの問いかけで一番年上のマルコが話しだした。

 おもちゃ屋さん開店に向けてヨナタンがぬいぐるみ魔道具を作りたいと言って居たのでその手伝い始めた事、そしてスライムを思い付き協力し合って無事に実験が成功したことを先ずは話した。


 話しだしの初めは大人しめに話していたマルコだったが、話していくうちに実験が成功したことを思いだして興奮したのか、段々と胸を張り、今は立ち上がってドヤ顔になっている。きっと目の前でアダルヘルムの様に冷ややかな微笑みを浮かべているリアムの事が目に入っていないのだろう。マルコの両隣に座るヨナタンとオクタヴィアンは、そんなリアムの様子に気が付いているので、大きな体を出来るだけ小さく縮めて居るように見えた。勿論限度はあるけどね。


「ガハハハッ! という訳でな、俺達の実験は成功したのだ! スライム人形はおもちゃ屋の目玉商品になるぞ! どうだ凄いだろう! ガハハハッ!」


 自信満々なマルコの目の前でリアムは足を組み替えると、ニッコリと良い笑顔になった。

 怖い、怖い……本当にアダルヘルムみたいだ……


「ララ、お前はおもちゃ屋の為に何かおもちゃを作ったのか?」


 マルコに返事をする訳でなく、急に私に問いかけてきたリアムに驚きながらも、私は頷き魔法鞄からいくつかのおもちゃを取り出した。


 先ずはクラッカーだ。

 おもちゃと言えるかは分からないけれど、せっかくの魔法の世界なのでクラッカーの中には魔法を仕込んである。使用すれば、天井に星が散らばったりするものや、虹ができるもの、それから鳥や蝶などの映像が流れるものも作った。

 取りあえず一つ部屋の中で使ってみると、幻想的な光景に皆が「おおー」と歓声を上げた。セオとクルトは私が作っていたものを知っているのでマルコの真似かドヤ顔だ。主自慢してくれている様でちょっと恥ずかしい。


 次に男の子用のおもちゃとしてロボット……この世界ではゴーレムと言った方が良いのかもしれない。前世の記憶を頼りに魔力で空を飛ぶロボットや、手から空気砲のような物が出るロボット、それから魔石バイクがロボットの形になる物を作ってみた。

 どれも危険が無い様にぶつかっても痛くはない素材だし、小さな魔石が電池替わりなので、それ程長距離を飛んだり、危険が無い様にはしてある。まだ試作段階なので、リアム達にしっかりと検証してもらわなければならない物ばかりだ。悪事に使われてしまっては困るからだ。


 そして女の子用のおもちゃとして変身ロットを作った。

 これは本当に変身できるわけではなく、10分ぐらい美しいドレスに変身したように見える幻覚魔法を使ったものだ。種類は三種類で、姫騎士や王女様、それにウエディングドレスのような姿に変身できる物を作った。まだ試行錯誤している状態で、いずれは男の子用の物も作りたいと思っている。まあ商品化していけるかはこれから相談なんだけどね。


 まだいくつか試作品段階のおもちゃがあるので、魔法鞄から出そうと思っているところでリアムに「もういいぞ」と止められた。ふと三人(マルコ、ヨナタン、オクタヴィアン)の顔を見てみると、悔しそうな、それでいて楽しそうな不思議な顔をして居た。特にマルコは赤い顔でフルフルと震えている。一体どうしたのか? と思っていたがリアムは何だか嬉しそうだ。何故だろうか?


「ララ、おもちゃはまだ沢山作ってあるのか?」

「えっ? うん、だっておもちゃ屋さんって言っている位だから一個や二個じゃしょうが無いでしょう? 勿論販売して良いかはチコやルベル達担当者と相談して、その後リアム達と確認をしてからになるけど、試作品は多くなくちゃならないと思って」

「うん、確かにそうだよなー。で、マルコ、お前達三人はスライムで実験したほかに試作品は何か作ったのか?」


 三人はしょんぼりしながら首を横に振った。マルコはまだ震えている。悔しいと行ったところだろうか。


「良いかお前達、実験をするのも悪くはない、それにこのスライムは素晴らしいし、売れるものだと思う。だが、作った試作品の全てを使ってしまう事が間違って居ることは分かるな?」


 三人は小さくなって頷いている。マルコは見た目が可愛らしい女の子のようなので、何だか可哀想になる。オクタヴィアンとヨナタンは見た目が大柄で顔も厳つい部類に入るので、犯罪を犯して捕まった人の様だ……反省して居るのが良くわかる。


「人と比べるのは俺は嫌いだが、だが、ここは言わせてもらうぞ、ララは試作品としてこれだけ作り上げて居る……それがお前達は実験に夢中になって、商品を作ろうとすることを後回しにして居なかったか? 実験をする前に、いくらかの試作品を先に作るべきだったんじゃないのか? 特にマルコ、お前はここでの生活が長い、化粧品だって試作品をいくらか作って実験をして居るだろう? お前が先輩としてこの二人に教えなければならない事なんじゃないのか?」

「ぬぐぐぐ……そうだ……すまぬ……」


 マルコはスター商会の研究所に勤め出してだいぶ経つ、普段はビルやカイが上手く誘導して仕事を進めてくれていたが、立場的にも年齢的にもそろそろリアムは責任をもってマルコに仕事をして貰いたいのだろう。


 マルコの良いところは実験に夢中になるところだけど、今回は作ったものを楽しくって全て使ってしまった事がいけなかった。それもおもちゃ屋さんの担当者になるチコやルベルに声を掛けることなく行ってしまった。そういった事をマルコにもそろそろきちんと理解してもらいたいのだろう。


「マルコ、お前メグと結婚したいんだろう?」

「なっ?! 何故知っている?」

「えっ?! マルコとメグは付き合って居るの? 恋人って事?!」


 ビルとカイの妹であるメグは、以前私がブルージェ領の裏ギルドのアジトであったスカァルクの店から助け出した女の子だ。とっても美少女だった為裏ギルドに目を付けられてしまったのだが、ビルとカイと一緒に何とか助け出すことが出来た。


 その後はこの研究所の寮でビルやカイや兄弟たちと幸せに暮らし、今はスター商会の薬屋で働いてくれているのだが、いつの間にかマルコとお付き合いをしていたようだ。


 美少女同士(マルコは二十歳を過ぎた大人男子です)とってもお似合いだけど、まさか結婚を考える様なお付き合いをして居るとは知らなかった……私が寝ている間に仲良くなって恋に発展したのだろうか? 今度ゆっくりメグとお話をして見たいところだ。


「今のその状態じゃー、結婚は無理じゃないのか?」

「なっ、何故だ!」

「あー、確かに自分のことしか考えて居ない男性は女性からすると結婚するのは嫌ですねー」


 幼い少女である私でさえ今のマルコでは無理だと言ったと思ったのか、マルコはまた「ぬぐぐぐ」と変な声を出してしまった。まあ、メグは今のマルコが好きなのかもしれないけれど、そこは成長して欲しいと思っているリアムの味方をしておこう。


「マルコ、お前結婚のことをメグに話したのか?」

「……」

「えっ? メグにプロポーズをしてないのに結婚するって言ってるの?」

「親代わりでもあるビルとカイには話を通してあるのか?」

「……」

「えっ? それもしてないの? マルコ……それは幾らなんでも……」


 ビルとカイはマルコから話されてはいなかった様だが、マルコの気持ちを知っていた様で、口元をふにふにさせて笑わない様にしているみたいに見えた。きっとメグの気持ちも知っているのだろう。二人の様子から良く分かった。


 リアムがマルコに言いたい事は皆良く分かっている。

 周りと良く相談をすること、それと自分勝手に動かないことだろう。これから研究チームのリーダーとなっていくマルコには大事な事だと思う。これを教訓にして成長してもらいたいものだ。


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