第398話 闇ギルドからの帰宅
キランとセリカには先ずは着替えをして貰う事にした。
本当は二人に似合いそうな色の洋服を着てもらいたかったが、今日は闇ギルドに来ているという事で、私達は目立たない様に(アダルヘルムには無理だけど……)黒でコーディネートしているので、二人にも黒色のスーツに着替えてもらう事にした。
キランとセリカに魔法鞄からスーツを取出して渡そうとしたら、何故か闇ギルドのギルド長であるジュンシー・ドンクレハイツに奪い取られ、じっくりとスーツを見られてしまった。
これはスター商会の商品なのかと訪ねられたので、私が作った物だと答えると、ジュンシーの笑顔はまたまた怖い物になった。きっと頭の中で私に値段を付けて居るのだろう……オークションに出したら私は一体幾らから売り出されるのか……気になるけれど、絶対に売り出されない様にしようと決めた。とにかくお金を稼いで貧乏にだけはならない様にしよう、後は正当防衛だけね。
改めて気を付けたいと思った……怖い怖い。
キランとセリカは別室で着替え、戻って来ると、スーツがとても良く似合っていた。
前世で言う所の ”出来る社員” といったところだろうか、メガネを掛けたら完璧なんだけどなーと考えて居ると、クルトに肩をポンポンと叩かれてしまった。口元が恥ずかしい程緩んでいたようだ。こりゃ失礼。
爽やかなイメージのキランには水色が似合いそうだった。髪の色も紺というよりは明るい薄紫の様な、綺麗な色をして居た。きっと濃い色合いのものよりも薄い色の方がキランには似合うと思う、マイラやブリアンナに相談して私服を沢山作って着飾りたいところだ。
スッキリ美人のセリカには濃い赤色が似合いそうだった。
顔つきも悪役令嬢役なんかが似合いそうで、美人のマイラともタイプが似ている気がした。
ただまだキランとセリカの笑顔が見れていないので、二人の美しい笑顔を見る事が今の私の目標となった。そう思ってワクワクして居ると、クルトにまたポンポンと肩を叩かれてまった。
何故か私の思考が読める様だ……クルト最強かも。
そして二人の購入金額を支払うことになった。
キランが1ロンドプラス手数料、セリカが8900ロットプラス手数料だ。
諜報員を購入したことがない私には、二人の購入金額の合計が二億近い金額なのが高いのか安いのかは分からなかったのだけど、アダルヘルが平然とした様子だったので、きっと普通の金額なのだろう。
ただし、ここでジュンシーがニヤリと笑いながら挑戦的な事を言ってきた。
「姫様、何か私が興味を引くような物をプレゼントして頂けませんででしょうか? 手数料代をお引きさせて頂きますよ」
「興味を引く物……ですか……?」
ニコニコ笑うジュンシーを見ながら何が良いかなと考える、そう言えばジュンシーは私のリボンやセオの如意棒にとても興味を持っていた。だったら武器が良いかな? とも思ったが、ジュンシーは鍛えて居ても自分は戦うすべがない様に見せているため、あまり必要が無さそうだった……うーん……と考えて、取りあえず思い付いたものを出してみて、その中からジュンシーに選んでもらおうと決めた。
先ずは最近作ったばかりの上級ポーションだ。
ジュンシーは手に取るとニマニマしながら見ていた。怖い……
次に以前お蔵入りとなった動くぬいぐるみだ。
私が魔力を通してぬいぐるみが動き出すと、ジュンシーは手を叩いて喜んでいた。
ぬいぐるみを抱きしめる姿は何故かとても怖かった……
そして三つ目に通信魔道具を出した。
これはオクタヴィアンが改良する前の物で、魔力をかなり使うものだ。
誰かと通信し合えるようにと二つ出して上げた。ジュンシーに恋人でも居るのなら毎晩会話を楽しんでもらおう、魔力は沢山持っていかれちゃうけれど、愛があれば大丈夫だろう。
ジュンシーは興味津々な様子で通信魔道具に触っていた。まるで女性の裸体でも触っているかのような気持ち悪い笑みを浮かべているのが怖かった……ジュンシーはむっつりスケベなのかもしれない……気を付けよう。
「えーと、ジュンシーさん……取り合えずこれでどうでしょうか?」
「この中から好きな物を選んでいいのですか?」
「あ……はい……どうぞ……」
私的には上級ポーション以外は在庫処分的な感じなので全部どうぞと言いたかったが、これからもジュンシーとはこういう事がある予感がしたので、一個にして貰う事にした。
勿論考えは口に出さないので、ジュンシーは一個だけを選ばねばと真剣に悩んでいたけれど……
「で、では……この熊のぬいぐるみを頂きます……」
ジックリ考えてジュンシーが選んだものは水色の熊のぬいぐるみだった……似合わないけれど気に入ったようだ。
この子は喋らないけれど、教えればお茶を入れるぐらいまでは覚えられると思うとジュンシーに伝えると、宝石でも見つけたかのようなうっとりとした表情になっていた。最初とは別人だ……やっぱり怖いよりもキモイかもしれない……近寄らない方がいいだろう……
ジュンシーはぬいぐるみがとっても気に入ってくれたらしく、手数料だけでなく、買い取り金額も少しおまけしてくれた。それだけこのぬいぐるみには価値がある様だ。他人に渡ると危険も考えられるので絶対に売りには出さないと約束だけはしてもらった。
「じゃあ、私も割引のお礼に癒しを掛けさせて頂きますね」
「えっ?」
ぬいぐるみを抱きしめているジュンシーに笑顔を向けて、闇ギルド全体に癒しを掛けた。
本当の理由はワクワクした気持ちで魔力が膨れだしそうだったということもあったし、キランとセリカが私とセオとの試合で疲れているかなと思った事もあった。
部屋にいる皆にキラキラした光が降り注ぐとジュンシーはこれ以上ない程興奮してしまった。
勿論ぬいぐるみを抱えたままで……
「姫様! 素晴らしい! これが噂のブルージェの癒しですね! ああ! なんて尊いお方だ、貴女を売りに出したら一体幾らになるか! 値段が付けられない様な人物に生きているうちにお会いできるだなんて! 闇ギルドのギルド長冥利に尽きます!」
ジュンシーがちょっと怖いことを言い出してしまった為、褒められていても素直には喜べなかった。
アダルヘルムはまたまた大きなため息をついていて、額も押さえていた。クルトも同じ症状だ。セオだけは何故かドヤ顔だったけど……
こうして私達は闇ギルドのギルド長であるジュンシーに惜しまれながら、闇ギルドを後にした。必ずスター商会にお邪魔させてください! と力強く約束させられて……ジュンシーはやっぱりちょっと怖かもしれない……気を付けよう。
かぼちゃの馬車を出し、王都の屋敷へと着くと、転移部屋を使ってディープウッズ家へと戻った。
キランとセリカは色んな事に驚いているようで、そのたびに目がピクピク動くのが可愛いかった。驚きをどうやって表現すればいいのかきっと分からないのだろう。自然と出来るようになっていってほしい物だ。
ディープウッズの屋敷に着くと、皆に二人を紹介することにした。
お母様には後日として、先ずはオルガとアリナの元へと向かった。ドワーフ人形達ともすれ違うと、挨拶をして紹介した。
(ワタシハ ルミデス オヤシキノコトハ ナンデモキイテクダサイ)
(ワタシハ アイスデス オソウジ オセンタク ナンデモオモウシツケクダサイ)
「「……宜しくお願い致します……」」
戸惑い気味の二人を連れて仕事中のオルガとアリナの下に着くと、二人は優しい笑顔でキランとセリカを向かい入れてくれた。心なしか二人は照れて居る様だった。
「オルガですわ、困った事が有れば何でもおっしゃってくださいね」
「アリナです。お嬢様付きのメイドです。仲良くしてくださいね」
「姫様から頂いた名前はキランです。宜しくお願い致します」
「私はセリカと言う名を頂きました、宜しくお願い致します」
二人はオルガとアリナに名前も褒められて、またちょっと照れている様だった。ツンデレ? ううん無表情デレ? 可愛い、可愛すぎてなでなでしたい。懐かない猫が少しづつ懐き始めたみたいだ。あー……抱きしめたい……。
ちょっと危険な思考になり始めると、すかさずクルトからの肩ポンがきた。後姿なのにどうしてわかったのだろうか? クルトの私理解力が半端ない気がする。
次にマトヴィルの所へと向かった。
マトヴィルはドワーフ人形のゴーとロックと夕飯の準備に取り掛かっていて、厨房には既にいい香りが漂っていた。私達が来た事に気が付くと、近づいてきてキランとセリカに握手を求めた。マトヴィルは二人と握手をしながら「宜しくなっ!」といって肩をバンバンと叩いていた。キランとセリカの体が大きく揺れたのは仕方がない事だ。前のめりにならなかったのは優秀だと思う。
「今日の歓迎会の夕食は楽しみにしてろよ!」
とキランとセリカにウインクをしたマトヴィルから離れ、今度はベアリン達の所へと向かった。
ベアリン達は丁度魔石バイクで夕方のディープウッズの森の見回りを済ませて来たところだった様で、自分の魔石バイクを綺麗に磨き上げていたところだった。
キランとセリカは始めてみる魔石バイクに興味を持ったようで、今度一緒に森へバイクで出かけようと誘われると、無表情の中に嬉しさが出て居る様だった。その姿に私の胸はキュンと鳴った。キランとセリカ……可愛い……。
そして子供たちやノアにも挨拶をした。
ノアはセリカが気に入ったのか抱きしめて挨拶をして居た。
他の子達も二人に笑顔を向けていた。子供慣れしていないキランとセリカは戸惑いながらも頷いていた。少しづつ家族になって行きたいものだ。
最後にオオブタちゃんたちのお世話をしてくれている、元傭兵隊のモンキー・ブランディの皆の所へと向かった。そこには森へのお出掛けから帰ってきていたココとキキも居て、大豚ちゃんたちと楽しそうにお喋り? をして居た。
(ココ アルジ スキ)
(キキ オカアサン スキ)
「ブモー」(あたしもよ)
「ブヒブヒ」(俺もだ)
「ブブボ」(いい子よね)
と私には聞こえた。
キランとセリカは目をぱちくりさせて、目の前で繰り広げられている様子に驚いて居る様だった。
「みんなー、新しい家族のキランとセリカですよ、仲良くしてくださいねー」
「おう、ララ様、こりゃまた綺麗処を捕まえてきたねー」
「キラン、セリカ、宜しくなー、俺達はもと傭兵だ。困った事が有ったら何でも言ってくれよな」
「「有難うございます……」」
「まあ、金はねーんだけどな」
「恋人を紹介してくれってーのもちょっと無理だなー」
そう言いながらキランとセリカを囲みながらワハハハッと笑う皆は、とても優しそうな表情だった。キランとセリカの表情が乏しいところから色々と察してくれたのだろう。そこはやっぱり年の功だと思った。素敵な人達だ。
夜は皆で集まってキランとセリカの歓迎会を開いた。
皆から乾杯を求められて二人は戸惑っていたけれど、嫌がる様子は全くなかった。
セオもそんな二人の事を優しい表情で見つめていた。もしかしたらセオが辿っていたかもしれない道を歩いてきた二人を、家族として支えて行きたいと思っているのだろう。私もキランとセリカのやりたい事の手助けが出来れば良いなとそう思う夜だった。
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