第389話 王都店開店②
「これは魔石バイク隊の皆様、本日は開店のお手伝い有難うございます」
今日は、スター商会の護衛リーダーとして制服をビシッと着こなし、髪も纏め、男らしさ全開になっている、普段とは別人のようなメルキオールが、レオナルド達魔石バイク隊のメンバーを護衛のサポート係として迎え入れてくれた。
王都店には護衛室という物も作って在り、その部屋の窓からは店周りが見れる様にしてあり、そして勿論休憩室としても使えるのだが、何よりもオクタヴィアンの制作した通信魔道具を使える、指示室ともなっていた。
オクタヴィアンの通信魔道具はアレからまた進化して、もっと魔力を使わないトランシーバーの様な物も作り上げた。指示室の通信魔道具が親となり、子機となる通話魔道具を護衛達皆が持っている。
子機同士は王都なら王都、ブルージェ領ならブルージェ領でしか繋がらないが、指示室にある親機にはどちらからも連絡可能だ。オクタヴィアンはアリナからの愛を受けて魔道具作りが益々進化していた。私もいずれそうなりたい物である。羨ましい。
魔石バイク隊の皆は今日その通信魔道具の使い方を学び、魔石バイク隊でも生かせる様にして行く予定だ。メルキオールの話を聞くレオナルド達のその姿は真剣その物だった。
そして私はそんな友人たちをメルキオールにお願いして、セオとクルトとまた玄関へと降りて行った。今日王都店初のエステの予約をして居るのはレオナルドの姉妹である、シャーロットとジュリエットだ。
この国のお姫様が御用達の店となれば、自然とスター・ブティック・ペコラのエステに人気が出るのは間違いないだろう。その上スター・ブティック・ペコラでは二人の名のついた化粧品も販売して居る。
スター商会と王家が懇意であることはこれでこの国中に広まっていくだろう、この事でウエルス商会のロイドがどう出るか……そしてウイルバート・チュトラリーがどう出てくるかが楽しみでもあった。売られた喧嘩は買ってやる! やられっぱなしじゃないんだからね! と気合が入る私だった。
シャーロットとジュリエットの乗った馬車は、レオナルド達の馬車とは正反対で、お忍びと分かるような落ち着いた色合いの、黒に近いような濃い茶色の馬車だった。王家の紋章は入ってはいるが目立たない様に同じ色合いの物で付けてあった。
その上カーテンも閉じられていて誰が乗っているかもわからない。かえってお忍びですよと宣伝してている様にも私からは見えるのだけど、貴族のお忍びではそれがマナーなのだとクルトが教えてくれた。つまり私の様に金馬君に乗って堂々と何処へでも出かける姫様はマナー違反のようだ。勿論そんな事を遠回しに言われていても気にしない私なのだった。だって前世は庶民ですからね。
「ララ様」「ララ姫様」
シャーロットとジュリエットは御者の手を借りて優雅に降りて来た。
流石お姫様だとクルトが感心していた。間違っても馬車から飛び降りる様な事はこの二人はしないだろう。勿論私だってそんな事はしないけれどね。(たぶん……)
そして何よりも驚いたのが、二人の護衛として来た人物だった。
なんとマティルドゥとオクタヴィアンの兄である、デッドリック・シモンが二人のお姫様付きの護衛として一緒に来たのだ。なんでもレチェンテ王の計らいらしい。
「父上がスター商会へと行くならば、ララ様の事を知っている者でないとと仰ったのですわ」
「デッドリック様には急な事で申し訳なかったのですけれども、私達は心強かったですわ」
二人の姫様に微笑まれたデッドリックは、少し頬を染めながら「お気になさらず……」と小さく呟いていた。女性が苦手だと言って居たけれど、グイグイ攻め込んでくる女性が苦手なのだろう、自分の護衛対象である姫様の事は大丈夫そうだった。良かった良かった。
二人の姫様を連れてスター・ブティック・ペコラへと向かった。
予約をしてあるので、ニカノールとティボールドが待ち構えていてくれた。
本来ならば、スター・ブティック・ペコラの入口からエステのお客様も入る物なのだが、今日の開店の混雑と、レチェンテ国のお姫様の入店という事で、スター商会側の入口から入って貰い、直接二階にあるエステルームへと二人を案内した。
一般客が押しかけている店内にお姫様を通すのはいくら宣伝効果が欲しいとはいえ出来る物では無かった。二人がお忍びで来ている意味もなくなるし、何よりも人前に簡単にお姫様を出すわけには行かないだろう。
つまり私は全てにおいて姫としては色々と規格外の様だ。クルトがため息をつく理由が、シャーロットとジュリエットを見ていて少しだけ分かった気がした。見習わなければならないところが沢山ある様だ……
「シャーロット様、ジュリエット様、ようこそお越しくださいました、店長であり、本日お二人のエステを担当させて頂きますニカノールと申します。どうか気軽に ”ニカ” とお呼び下さいませ」
「まあ、ニカ様はとってもお美しいのですわねー」
「本当ですわー、まるでダイアモンドの様ですわー」
シャーロットとジュリエットはニカノールの男性とは思えない美しさにうっとりとしていた。ニカノールの美しさは努力の甲斐あって、以前よりも何倍も増している。輝く宝石のようだと言われるのも分かる気がした。
「シャーロット様、ジュリエット様、私はスター・ブティック・ペコラの支配人のティボールド・ウエルスと申します。ルド・エルスとして小説も書いておりますのでエステの待ち時間の間、本についてでもお話いたしましょう、今日はスターベアー・ベーカリーのお菓子も用意してございますので、ゆっくりとおくつろぎくださいませ」
シャーロットとジュリエットはティボールドの挨拶を聞くと、目をキラキラとさせてティボールドの事を見ていた。本好きの二人だ、目の前に小説家が現れたのでテンションが上がったのだろう。
それにルド・エルスはマダムたちに人気がある。流行に敏感なシャーロットとジュリエットが知らないはずが無かった。勿論未婚の彼女たちがティボールドの本を読んでいるかまでは分からないけれど……
ティボールドとニカノールに二人のお姫様の事をお願いすると、私とセオとクルトは早めのお昼を摂る事にした。廊下を歩きながら外を見て見ると、店周りの人混みは相変わらず凄い物だった。
護衛の皆が客を綺麗に並べ、道行く人の邪魔にならない様にしていた。各店の店の名前を書いた最後尾のプラカードも持っている。ブルージェ領での経験が活かされて居る様で、特に混乱も起きていない様だった。流石スター商会の護衛達だ。素晴らしい!
食堂へと向かうと、招待客で前日から来ていた皆が寛いでいた。食堂にはダイニングテーブルだけでなく、ソファセットも置いてあるので、皆でそちらで話し込んでいる様だった。
私達もそんな皆の近くへと行って昼食を摂りながら会話に参加させて貰う事にした。
特にイベント担当者のローガンがピエールの兄であるヘンリー・ドルダンと意気投合して盛り上がっていた。ヘンリーには今後イベントに参加して貰いたい様だ。それもいい事だろう。
そして私の心の友であるカエサル・フェルッチョはベルティと他領の治安について話し合っていた。カエサルは色んな国を旅して居るので、他領だけでなく、他国にも詳しい。
まだ商業ギルドのギルド長であるベルディには興味のある事の様だった。勿論新ギルド長のナサニエル・タイラーもその話を真剣に聞いていた。
そしてマルコの叔父であるビアンキもガハハハハッと笑いながら、自分の領について詳しく話ていた。皆仲良くなれた様で良かった良かった。星の会のメンバーがこれでまた増えそうだ。
食事を終えた私達はスター・リュミエール・リストランテに向かった。今日の夜は開店ディナーがある為、招待客が沢山来るので、私も下準備に参加しようと思ったのだ。きっとランチも凄い混んで休憩も取れていなかったのでは無いかと思って厨房に向かって見ると、心配することも無く順番にお昼も取れた様で、ランチが終わった今は既にディナーの準備に入っていた。ドルダンとチコが入った事で凄く戦力になった様だ。それにドワーフ人形達もいる。どうやら私とセオとクルトは必要無いようだった。
せっかくなので、店長のサシャにランチの様子を訪ねてみた。護衛の皆が、予約をしに来た客と、食事に来た客の列を初めから分けてくれていたので、大きな混乱も無く順調だった様だ。
ただし、レストランの予約は今日で一年先まで埋まってしまった様だった。まあ予想はしていた事なので仕方ないだろう。今後はキャンセル待ちと一年先の予約受け付けになるだろう。やはり王都にもブルージュ領にも二店舗目が必要かも知れない。その為には人材確保が必要なんだけれど……。
サシャとの会話を終えると、私は招待ディナーに向けて自分の準備をする事にした。
スター商会の会頭として恥ずかしくない様に身支度を整えなければならない、セオとクルトも私の応接室と一緒に向かい、繋ぎ部屋になっている自室に戻ってディナーに向けて着替えをすることになった、早い人はおやつの時間ぐらいにはやって来る、急がなければならないだろう。
先ずはここまでの汗を落とすため湯浴みをした。今日スター・ブティック・ペコラで開店記念の新商品として発売されたベルガモットの香りのシャンプーを使う、爽やかでフローラルな香りが私を包み込んだ。きっと香りに惹かれて新商品の事を訪ねて来る人が出るだろう。顔が自然と緩んだ。
髪を乾かし、ドレスに着替えた。今日のドレスはワインレッドの深みのある色合いにベージュの花柄が入ったドレスだ。ふわふわとしたレースがあしらわれていて、ウエスト部分には花の飾りもついている。少し私には可愛すぎるのではないかと思ったが、ブリアンナとマイラに、とっても似合って居ると太鼓判を押されたので大丈夫だろう。
これもスター・ブティック・ペコラで販売する商品となるので私は宣伝係だ、たっぷり笑顔を振りまいてドレスの良さをアピールしたいと思う。
そして髪には花柄とお揃いのリボンをつけた。これは勿論武器にもなる代物だ。太もも部分には短剣を仕込み、いつ何があっても大丈夫なようにしておく、ドレスは私の戦闘服なのだから。
私の準備が整ったところに、セオとクルトが時間を見計らったように部屋へとやって来た。
セオは黒の騎士服に身を包み腰には普段よりも豪華な剣を携えている、これもスター商会の剣の宣伝だ。セオが付けて居れば目立つこと間違いないだろう。
クルトは黒のスーツを着ている、普段はシャツにズボンというラフなスタイルが多いので、今日は執事のようだ。髪もオールバックにまとめていて執事に見えるので元奴隷には決して思われないだろう。二人共とても素敵だった。
「ララ、とっても可愛いよ、どんな魔獣も今日のララの可愛さの前には霞んでしまうね」
「ララ様、ドレスがとってもお似合いですよ、そうして居れば普通の令嬢に見えますね」
「フフフ、有難うございます。セオとクルトもとっても素敵です」
こうして私達三人は準備を整え終わると、ディナーにいらっしゃる招待客のお客様のお出迎えの為にスター・リュミエール・リストランテへと向かったのだった。
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